翌日



翌朝、目が覚めると俺の腕の中……もとい胸の中には俊和がいた。


良い感じにすっぽり胸の谷間に挟まっている。


羨ましいな。子供の頃に体験してみたかったわっ!


 俺がそんなことを持っていると、俊和はもぞもぞと俺の胸に顔をうずめる。


 あ、外の日の光が眩しいのか。そろそろ起きる時間かな。


 俺は俊和を起こそうと少し上半身を引いて、俊和を起こそうとして顔を見て思った。




「うーむ」




俊和は結構なイケメンショタだ。


いいなぁ。男の時の記憶だと俺はブサイクで、子供のころから女の子達から嫌われていた。


幸いガタイが良いから小中高とイジメは受けなかったし、男友達もオタクだけど(高校は隠していた)、それなりに居た。


……あれ? 俺、そういやぁ、高校は卒業したんだっけ……?


駄目だな。思い出せない。かなり記憶があいまいだ。


考えてもどうしようもないか。




「ん、ううん」


「あ、起きたか? 俊和」


「……え?」




 俺の言葉で目を覚ました俊和が顔を動かし、俺と目が合う。




「おはよう、俊和」


「…………お、おはよう」




 一瞬何が何だか分からない顔をしたけれど、直ぐに昨日一緒に寝たことを思い出したのか、挨拶を返してきた。


 うん、もっと騒ぐかと思ったけど以外と冷静。




「そろそろ、起きよう」


「あ、うん」




 そう言って俊和から、身体を離そうとして急に両足を急に動かした時だった。




「ん゛!」


「あっ」




 ちょっと苦しそうに呻く俊和、そして俺の右太股にぶつかったそれなりに硬い物。


 しまった、寝ている間にお互いに抱き枕みたいにしていたから、ちょうどいい感じに俊和は俺の太股に足を絡ませていた。


 そんな状態で、急に足を動かせばそれなりの衝撃が、俊和の早朝の機動実験中のそれなりに硬い物へ強めな衝撃を与えてしまった訳だ。




「ご、ごめん!」


「だ、大丈夫! 大丈夫だ! 姉ちゃん」




 今度はゆっくりと、身体を動かして布団から這いずる様に出る。


 後ろを振り返ると俊和も布団から出て、気まずげにこちらを見ていた。




「…………」


「…………」




 うん、恥ずかしそうに頬を紅くしているそこそこ日焼けしたイケメンやんちゃ系ショタ。


 ……好きなお姉さん方には堪らないだろう。


 俺はショタではないので、気を取り直して声をかける。




「ご、ごはん、食べようか」


「あ、うん」




 ちょっと声が裏返ったけれど、なんとか朝食の提案を出せた。


 俊和も渡りに船とばかりに、何度も頷いていた。






☆★






 この島には電気もガスもない。


 だから、火を起こすのは薪で行なっている。俊和の年間の薪の消費量は微々たるものでお婆ちゃんと暮らしている時に、薪の節約をみっちり叩き込まれたので、その辺は問題ない。


