方角



 孤立したこの島にガスや電気はない。エイリアンの襲撃時に島にあった小さな発電所が破壊され、残っていた個人のソーラーパネルなどの発電機も故障などで使えなくなっている。


 けれど無くても問題はない。効率は悪いが生活は出来る。


 俊和のお婆ちゃんが、各家庭に残っていた火打石(古いタイプの物もあればサバイバル用品もあった)を回収して、俊和もお婆ちゃんとの生活で使いなれているので、火に付いては問題ない。


 それと水道も井戸水や小川があるので運ぶのに手間はかかるが問題ない。




「やっぱり、思った通りに重い物を運べるみたいだね」


「す、凄いね。姉ちゃん」




 目が覚めて、先に起きていた俊和が作った朝食を食べた後、俊和が水を汲みに行くと言うので「お、いや、私に任せろ」と言って、水を運ぶのを手伝っている。


 俺は白いポリタンクの一番大きいサイズに水を入れて二つ肩に担ぐのではなく、普通に持って運んでいると、俊和は少し引きつり笑いをしながら、俺を称賛した。


 井戸から家まで少し距離があるので、俊和は一輪車に中くらいの白いポリタンクを二つ乗せて運んでいる。


 長い間使っているので、タイヤがパンクして押し辛いがそれでも水を運ぶ効率が上がるので、俊和は水の入ったポリタンクを乗せた一輪車を頑張って押している。


 でこぼこ道、結構急な坂を俊和は大変そうではあるけれど、慣れた様子で進んでいく。




「ふう、お疲れ様」


「うん、姉ちゃん。ありがとう」




 水を運ぶだけでも何度も往復した。


 男になる前、テレビのドキュメンタリーで。発展途上国の子供達が水汲みで時間が取られて、勉強できないと言っていたが。これはマジでヤバイな。


 水道がないと、凄く時間を消費する。


 俺が居るからかなり効率が上がって、いつもの半分の時間で終わったと言っていたけれど、俊和は一人でこれをやっていたとか、尊敬するよ。




「さて、次は畑仕事?」


「うん、畑に行こう。姉ちゃん」




 昨日畑も少し見せてもらったけど、植えたばかりで、今日行うのは雑草取りだ。


 一応、雑草が生えないように黒い雑草が生えないシートが畑のウネの間の通路に敷かれていて、雑草を取る手間が大分省けている。


 作物が植えてあるウネに生える雑草も今はそこまで多くはない。


 指先で丁寧に抜いていく。男の時に両親の実家へ行った時に畑の手伝いをしたので、ある程度は大丈夫だ。


 俊和は慣れた手つきで雑草を取り除いている。




「やっぱり、二人だと早く終わるな」


「役に立てているなら幸いだ。次は?」


「うーん、魚かな? 干物が減ってきたから作らないと」


「分かった」




 と、言う訳で、俺達は港の近くで釣り糸を垂らす。


 離島なので漁業が主な産業だ。そのおかげで、漁をする道具は沢山ある。


 最初は銛で魚を取ると思ったのだけど。和俊がいうには「出来なくないけど、まだ水が冷たいからやらない」とのこと。




 で、二人で釣りをして、運良く食べられる魚が釣れた。


魚釣りは初めてだったけど、以外となんとかなるものだんだな。と思ったけど、釣れない時は本当に釣れないらしい。


 ただ、見たことも聞いたこともない色と形の魚が釣れて微妙な気分だった。




 釣った魚の中にはボラとか知っている魚もいたけれど、半分くらいは初めて見る魚だった。




 信濃になる前、俺は生き物系のテレビ番組が好きで、かなりそういう番組を見ていたけれど、こんなにカラフルでヘンテコな魚にかなり引いた。




 後で俊和に教えてもらったのだが(お婆ちゃんから聞いたらしい)、どうやらエイリアンが地球に来て以降に生まれた新種で、食べても影響が無いとか。




 ただ、見た目と現れた理由がエイリアン絡みだったので、売り物にならず。


 俊和と俊和のお婆ちゃんも、この島に取り残されるまで食べなかったようだ。




☆ ★




「野菜切り終わったぞ」


「あ、うん、ありがとう。姉ちゃん」


「次はどうする?」


「じゃ、じゃあ、味噌汁頼む」


「分かった」




 その日の昼頃、俺達は家に戻ってきて昼食の準備を始めたのだが。


 俊和が挙動不審だ。


 いや、理由は分かっている。実は先ほど釣りをしていた時に、俊和の竿にかかった大きい魚を釣り上げる時に、俺が後ろから俊和を後ろから抱き締める様にして、支えてから俊和の原因がおかしくなった。




 釣り上げた魚は一メートル越えの大物で、俊和も久しぶりにヒットしたので、油断していて俺が後ろから抱き締めるように支えなければ、俊和は海に引きずり込まれるところだった。


