第3話

 六月の下旬の放課後。

 わたしは文芸部の部室にいた。

「あ、部長! こんにちはー」

 部室に部員がやって来た。

 それぞれ合唱コンクールの練習終えてから来たので、集合時間は自然と遅めだった。

「荷物は適当に置いておいてね~。ホワイトボードにやることを書いてあるからね」

「はーい!」

 一年生の佐伯美裕みひろくんと大島璃子さんがやって来て、二人は後輩の部員なんだ。

 あと、二年生はわたしと春菜ちゃん、七組の篠宮しのみや俊也しゅんやくんと特進コースの九組の鈴木璃空りくくんの四人。

 二年生の六月で文芸部の部長をしているのには理由があるんだ。

 それは唯一の三年生で前部長の市来いちき美華先輩のことだ。

 美華先輩が在籍しているのは鈴木くんと同じ特進コースだ。学年が上がるごとに大学受験に向けての準備が忙しくなっていくんだ。

 そのため去年の文化祭で一年生だったわたしに部長を引き継いで、先輩には受験に向けての準備に専念しているみたい。

 そんなわけで今年度から文芸部は、二年生が中心に部活を進めている。

 ちなみに副部長は篠宮くんで、ホワイトボードのきれいな字は彼の字だ。

 篠宮くんは書道部と兼部をしていて、ものすごく字が上手い。

「え~と。全員が揃ったことだし……部活を始めたいと思いまーす」

 みんなで話し合うのは文化祭の展示について、今日はこれがメインになる。

「え~と、クラスで文化祭のことは話が出てないと思いますが、早めに文化祭の準備を進めたいと思います」

 わたしはメモを見ながら、部員のみんなに話していく。

 今年の文化祭は『心』、みんなでこのテーマに合う展示を考えることになっていた。

「え~と。じゃあ……いま候補に上がってるのは、好きな作品のPOPを書くことがあるかな?」

「本屋みたいなやつだよね? 面白そうだね!」

 先生からも賛同をもらってはいたけど、部員のみんなが賛成していた。

 みんながたくさん好きな本を話し始めた。

「何が好きなの? みんなは」

 みんなの好きなジャンルは幅広くて、おすすめの本とかも紹介したりもしているんだ。

「じゃあ、今日はここで解散かな?」

 時計を見てみると、もう五時半になっていた。

 部員のみんなが部室を出たのと忘れ物がないかを確認して、わたしは部室の鍵を閉める。

「春菜ちゃん。鍵を返しに行くね~」

「うん。靴箱で待ってるよ!」

 わたしは急いで図書館に向かう。

 階段がいくつもある校舎内を歩いていく。

 二階の渡り廊下は道路の上に作られているし、増改築をしたのか校内はまるで迷路みたいな感じになっていて、一年生はちょっと大変そうだった。

 わたしはすぐに図書館に部室の鍵を返却して、そのまま下駄箱にダッシュする。

「お待たせ~! 春菜ちゃん」

「いいの、ちょうど雨も止んでるし」

 わたしは昇降口に出ると、ホッとした。

 外は雨上がりの夕焼けが広がっている。

「じゃあ、帰ろっか!」

 昇降口を出るとムワっとした蒸し暑い空気が体を包み込んできた。

「あ~! 梅雨が明けてほしい!」

 春菜ちゃんは嫌そうな顔をして、頭を抱える。

「どうして?」

「うち、天パだから……この時期からはまとまらなくて」

 春菜ちゃんは柔らかい髪質の天然パーマで、緩く波打つ髪の毛をしているんだ。

「そうなんだ」

「うん。湿気が大敵なの、うちの髪質」

 駅に行くまで、わたしは春菜ちゃんと話していた。

 電車に乗るとけいからLINEが来ていたのに気がついた。

 それは明日、提出するノートの写しを送ってほしいと書かれてあった。

『ごめん、そのノート、学校にあるんだけど』

 わたしはメッセージを返すと、慧からすぐに返信がきた。

『サンキュ! 他を当たってみる』

 慧……現社のときだけ寝てるからな……大丈夫かな?

 学年トップのくせに……そういうところがちょっと腹立つけど。

 そのメッセージを見てから、机にスマホを置いた。

 それから慧は無事にノートを提出することができた(陸上部の子に写しを送ってもらったみたい)、そのあとからは慧も現社の授業を聞いているみたい。






 カレンダーはもう七月だ。

 もう体育祭から一ヶ月が経とうとしているけど、うちの学校は次の学校行事を迎えた。

 学校では七月上旬に近くにあるホールで合唱コンクールを行っているの。

 クラス対抗で体育祭の次の行事のため、体育祭のリベンジをすることが多い。

 曲は自由曲のみで、うちのクラスは混声四部合唱の『大地讃頌』で、そのハーモニーを会場のホールで響かせることができた。

 二年生九クラスのなかで最優秀賞ではなかった。

「もしかてして……その上があるんじゃ?」

 春菜ちゃんと話していたのは、文芸部の卒業生の先輩方が話していた学校長賞の話だった。

「――今年は学校長賞のクラスが一クラスあります。十年ぶりに出ました!」

 その先生が話した直後にドキッとしてしまう。

「え……もしかてして?」

 春菜ちゃんと一緒に手を握って祈ってしまった。

「学校長賞は『大地讃頌』を歌った」

 その言葉を聞いたとき、みんなが叫んだ。

「うそ! マジで……」

「二年一組! 代表の生徒は舞台に上がってください」

 そのまま泣きながら実行委員の二人が、舞台に上がって賞状とトロフィーを持っている。

 学校長賞は十年ぶりで、三年生以外の受賞は史上初のことだったこともあり、大騒ぎだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る