十時はただいま発明中
さあ、それからが大変だった。
あれやこれやと日々の雑事をこなしながら一週間。
風魔とモジャラは、暇があれば夜多郎のあばら家のそばにある十時の家……というか物置小屋……に様子を見に行ったのだが、大体十時は一人で大騒ぎをしていて、進み具合を訪ねることはおろか、普通に挨拶を交わすことも出来なかった。
「やあ、こんにちは。十時。発明は進んでるかい?」
「ん、ぱっぱー! あんさんぶるすのシリカゲールなつよさおろち!」
(訳:うん、もちろん! かなりいい線行ってるよ!)
「……え? 『ぱっぱー!』ってなに?」
「みるすみー、いかんさーぐるぐるふぁいや!」
(訳:最高の、出来になりそうってこと!)
「……何語を喋ってるの?」
「グアダラハラ? くあっがルーペ!」
(訳:何言ってんの? 日本語に決まってるじゃないか!)
「だめだこりゃ……」
まあ、ざっとこんな調子である。
十時は発明に熱中し過ぎると、頭の回路がどこかやられてしまうらしい。
ある時なぞは、通りや家や店の軒下や川の中など、そこここに、ドラゴンフルーツによく似た果実が落ちていて村中が騒然とした。
落ちているだけなら良かったのだが、それはドロドロの粘液を滴らせる上に、かなり臭かったので問題になったのだ。
風魔は鼻をつまんだ村の妖怪たちに頼まれて、風向きを地獄の方へ変え、悪臭を飛ばした。
(地獄は、何というか死臭が凄いので、新たな悪臭が加わったところで何の支障も無いのである)
しかし、嫌な予感がしたので、風魔はそのまま十時の家へ向かった。
すると、十時は珍しく二人で大騒ぎをしていた。
「きゃ~!! 何でこんな変な臭いになっちゃうのよ?! しかも何で増えちゃうの?!」
「わう~!! はやながしろさ、あうろうかいみ~! あらららねかみかみ!」
(訳:うわ~! マシュラちゃん、これ以上は止めてくれ! もう魔法は使わないで!)
風魔がそこで目にしたものは、後から後から際限なく増えて十時の家からあふれ出るドラゴンフルーツもどきと、悪臭まみれになってそれを小屋から追い出そうと、つかんでは投げ、つかんでは投げる十時とマシュラの姿だった。
きっと、マシュラは十時の発明を手伝おうとして、こんな騒ぎを起こしてしまったのだろう。
風魔は、十時には悪いと思ったが、何も見なかったことにして、黙って踵を返した。
でもでも。
その時、十時達を見捨てたバチが当たったのか、その数日後に、今度は風魔が本当に困った状況に立たされたのである。
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