第5話
七夕まつりはよく晴れて、わたしは午後三時半から準備を始めた。
春菜ちゃんに着付けを教わってから、とても早く着付けることができるようになった。
それと一花ちゃんのヘアアレンジもめちゃくちゃ簡単で、こっちも数分で終わって京都に修学旅行で行ったときに買った髪飾りをつけた。
「よっし! できた~」
鏡で見て確認してから、時計を見てから行くことにした。
待ち合わせの時間まではあと十分くらい。
LINEを見ると、
『ここで待ってるよ』
そのメッセージと一緒に写真が送られてきた。写真は近所にある公園で、もう来てるみたい。
わたしは財布を入れた小さなポーチを持って、玄関に置いてあった下駄を履いて家を出る。
「行ってきます!」
勢いよく玄関を出ると、もう浴衣姿の小学生が多くいる。
近所の公園まで歩くことにした。
浴衣を着るのは三、四年ぶりで、高校生になってからは着ていなかったから違和感がありすぎだった。
「慧~! お待たせ、ごめん」
慧の待ち合わせ場所で合流できた。
浴衣姿を見せるのはあんまりないので、少しだけめちゃくちゃ恥ずかしく感じる。
「お~……
まさかの慧がちょっとリアクションが微妙で、こっちが逆に慌ててしまったんだ。
「どうしたの? 変かな?」
慧は首を横に振る。
「変じゃないけど……見慣れないんだ」
「慧……顔、真っ赤だけど。大丈夫?」
「平気……蒼空、行こう。早くしないと店が閉まっちゃう」
一緒に屋台の食べ物を買いに行く。
カランコロンと下駄の音を立てながら、慧の隣を歩いていく。
心臓の鼓動が激しく波打っている。
「人混み、すごいな……」
もともと狭い歩道には多くの人が歩いていて、とても身動きが取りにくくなっている。
「ねぇ……すごいよね。毎年、七夕まつりは」
「そうだな」
慧に左手をそっと握られた。
「え……」
「手を離すなよ? 人波に飲まれるし、浴衣を着てるから動きにくいでしょ?」
わたしはびっくりして、さっきよりもとても心臓がバクバクと速まっている。
「うん、わかった……いいよ」
慧はうなずくと、すぐに歩き始めた。
でも、歩くスピードは少しだけ遅かった。
浴衣姿のわたしに合わせてくれているみたいで、どんどん好きな気持ちが溢れてくる。
最初に行ったのはかき氷の屋台だった。
わたしが毎年行ってるかき氷の屋台。
慧と並んでいると、少しだけ昔のことを思い出す。
よくおこづかいを財布に入れて、毎年一番目に並んでかき氷を食べていた気がする。
百円を渡して、そのままシロップを選ぶ。
「何にする? 慧、かき氷のシロップ」
「じゃ、レモンで」
わたしは迷いなくブルーハワイにした。
かき氷機が氷を削る音が懐かしい。
かき氷をお店の人たちから渡されて、食べるスペースへと向かう。
「懐かしいな、かき氷。高校生になってから、食べたかもしれない!」
「そっか~、そうだよね。慧は去年、部活とかで来れなかったしね」
そのあとも屋台の射的をすることにした。
わたしの目当ては一番真ん中にあるぬいぐるみだ。
慧は当たればいいらしく、当たったお菓子をもらっている。
「じゃあ、わたしもやるね!」
わたしは射的の銃を持って、狙いを定めて引き金を引いた。
景品が勢いよく落ちて、わたしはぬいぐるみをゲットすることができたの。
「やった~! かわいいな、これ……」
その様子を見守っていた慧はお菓子を持って、笑いをこらえているようだった。
「蒼空……小学生みたいなリアクションじゃん! めちゃくちゃ笑える……」
慧がもう吹き出して、笑い声をあげている。
「ちょっと! 慧、笑いすぎだよ。七夕飾りを見に行かないの? 今年はすごいみたいだよ?」
慧の笑いの発作が収まるまでにな目的地にたどり着いた。
そこはわたしと慧が卒業した小学校で、七夕飾りが飾られているんだ。
短冊に願い事を書けるようになっているので、毎年短冊を書きに来ていた。
わたしはブルーの短冊にマジックですぐに願い事を書いた。
「蒼空。早いな……書くの」
「うん、いまはこれ一択だからね!」
慧は少しだけ悩みながら、願い事を書いている。
後ろから見ようかなと思っていたけど、慧ががっちりガードされてしまって見えなかった。
「ねぇ、なんてお願いするの?」
「すぐに飾るから、あとで見ろよな? いまは恥ずかしいから!」
そのまま慧は朝礼台にくくりつけられた七夕飾りに、短冊を慧につけてもらうことにした。
「蒼空の願い事は……『赤点脱出』って」
「うん、前期期末は巻き返そうって、思ってるし……」
「蒼空らしいけどな、この願い事」
わたしは少しだけ照れながら、短冊をくくりつけられるのを見ていた。
そして、慧の願い事を見せてくれた。
「慧は……」
――蒼空と一緒にいられますように。
わたしはその願い事を見て、とてもびっくりした。
「え!? 慧……どうしたの!」
くくりつけた短冊にはその願い事がはっきり見える。
「蒼空、話したいことがあるんだ。少しだけ人のいない所に行かないか?」
わたしはドキドキしながら、慧のあとを追いかけた。
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