水中
信濃とエイリアンの王女との戦闘が終わった1時間後、海上で仕えるべき主君の為に全長五百メートルのアメリカの空母を模した巣級は、着実に主君の元へと向かっていた。
主君と同胞の信号が途絶えた直後に巣級は普段は海中に潜んでいる護衛が浮上させた。
この個体達に感情はない。あるのは本能だけだ。
仕えるべき主君、王女を助けに行く。
機械的に行動に出た。
信濃がこの場に居れば巣級をAIまたはゲームのNPC? と思っただろう。
彼等は人間や戦女子の様に学習する。生き残れば、それだけ手強くなる。指示を出す者がいれば更に手強くなる。
だが、この場の王女を助けに行く個体達は、ベテランの戦女子達からみて経験が少なかった。
エイリアン艦隊に水中からゆっくりと近づく二つの影。
日が落ち、周囲は月明かりだけが頼りの海上で、光が更に届きにくい水中は水深が浅くても暗闇の世界だ。
だがその暗闇の世界でも、自由に動ける戦女子達がいる。
それが潜水艦の戦女子達だ。
先頭を進むのは伊一六八、ベテランの戦女子だ。
全体的にスリムな体形で、セーラー服を模した競泳用水着の様なデザインの水着と白のハイソックスの様な水中用タイツ、潜水艦の前方を模したボディボードの様な艤装に身体を乗せ、進んでいる。
艤装には魚雷発射管と左肩には10cm単装高角砲を身に付けている。
信濃が地上で出会ったら、間違いなくタオルなどの身体を隠せる物を急いで取りに戻るだろう。
伊一六八の後方を進む彼女も潜水艦、半人前の伊一八だ。
彼女は伊一六八に比べて育っている。何がとは言わないが。服装はセーラー服、その下には白いビキニタイプの水着を身に付けている。
バイクの様な潜水艦が他の艤装にしがみ付くと、いい感じに押しつぶされる。何がとは言わないが。
もしも、作戦から戻ってきたばかりの海水に濡れた彼女と信濃がバッタリ顔を合わせたら、やはり信濃は急いで身体を隠せるバスタオルを取りに走っただろう。
外見が少々アレな格好の二人だが戦女子である。人類の敵、エイリアン艦隊を前に、気を引き締め、発見からずっと攻撃のチャンスを窺っていた。
そのチャンスがついにきた。
『前線指令部、こちら伊一六八。敵が横っ腹を見せた。これより攻撃を開始する』
『同じく伊一八! 同じく攻撃を開始するよ!』
東北の大反攻作戦に参加する予定だったが、彼女達が乗っていた輸送機がエンジントラブルに見舞われ、到着が遅れた二人の潜水艦。伊一六八と伊一八がエイリアンの王女級が現れたと知らされ、衣浦港から緊急出撃命令が下された。
日本側はこの時、東北の大反攻作戦が順調で、元々東北作戦への増援として戦女子と自衛軍部隊が移動中だった為、突然の王女級の登場でも最低限の戦力をかき集められた。代わりに東北の大反攻作戦への増援の到着後が遅れることを意味していたが、愛知周辺にエイリアンの王女級が上陸するリスクを考えれば、戦力を集めるのは当然のことだった。
伊一六八と伊一八の任務は敵の発見と追跡。可能であれば魚雷での敵巣級とその中に居ると思われる王女級の撃破だ。
最低でも巣級だけでも大ダメージを与えてくれ、と軍の上層部は願っていた。
そして、移動速度が遅い潜水艦の二人はここで運良くエイリアンを発見。その位置も敵エイリアン艦隊の横っ腹を取ることが出来た。
偶然が重なった幸運だった。
彼女達が放った魚雷は、王女級や巣級の小型でも強力なレーザーによる迎撃を受けず、あっさりと巣級に当たった。
『あ、当たりました!!』
『…………』
最近生まれたばかりの潜水艦、伊一八はハシャイでいるが、ベテランの伊一八六は呆気なく大ダメージを受けた巣級に違和感を覚えた。
だが考え込む時間はない。エイリアンの護衛の艦が真っ直ぐにこちらへ向かってきた。
『伊一八、一度下がるぞ』
『は、はい!』
『その後は報告だ。恐らくトドメは増援の長崎第七部隊と湘南の第三部隊になるだろう』
敵の周囲への警戒がおろそかで、あまりにもあっさりと攻撃が成功し、伊一六八は安堵と共に疑問が溢れてくる。
過去に数回王女級と戦闘がある彼女は敵の爆雷による攻撃に耐えながら、ふと考えが浮かんだ。
あの巣級の動き。王女級を倒した後の動きに似ている。
いや、もしかしなくても王女級が不在? 不在としたら王女級はどこへ?
――もしや、あれは囮で既に王女級は本土へと向かっているのか!? 彼女はその可能性を考えた後、一刻も早く巣級に王女級がいないことを前線司令部へ報告しなければ。と思ったが彼女達がエイリアンの通信妨害と爆雷から逃げきるのに一時間以上時間必要だった。
この後、長崎第七部隊を中心とした攻撃部隊が巣級とその艦隊を攻撃。
無事に敵を殲滅する。しかし、標的の王女級が発見できなかった為、彼女達は夜を徹して周辺海域を捜索することになった。
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