 その時は気づかなかったが。よくよく考えれば、思春期の男の子に後ろから、爆乳美少女が抱きしめれば、年頃の男の子から普通は挙動不審になる。




 寧ろ、性に目覚めるか、眠っていた野性に導かれるまま襲って来てもおかしくはないだろ。


 そう言う意味では、俺の行動は軽率だった。


 だから、俺は何事も無かったかのように普通に俊和と接している。


 接しているのだが……。




「…………」(チラッ、チラッ)




 し、視線を感じる。チラチラとこちらを見る俊和。


 ああ、男のチラ見は女にとってはガン見と聞いたことがあるけれど、こういうことだったのか。今なら分かる。


 俺の顔を見たりもするが、特に胸を見ている。釣りの時に俺が俊和の背中に押しあててしまった柔らかいモノ。


 どうしよう、完璧に目覚めてるっぽいな。




 うん、気をつけよう。それと早くこの身体に慣れて、俊和を連れてこの島を出よう。


 この島に、俺以外に女(厳密には俺は人間ではないけれど)が居ないから、俊和の人としての本能が目覚めて疼き始めているのだろう。




 面倒事が起こる前に早くこの身体になれなくては……。


 昨日は何事もなく眠りに付けたけれど、夜に俊和が部屋に来たらどう対応をしたらよいのか分からない。


 殴り倒すわけにもいかないし。困ったなぁ。






☆★






 昼食後、俺は俊和と共に俺が打ち上げられていた砂浜へと移動した。




「うん、やっぱり艤装を展開していないと、水の上を歩けないみたいだね」


「へー、不思議だね」




 艤装を展開してないと、水の上を歩けないか。…………なるほどね。


 俺は艤装を展開したまま、海の上を歩いてみる。ちょと歩き辛い。


 うーん、滑る様にして移動した方がやり易いね。




 あ、スケートだ! 感覚的にスケートに似ているな。それとアームを動かしながら、海の上を滑ってみる。


 あ、別に足を動かさなくても真っ直ぐ移動できるな。スキーみたいだな。


 真っ直ぐ進むなら、無理に足を動かす必要はない。けれど、敵の攻撃を避けることを考えると、身体を揺らしながら、スケートみたいに動いた方がいいみたいだ。




「次は、飛行甲板を使ってみるか」




 俺は対物ライフルのような物の上に飛行甲板がくっついた武器を構えると、飛行甲板のエレベーターから、紙の様に平べったい烈風が現れた。俺は少し武器を空に向け、引き金を引いた。するとパシュッと音が鳴り、紙のように平べったい烈風は勢いよく飛んでいき、一瞬光り輝いたかと思うとプラモデルの様な厚みのある姿に変わり、空を飛び始めた。




「すげぇーっ!」




 空を飛ぶ烈風を見て、俊和がはしゃいでいる。


 俺も紙のように平べったい烈風が立体的になる瞬間には驚いた。




「あ、なるほど。そういうことか」




 しばらく烈風が空を飛んでいると、俺は唐突に烈風との繋がりを感じた。


 そして、視界が烈風のコックピットから見えるものへと変わり、俺は驚く。


 なるほどね。艦載機は使い魔とか式神、いや○ァン○ルのようなものなのか。




 俺は視界を元に戻して、流星と彩雲を発進させる。よしよし、発進は上手くいった。いい感じだ。こうして、俺は戦女子の力も多少使えるようになった。




 もちろん、問題もあった。


 烈風、流星、彩雲を動かしていると、俺の身体の中から何かが減っていく様な気がした。


 ステータスで、詳しく調べてみると。


 俺の身体の中にある燃料。○ラ○エのようなRPGで言うとMPの様な物が減っていた。


 あとで和俊の話からどうやら、戦女子専用の食べ物をがあり、その食べ物を食べて戦女子は武器弾薬を補充するようだ。




 あれ、補給が出来ないから、このままだと俺等はもしかしなくても詰む?




 俺と俊和の状況は思った以上に危ないモノだった。


 エイリアンが今のところ、この島の近くここへ来ていないけど、この先もそうだとは限らない。


 これは早めにこの島を出た方がいいな。俺はそう心の中で考えた。考えたけれど、




「凄かったよ。姉ちゃん」


「ありがとう、初めてだったけど上手くいって良かった。……ところで、俊和」


「何?」


「思ったんだけど、本土ってどっちの方角?」


「え、本土の方角」


「ああ、彩雲を使って本土の近くを飛べば誰かが気づいてくれるかなって」




 移動のことを考えると情報が欲しい。俺がそう思って俊和に問いかけると。


 俊和は気まずげに俺から視線を逸らして、呟いた。




「か……いんだ」


「なに?」


「だから、分からないんだ」


「えっと……何が?」




 俺から視線を逸らす、俊和に嫌な予感を覚えながら、俺は俊和に再度問いかけた。




「だから、俺は本土がどの方角にあるか分からないんだ」


「…………え?」




 はっきりと告げて来る俊和の予想外の言葉に、俺はしばらく固まったままだった




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