第8話
放課後。
今日は一緒に帰れるので、慧に夏休みにある花火大会に誘った。
「慧。花火大会に行かない?」
「え? 花火大会……ああ」
花火大会というのは学校の最寄り駅にある国営公園が毎年やっている。
わたしも家から見たりもしていた。
目の前にあるマンションが邪魔だけど、高く上がるやつはよく見えるんだ。
「いいけど? 蒼空は予定は大丈夫なのか?」
「うん。そこは空けてあるの」
慧はスマホのスケジュールを見ていた。
なんか険しい表情をしているけど……やっぱり、いきなりだったかな?
「いいよ。花火大会が始まるまでには行ける」
「え!」
わたしは思わずびっくりしてしまった。
「いいの? 部活とかで、忙しいのに」
陸上部はずっと練習とかしているし、たまに試合とかもあるから……かなり忙しいと思う。
「大丈夫だよ。心配するなって、蒼空……」
慧は何か言いかけたみたいだけど、その言葉はだいたいわかった。
夏休みが終われば、慧はアメリカに行くことになる。
日本でいる時間はだんだんと少なくなっていく。
二人で並んで帰れるのも、この夏で最後になるんだ。
「慧。気にしなくてもいいよ」
「うん。あと花火大会の日って、蒼空の誕生日だよな?」
わたしは慧のスマホ画面を見せてくれた。
今年の花火大会の日程はわたしの十七歳の誕生日当日だったの。
「そうなんだ……すごいね! わたしの誕生日に花火を上げてくれるんだよね? すごいよね」
わたしの言ったことを聞いて、慧が吹き出してしまった。
「ヤバい……ハハハ! お前、それ、言うか普通」
変に笑いのツボにハマってるみたいで、わたしもつられて笑ってしまった。
笑ってる顔を見てるとこっちも、笑っちゃいそうになる。
ずっと昔から笑顔は変わってない。
ドキドキして、慧のことが好きなのがどんどんと大きくなってくる。
転校することを聞かされたときから、ずっと一緒にいたい気持ちが大きくなってる。
この気持ちをいつ伝えられるんだろう?
未だに笑いのツボにハマってる慧が呼吸困難になるまで陥っていて、それが原因でむせたりもしている。
「大丈夫? 慧……笑いすぎだよ」
「あ~、笑った」
慧の背中をさすり終わって、わたしはスカートのポケットに入れていたスマホに手に取って歩き始めた。
慧はまだ顔が赤い、あれほど笑ってれば赤くなるかも。
大きな交差点に着くと、いま赤になったばかりみたいだ。
無言のまま信号の色が変わるのを待っていた。
まだ心臓の鼓動が速い。
「慧」
「蒼空」
ほぼ同時に呼びかけていたのに、気がついて少しだけ顔が赤くなる。
「蒼空から話していいよ」
そう言った慧はそっぽを向いている。
「うん……ロサンゼルスって、ディズニーランドあったっけ?」
「え!? ディズニーランド……?」
慧はすごい勢いでこっちを向いた。めちゃくちゃびっくりしている。
「うん。カリフォルニアにあるじゃん」
「ディズニーランドはあるよ。でも、俺が暮らす家からはかなり遠い」
慧は思い出しながら話している。
「そうなの? そうなんだね~」
「蒼空、もしかして……行きたいのか?」
その言葉を聞いて体がビクッと反応した。
冷や汗が流れてきた……慧にバレたかも?
「世界中にあるディズニーランド。全部に行ってみたいの。大学生になったらさ、バイトして旅費とかを貯めて行くの」
まだ海外には行ったことがないので、そっちに行ってみたいと高校生になってから思うようになっていた。
「ふーん……蒼空らしいな、世界制覇するのか」
「うん、一番行きたいのはフロリダかな?」
慧はそのまま信号が変わったらしくて、横断歩道を歩き始めた。
わたしも一緒に歩き始めた。
いつもの日常も、あと少しで終わるかもしれない。
そのときまでに気持ちを伝えたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます