第6話

 わたしは人のいない公園に着いて、ベンチに座った。

 下駄を脱ぐと、鼻緒の触れるところを見ると少しだけ赤くなっている。

 ヒリヒリして、ちょっと痛くなってる。

「大丈夫? 足」

 けいはベンチには座らずに、さっき買っていたラムネを飲んでいる。

「うん、慧も座らないの?」

「あ、このままでいいよ」

 わたしは少しだけ擦れてい痛かったところにポーチからばんそうこうを貼ったときだ。

蒼空そら

 慧がこっちを真剣に見ている。

 目が合うと、変に意識しそうになる。

 もしかしたら……告白されるの?

「そういえば……話って、なに? 慧」

 ポーチをいじっていりながら慧に向かって話したときだ。

「そのことなんだけど、蒼空」

 慧はとても悲しそうな表情をしている。

「実は……俺、夏休みに転校するんだ」

「えっ」

 心臓が止まりそうになった。

「冗談だよね……? 慧、信じられないんだけど」

 心のなかに胸騒ぎが襲う、慧はうつむいたままこっちを向いていなかった。

「ごめん、蒼空。ほんとなんだよ、父さんの仕事の都合で」

 手が震えて、ポーチに握りしめてないといけないの。

「慧は、どこに行くの?」

 恐る恐る聞いてみたけど、その答えは自分の予想とは違った。

「……アメリカのロサンゼルス、八月の終わりに日本を出るんだ」

「アメリカ……とても遠いじゃん」

 わたしは下駄を履いて立ち上がる。

「なんで……いま、言うの?」

 ポロポロと涙が溢れてくる。

「蒼空……」

 慧はびっくりしている。

 いきなり、泣き始めたから驚くと思う。

 それを無視して話していく。

「いままで、七夕まつりに行くの、楽しみにしてたのに……ずっと楽しかったのに」

 それ以上は言えなかった。

「ごめん、慧。言い過ぎた」

「いや、大丈夫……」

「帰るね。もう疲れたから」

 わたしは家に帰ることにした。

 歩く足が重く感じる。

「ただいま~」

「おかえりなさい。蒼空」

「お風呂、先に入るね。あとまつりで食べてきちゃったから、ご飯はいらない」

 母さんは少しだけ気になっていたけど、すぐにキッチンに戻った。

 着替えとタオルを持って、お風呂場に向かった。

 洗面台でメイクを落としたり、髪をおろした。

 シャワーを浴びたりしていると、さっきの言葉が頭に響く。

「なんで言うのかな……」

 いきなり言われたことがショックだった。

 それよりも、慧が夏休みが終わったら、いなくなってしまうことの方がショックが大きかった。

 左手には慧に握られた感覚が残っている。





 月曜日。

 わたしは少しだけ憂うつな気分になる。


「蒼空~、慧くんが来てるよ?」

「わかった~! 行くよ!」

 夏服に着替えて、そのまま外に出る。

 玄関には慧が立っていた。

「おはよう。蒼空……」

「おはよう、慧。早く行こ」

 わたしはドアを開けて、すぐに歩き始めた。

 やっぱり気まずくて、会話がなかなか続かなかった。

 空を見上げると、梅雨明けした暗く重い雲がなくなった。

 でも、わたしの心のなかはまだ梅雨空のように暗かった。

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