第13話

 八月の中旬に入ろうとしている頃。

 猛暑日が続いて、外に出るのも億劫になっている。

 わたしは朝早くに起きて、準備をした。

 そのときに誕生日プレゼントでもらったイヤリングをつけた。

 シンプルなものだったけど、どの服装に似合うから気に入っている。

 けいが日本を出発する日を迎えた。

蒼空そら、忘れ物はないね?」

「うん、行ってきます!」


 わたしは羽田空港に向かう。修学旅行でも使っていた空港だったから、行き方は知っていた。

 電車に乗っていると、LINEのメッセージが来た。

『蒼空はここで待っててくれる? 迎えに行くから』

 慧にスタンプを送ると、すぐに電車の車窓を見た。も

 うそこに海が見えていて、遠くに国際線ターミナルが見えてきた。

 羽田空港国際線ターミナルの最寄り駅は、もうすぐそこにターミナルが見える場所にある。

「蒼空~! お待たせ、大丈夫だった?」

「うん。大丈夫だったよ」

 慧が迎えに来てくれて、一緒にターミナルにやって来た。

「慧、陸上部の子とか……来てないの? クラスメイトも」

「うん……蒼空だけに。出国する日を教えたんだ。最後は一緒にいたかったから」

 その言葉を聞いて、思わずニヤニヤしてしまうのを隠すように口を閉じたけど……思うように抑えることができない。

「慧って、昔からそういうところあるよね」

「そうか?」

 わたしは慧に手を引かれて、そのまま飛行機の滑走路が見える五階の展望デッキにやって来た。

「うわぁ! きれいだね」

 そこは滑走路の向こうが海で、とても遠くまで見えた。

 轟音を立てながら滑走路を飛び立つ飛行機は、慧を乗せて広い海を越えてアメリカに向かうんだろうな……。

「蒼空、どうした?」

 わたしはバッグにしまっていたプレゼントを慧に渡す。

「慧……これ、誕生日プレゼント……イヤリングのお返しじゃないけど」

 渡したのはシンプルなブレスレット、スポーツ選手が使ってるのと同じものだ。

「え、いいの? これ」

「うん。いいの……慧からもらったイヤリングよりは、安くなっちゃうけど」

 慧はまるで小さな子みたいな笑顔でブレスレットを見つめたり、ブレスレットをつけてこっちに見せてきたりもしていた。

「ありがとう! 蒼空、これ、お守りにするよ」

 満面の笑みでわたしを見てきたとき、我慢していたものが溢れだしてきた。

 視界がにじんで、ぼやけて慧の表情が見えなくなってきた。

「慧!」

 わたしは慧に抱きつく。

「やっぱり……寂しいよ……」

 慧は無言でわたしを抱きしめ返して、そっと体を離して手を繋ぐ。

「蒼空、遠く離れた場所にいても。心は一つになる」

「うん」

 慧の目を見ると、とてもまっすぐだ。

「蒼空の名前は『あおぞら』って読むじゃん?」

 突然、そう話した。わたしの名前は確かにそう読める。

「うん、そうだけど?」

 慧が空を指さして、そう言った。

「空の色はどこまでも広がる自由な色だと思う。だから蒼空と離れていても、同じ空の下にいるから寂しくないよ」

 そう言う慧も涙目になっている。

 もうお互いに泣きそうになっていたんだ。

「――俺も泣いても良いか?」

「うん……」

 慧の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちていく。

 わたしもそれにつられてるように泣いてしまった。



 そして、慧が乗る飛行機の搭乗手続きが始まるようで、慧の母さんが呼びにきた。

 そのまま出国エリアまで歩いていく。

「もう、蒼空はここまでだね」

 ここから先は飛行機に乗る乗客しか行けないエリアみたいだった。


 ここで最後のお別れだった。


「蒼空ちゃん。これからも、よろしくね」

「はい」

「慧も! 蒼空ちゃんにあいさつ、しなさい」

 慧は母さんの前だからか、ちょっと恥ずかしそうにしている。

 そのときに慧がメモを渡してきた。

「え? どうしたの……」

「向こうの住所。文通だったら時差が関係なく届くから、大丈夫だと思う」

 メモをちゃんとしまってから、わたしはうなずく。

「うん。わたしの住所は年賀状に書いてあるから、大丈夫?」

「うん、じゃあ、またな!」

 慧はすぐに手を振りながら、こっちを向いていた。

「行ってらっしゃい! 慧」

 わたしは慧が見えなくなるまで、手を振っていた。

 そして、急いでさっきまでいた展望デッキに向かった。

 スマホの時計を見て、すぐにデッキの飛行機を見つめる。

「あった!」

 慧が乗っているはずの飛行機が動き始めていく。

 あの飛行機がどんどん滑走路を走っていく。慧がデッキの方の窓側にいれば、気づくかな?

 そして、機体は大空へと飛んでいった。

 わたしはもう前に進める。

 慧の飛行機が見えなくなってから、空港をあとにした。

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