第9話

 七月二十日。

 夏休み前日の全校集会が体育館で行われていた。

 うちの学校は前期と後期の二学期制の私立高校で、この時期はまだ前期の終業式ではないの。

 この時期の体育館は蒸し暑さとの戦いになる。

 でも、高校に入ってからはそんなことが少なくなった。

 体育館はいまの三年生が入学したときに建て替えて新しくなっている。しかも、冷暖房完備のめちゃくちゃいい体育館になっていた。

 でも、全校生徒が全員集まると、冷房の効きが悪くなるのは仕方がないと思っている。

「校長先生の話です」

「えー、明日から夏休みになりますが、高校生としての自覚と持ち――」

 あーあ、また校長先生の長い話が始まった。

 そんな雰囲気が全校生徒のなかから出てきている。

 わたしはフラフラしているみたいで、そのときに春菜ちゃんに愚痴る。

「春菜ちゃん……まだ続くの?」

「仕方ないよ。というか、大丈夫? 顔、真っ青だよ?」

 春菜ちゃんの反応でやっぱり変なんだと、実感することができた。

 体の異変が学校に来てから、ずっとあるんだ。

 手足の感覚が無くてフラフラするのと、頭痛がある。あと、吐き気と体に熱がこもってるような感覚になってきた。

 もう限界になった。

 立っていられなくて、しゃがんでしまった。

「蒼空!? 大丈夫?」

 どうやら周りの人たちも気づいたのか、先生を呼んでくれたみたい。

「新城さん、水分補給はしてる?」

「学校に来てからは飲んでないです……」

 そのままわたしは保健室に副担任の佐伯先生と一緒に行った。








 保健室に来ると保健室の先生に事情を話している。

「え~と。たぶん、脱水症状が出てるから、しばらくここで安静にしていましょう。佐伯先生は戻ってもらって構いません」

「はい。お願いします」

 先生がわたしに経口補水液を飲ませてくれたけど、かなり最後の方が苦くてちょっと苦手だった。

 苦そうにしているのを見て、先生がコップに渡したときに言われた。

「苦く感じる? 水分が足りてない証拠だからね」

 わたしは少しだけ安静に全校集会が終わるまで、保健室で寝かせてもらうことにした。

 ベッドに寝ていると、生徒の話し声がどんどんと大きくなってきた。

「もう、教室に戻ります」

「新城さん、気を付けてね」

 わたしは教室に戻ると、みんなに心配されてしまった。

「大丈夫だった?」

「春菜ちゃん。心配させて、ごめんね。ただの脱水症状だから」

 すると、慧が近寄ってきた。

「え、慧。どうしたの?」

「これ、飲めば? さっき買ってきた」

 そう言って、慧からスポーツドリンクをもらう。

「ありがとう……慧」

 そして、教室では夏休み前日の課題を配られていくんだ。

 それを手短に終えて、先生が話をする。

「え~と、佐倉。前に来い!」

 突然、慧を教卓の前に指名した。

「聞いていると思うが、佐倉がクラスメイトである時間は今日が最後になります」

 夏休みまでは日本にいるけど、もしかしたらクラスメイトとして過ごすのは今日で最後という子も多い。

 慧も少しだけ寂しそうにしている。

「そこで! みんなからの寄せ書きを渡したいと思います!」

 これは慧は全く知らなくて、めちゃくちゃびっくりしている。

 実は慧が先週、学校を休んでいたときに寄せ書きを集めたんだ。

「え! マジで?」

「慧。アメリカでも、頑張れよ」

「うん……ありがとう、みんな!」

 寄せ書きを渡された慧は泣きそうになっている。

 それにつられそうになるのを我慢していた。

 慧がもう一緒に学校に行くことも、あと数週間後にはできないんだと実感してしまう。



「あ~あ。もう学校にも行けないのか……」

 教科書とかを持って帰る慧は大荷物で、サブバッグを持って帰るのを手伝った。

「慧、最後のとき、泣きそうだったじゃん?」

「うん。アメリカに行くのが寂しいんだよ。実はな……」

 慧は寂しそうにこっちを見る。

 それが大人に見える表情で、別人に見えたの。

「そうなんだ……花火大会の日まで、もしかしたら部活とかで会えないかも」

「部長、がんばれー」

 慧とこんな会話をするのも、できなくなるのが寂しく感じた。

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