第2章 夏の始まり

第4話

 七月の合唱コンクールも終わり、もう夏休みのカウントダウンが始まっていた。

 ある日、休み時間にけいが自分の席にきた。

蒼空そら、七夕まつりのことなんだけどさ」

「え? あ、もうすぐだよね」

 わたしと慧の地元では、毎年七夕に近い土日に七夕まつりを行っている。

 ほぼ毎年のように見に行ってたけど、高校生になってからは足が遠退いていた。

「それで……その、七夕まつりに行かない? 話したいこともあるから」

 慧がやたらと真剣な表情をして話したので、びっくりしながらうなずいた。

 わたしは慧に七夕まつりに誘われて、ちょっとドキドキし始めていた。



「――ってことがあって……」

 その学校帰り。

 わたしは春菜ちゃんと、高校が違うけど地元が同じの一花いちかちゃんと一緒にファミレスで話をした。

 二人ともびっくりした表情で、わたしの方を見てくるんだけど……。

「蒼空。それってデートのお誘いじゃないの?」

「一花ちゃん! 違うって、声大きいよ!」

「え、違うって……どういうこと?」

 一花ちゃんと春菜ちゃんは固まっていた。

「つきあってないの? もしかして、まだ」

 春菜ちゃんがびっくりした表情でわたしの方を見てきた。

「うん……告っても、告られてもいないし、まだ何にも進展してないから!」

「マジか~」

 一花ちゃんと春菜ちゃんはほぼ呆れてる。

「え、あの距離感でつきあってないって、ほぼ奇跡のレベルじゃない? 春菜ちゃんはどう思う?」

「わかるわ~。中学を卒業してから、すっかりつきあってるのかと思ってた」

 わたしは思わず持っていたジュースを落としそうになった。

 二人ともそんなこと、思ってたの!?

 というか、そう見られてたってことだよね? 恥ずかしい……。

 顔が熱くなる感覚をごまかすように持っていたジュースを飲む。

「で、一花ちゃんも呼んだのは、訳があるんだよね?」

「うん……実は浴衣に合うヘアスタイルとメイクを教えてほしいの! 一花ちゃんと春菜ちゃん、ヘアアレンジが得意だし」

 その言葉を聞いた二人はニコッと笑って、うなずいてくれたんだ。

「いいの!? 二人とも」

「うん。今週末、蒼空の家に行ってもいい? ヘアアレンジとメイクも教えるからさ」

「いいよ!」

 そして、今日は解散することにした。

 一花ちゃんと一緒の電車に乗っていくことになった。

「一花ちゃん、ありがとう。今日は時間合わせてくれて……」

「いいの、蒼空の友だちの春菜ちゃん、意気投合しちゃった。こちらこそ、紹介してくれてありがとう」

「うん……あとさ、蒼空は浴衣で行くつもり?」

 一花ちゃんはうなずくと、スマホでメモをしているみたいだ。

 一花ちゃんも同じ学校の最寄り駅を使っていて、私立で伝統のある女子高に通っているの。

 わたしも私立の共学に通っているけど、それでも一花ちゃんの学校の方が長い。

「一花ちゃんは高校はどう?」

「うーん……テストは簡単だけど、授業がうるさくなる」

 女子高ってそんなうるさくなるんだ……。

「そうなんだ……こっちは現社がめちゃくちゃ静かだよ」

「うらやましい……そっちにいた方がよかったかも」

 そう言ったとき、まもなく最寄り駅に着くアナウンスが聞こえてきた。

 ホームに降りると、一花ちゃんと家に来る日時を打ち合わせてから解散した。

「またね~、蒼空!」

「うん!」






 週末、来週末にある七夕まつりの服装とヘアアレンジを打ち合わせに、一花ちゃんと春菜ちゃん家に遊びに来た。

「あら! 一花ちゃんと春菜ちゃん。お久しぶりね、いらっしゃい」

「あ、こんにちは。お邪魔します」

 春菜ちゃんと一花ちゃんを部屋に案内すると、二人はそれぞれミニテーブルの周りに座った。

 わたしも近くに座る。

「それじゃあ……浴衣を見せてくれる?」

 クローゼットの中から出して、それを二人に見せる。

「紺色の浴衣か~。とても大人に見えるね」

「うん、おばあちゃんからもらったもの」

 紺色の浴衣は白で花が大きく描かれていて、帯は濃い紅色で飾り帯とかのタイプではなかった。

「浴衣、着付けようか? 少しだけイメージがしやすいと思う」

 春菜ちゃんは浴衣を着付け始めた。

「春菜ちゃん。着付け、できるんだね」

 一花ちゃんが驚いて手慣れた手つきで、着付けてくれる春菜ちゃんを見ていた。

「うん、わたしは習い事で浴衣とか着物を着てたから」

 春菜ちゃんが数分で着付けてくれたので、それを覚えるのは頑張らなきゃな。

「それじゃあ、そこのイスに座ってて~。メイクポーチとかはこれ?」

「うん……それ」

 それを取り出した一花ちゃんにバトンタッチで、そのままメイクをしてもらった。

 あとヘアアレンジは春菜ちゃんがめちゃくちゃ簡単だけど、とてもかわいいアレンジにしてくれたの。

「すごい! ありがとう……二人とも」

 わたしは鏡を見て嬉しくなった。

「蒼空、似合ってるよ! これで佐倉に告白してみたら?」

「そうだよ~」

 一花ちゃんにも春菜ちゃんにも言われてしまい、余計に慧のことを意識しそうになる。

「うん、そうしてみるよ。二人とも」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る