あやかし村日和 〜死神ドロの恋愛成就大作戦〜
Fata.シャーロック
夏が始まった!
太陽が照りっぱなし。陽炎がゆらゆら。
大地はどこもかしこもフライパン並に熱せられて、裸足で踏めばじゅわ~っと焼き肉が出来そうだ。
「山だ!海だ!」と楽しいだけなら良いのだが、やや迷惑な夏が始まった。
雲が出れば少しは涼しくなるのにそんな気配もなく、 ただただ暑い日々が続き、あの世とこの世の狭間にある「あやかし村」の妖怪たちも参っていた。
「こうも暑い日が続くと、もう冷やし中華かそうめんしか食べる気がしない」と
「おいらは、アイスを腹いっぱい食いたい」とモジャラが言った。
村の外れに立つ小屋の中で、二人ともだれていた。
昼食はまだだが、そもそも作る気がしないのでただ床に転がっている。
風魔は、一見人間のような姿かたちをしているが、世界の初めから生き続けてきた風が妖怪になったものだ。
生きてきた年月が長いだけに何でも知っているので頼られることが多いが、風だけに風らしく、毎日自由気ままにぶらぶらと暮らしている。
彼はぼんやりとした灰色の目で宙を見る。
肩まである真っ白な髪と、着崩れた灰色の着物の裾が 意図しなくても起こる風にさわさわとなびいている。
ただし、彼は悲しいかな、自らが起こした風を「涼しい」と感じることがない。
モジャラは、自分の小屋の掃除をさぼった風魔のおかげでほこりの玉から産まれた、こぶし大の毛玉の妖怪だ。 (ちなみに風魔は、モジャラが生まれてから頻繁に小屋の掃除をするようになった)
クリーム色のほわほわとした体に、大きな目が二つ付いている。 手足も細い毛で出来ているのだが、握力はなかなかに強い。
現に今も、風魔の起こす風に飛ばされることなく床に寝転がっている。
「とにかくアイスが食べたい……じゃないと、暑さと空腹で死ぬ……」
モジャラがわめくと、
「アイスは腹にたまらないし、そもそもモジャラは死なないから却下」と風魔は冷たく言い放った。
「え~! 死にそうに苦しい、って言って何が悪いんだよ~! 食べたいものは食べたいんだよ!」
立ち上がるモジャラ。が、文句を言い終える前に、その体は風魔の細い指でひょい、とつまみあげられた。続いて風魔は頬を膨らませ、開け放してある小屋の扉からモジャラを吹き飛ばそうとした。
「あ~~~~やめて~~~~!!」
「モジャラ、君は勝手にこの小屋で産まれた上に居候で、僕はとても迷惑しているのに」
「う~~~~~~やめてください~~~~~~!!」
「よくまあそんなことが言えたもんだね?」
「あ~~~~~~ごめんなさい~~~~~~助けてください~~~~~!!」
暑さのせいで風魔も短気になっているのだろうが、 とりあえず怒らせたら世界の果てまで飛ばされかねない。
モジャラは震えあがって、つままれたまま空中で土下座した。
「わ、私めが、いたらぬばかりにとんだことをしでかしてしまいました……。なにとぞお許しを、お・ゆ・る・し・を! あ~めん……」
モジャラは空中で米つきバッタのごとく頭を下げる。
風魔はしばらくそれをじっと見ていたが、やがて興味を失って顔をそむけると、突然モジャラを指から放した。
「ああああああっ!」
モジャラは、て、て、て、て、てーーっと畳に落ちて転がった。
風魔はゆっくり立ち上がると、目を回しているモジャラには目もくれずに、足に下駄をつっかけ小屋から歩き出した。モジャラは驚いて風魔を追い掛けた。
「ふ、風魔! どこに行くんだよ~!」
「かわうそのところ」風魔の答えは短い。
――かわうそのところ、というのは、あやかし村の中ほどにある“あやかし本通り”に立ち並ぶ店の一つ、「かわうそ料理店」のことである。
妖怪たちの間ではなかなかに人気の店だ。行列ができるわけではないが、結構混む。
料理の味もいいが、この店が繁盛しているのは、店主であり板前である“川野かわうそ”の存在が大きい。
「かわうそのところって、おいらも一緒に行っていいだろ?おいらも腹が減ってるんだよ! 風魔~~連れてってくれよ~~」
突然風魔が振り返ったので、モジャラはどきりとして立ちすくんだ。
「他人に物を頼むときは、どうするんだっけ」
モジャラは再び土下座した。
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