泣かせるねぇ
「一体どうして、僕が地下七百メートルに埋まってるだなんて話を本気にしたんだ」
「悪いかよ!」
むすっとしているモジャラを気にも止めずに、風魔はまた大笑いをした。
「しかも、一時間も二人で穴を掘ってたんだって? 泣かせるねぇ」
風魔は笑いすぎて本当に涙を流している。
かわうそ料理店は、今夜も妖怪たちの溜まり場になっていた。
夜多郎におぶってもらって、ようやく風魔に再会したモジャラだが、精も根も尽き果てるほど心配して働いたことを風魔本人はちっとも汲み取ってくれず、モジャラはさっきからずっと、からかわれっぱなしなのだ。
「それもこれも、風魔が勝手にいなくなったせいじゃないか!」
腹立ちまぎれにモジャラが叫ぶと、「いや、マシュラのせいだね」と風魔は答えた。
ちっとも赤くならないが、酒を飲んでいるのと、マシュラがもう帰ったのとで、かなり気が大きくなっているらしい。
「それにしても、先生がマシュラを連れて行ってくれて本当に良かった。じゃなきゃ僕は今頃過労死してる。お礼が言いたいくらいだよ。毎回思うけどさ、マシュラの頭は大丈夫なのか? 魔力も変だよ。どうかしているよ。誰か封じ込めてくれよ。
……昨夜もさ、一つ屋根の下で寝るなんてことになって、僕は絶対マシュラに殺されると思ったよ。幸い、かわうそが早起きで店が開いていたから、ここで寝させてもらってたんだ」
「……そ、そりゃね、マシュラがいると大変だという事はオイラにもよく分かりますよ! でも、オイラには一言くらいあったっていいじゃないか! かわうそのとこに行くって、言ってくれてもいいじゃないか!!」
「どこへ行こうが、風魔の勝手でしょー」
真摯な心の叫びを「カラスの勝手でしょー」の風魔バージョンで返されたので、モジャラは心底頭にきた。もう我慢が出来なくなって、テーブルの上から風魔に殴りかかろうとした。
「やめてっ、やめてっ!」
そこで間に入ったのがかわうそだ。
かわうそは目をうるうるさせながら、「ケンカなら外でやってよぉ〜! お店でやるのはやめて〜っ!」と手を合わせた。
「もちろん、店の中じゃやらないよ」と風魔は笑った。
「だけど、どうする? モジャラ、外に出ようか? そんなに僕に瞬殺されたいのなら」
「うぅ〜! クソォ〜!」
今更ながら、自分が相手よりもはるかに小さいということに気づき、モジャラは歯ぎしりをした。
「ね〜え、二人ともぉ! 仲良くしてよぉ〜!」
「そうだ、そうだ! そんな、ケンカにもならないケンカはやめろ!」
「夜多郎、それは言っちゃダメだよぉ!」
「あ、そうだな。モジャラがかわいそうだな」
「それがダメなんだってばぁ〜!!」
「ふ、二人とも…ひどい……」
モジャラは心に言葉の棘が刺さって抜けなくなった。それで、戦意が消失した。
しかしまあ、風魔の方も、酒で酔っているせいか、いつもより上機嫌で、ケンカのケの字もする気は無いらしい。
「じゃあ、モジャラ、仲良くしておこうか」と、すぐに右手を出した。そして、仲直り、仲直りと呟きながら、勝手にモジャラの左手を掴んで振り回した。モジャラはたまらず悲鳴を上げた。
「やめろ! 手が抜ける!! わかった、もう仲直りしたからぁ!」
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