 効率よく火を使っている。




「ふぅ、そろそろ温まるな」


「うん、姉ちゃんがいるから火を起こすのが速くて助かるよ」


「どういたしまして」




 サバイバル用の火花が出易い棒の様な火打石などでも、やはり火をつけるには時間がかかる。


 そこで、常人よりも遥かに力と体力がある俺が火打石を使うと、俊和がやるよりも多くの火花が出る。


 そのお陰で、普段よりも速くに火が付けられたわけだ。




「じゃあ、冷やご飯と蒸発した分の追加の少量の水を投入っと」




 小さめの鍋に入っているのは海藻などが入った味噌汁だ。


その味噌汁に冷やご飯を入れて軽く温める。


最初から冷やご飯を入れるとご飯がしょっぱくなるので、後入れだ。




「いただきます」


「いただきます」




 手を合わせて、半分にした味噌汁ご飯を食べながら、今日の予定を俊和に聞く。




「ニワトリの餌やりと、畑の畝作り。それと薪集めかな」


「そうか」


「姉ちゃんは?」




 どうしたい? と聞いてきた。


 個人的には、艤装を扱う練習がしたいが、ニワトリはちらっと見ただけで、どんな感じなのか、確認していないし。


 畝は増やした方が今後の為になるだろう。


 後で聞いたけれど、耕運機などもないから、毎日少しずつ畝を作っているらしい。


 それと薪集めだがお婆ちゃんの言葉で、主に倒れた木々や地面に落ちた枝を中心に薪にしているらしい。


伐採すると、手間もかかる。


 緊急時(冬など)には、倒壊した家の材木を使ってその場を凌いでいたらしい。




「俊和の仕事を手伝おう、艤装の練習は焦っても直ぐに使いこなせるわけでもないからな」


「そう、ならよ……、分かったよ」




 俊和がどこかホッとしているのが気になったけど、俺は朝食を食べ進めることにした。


 海藻はモズクっぽい物だ。それと山菜。


 山の幸もそれなりにあるらしい。ちなみに、茸の類は絶対に食べるな! とお婆ちゃんに言われて手を出していないようだ。


 それとどうも俊和は茸を勝手に食べて痛い目を見たような感じだ。茸への嫌悪感が凄いし。




「ごちそうさま」


「俺もごちそうさま」




 居候でもあるので、俺が鍋と小ドンブリを洗う。


 俺がし洗い物をしている間に、俊和は着替えて道具の準備をする。


 そして、洗い物が終わり。俺と俊和は家の近くのニワトリ小屋へと移動する。


 そこには十羽の鶏がいた。お婆ちゃんが頑張って増やしたようだ。


 幸い、この島には天敵となるテンのような動物はいないので、増やし易かったようだ。




「あ、卵があるな」


「取って良いの?」


「今年の冬はあまり死ななかったから大丈夫」




 この島は雪が降らないが、それでも餌が不足するので、何羽か潰すらしい。




「これ、何?」


「餌、婆ちゃんが教えてくれたんだよ。この種類の雑草でも平気だって。もちろん、そこのドアから外に出して離し飼いにして餌取らせるけど」


「へー」




 俊和の話しだと、ニワトリは穀物だけ食べるわけではないらしい。


 個人的なイメージだと穀物とミミズとか虫を食っているイメージだけど、キュウリとスイカ(食べ残し)も啄ばむらしい。




 それから、俊和は卵を温めているニワトリを確認して「後で卵を取りに来よう」と言っていた。


 夕飯は卵が食べられるみたいだ。






 畑に移動して、まずは雑草取りをする。俊和が。


 俺も手伝おうとしたのだが、自分でやらないと身体が鈍ると言われてしまった。


 なので、俊和と話し合い。運ぶ予定だった水を半分。それと畝も俊和が作ろうと思っていた和と同じ数を作ることにした。


 つまり、俊和が今日作る予定だった畝と俺が作った畝で二倍の畝が作れるわけだ。


 まあ、俺が来たから食いぶちを増やさないと駄目だろう。


 個人的には数カ月もこの島に居るつもりはないけれど、何があるか分からない。


 備えはしておくべきだろう。




 と言う訳で、ザックザックとクワを振るったのだが。




「ぶぺっ、ぺっ!」


「姉ちゃん、クワをそんなに振りかぶらなくても大丈夫だから」


「ああ、そうみたいだな」




 マンガみたいにクワを頭の上まであげて軽く振りおろすという動作をしていたら、ものの見事に土を頭にかぶった。


 俊和に手本を見せてもらったけど、クワってそこまで高く上げないんだな。


 高くても大体肩辺りまでか。それと畝を真っ直ぐにするのが難しい。




「姉ちゃん、大体でいいぞ」


「あ、ああ、そうか?」


「後で、この小さい(園芸用)スコップである程度は整えるから」


「わ、分かった」




 うーん、初めてだからとはいえ、ちょっと情けないな。


 ザックザックとクワで畝を作っていく。


 予定していた畝はあっという間に作り、俊和の畝作りを見学することにしたのだが。




「んっ、ふっ、…………よっと」


「…………」




 今現在の俊和の恰好は、ズボンに長袖一枚だ。


 作業用の汚してもいい奴らしいのだが、ハッキリ言おう。


 うっすら汗をかき、定期的にへそチラをするイケメンやんちゃ系ショタ。


 あ、いや、年齢を考えると少年かもしれないけれど。


 栄養不足なのか、身体全体は筋肉は付いているけれど細身で、更に童顔。




「ん、どうかしたのか。姉ちゃん」


「ううん、何でもない」


「そうか」




 小首を傾げる姿も、様になっていると言うか……。


 うん、イケメンって小さい頃からズルイね。






 さて、昼には少し早いけれど、休まずずっと畑仕事をして流石に俊和も疲れていた。


 なので、休憩をしてから井戸(ポンプ付き、流石にそこまで古くはなかった)で水を組んで一度家に戻った。


 茶碗一つ分のご飯と漬け物(ぬか漬け)を食べて、薪を拾いに行く。


 茶碗一つのご飯と漬け物で足りるのかな? と思ったけれど、俊和は平気そうだったので突っ込まなかった。


 そして、二人で山に入って薪を拾う。


 引っ張ってきたパンクした一輪車に落ちている枝を入れて、山道というかけもの道を進んでいく。


 ちなみに俺が一輪車を押して、俊和は分厚い皮のカバーを被せた小ぶりの斧を持っている。


 大きめな物は斧で割ったりするらしい。


 一瞬、鉞担いだ金太郎を思い出し、俊和が金太郎の恰好をしているのを想像してしまい、大笑いしそうになった。


 あぶねぇ、突然笑い出すとか意味が分からないよな。


 薪探しは順調だった。


 少なくても今日の夜に使う分は直ぐに確保できた。


 というのも、倒れた木があり。数日前から俊和が少しずつ斧で削っていたようだ。


 今日は枝を落とす為に斧だったが、木の幹を切る時はノコギリらしい。




「じゃあ、これを小屋(拾った木々を乾燥させる場所)に置いたら、姉ちゃんの練習に行こうぜ」


「ああ、助かるよ」




 俺も仕事を手伝ったで、仕事が早めに終わったらしいので、俊和の言葉に甘える。


 そして、二時間くらいだろうか。


 まずは、彩雲を使って昨日と方角をずらして、陸地を探すために飛ばし。


それと同時に、烈風を自分の周りに飛ばしてみた。




うん、右目に彩雲。左目に烈風の視界を繋げて見たけれど、すっごく気持ちが悪い!


とはいえ、出来るだけ早くに陸地を見つけないといけない。


それとエイリアンのことも気になる。


最悪、日本が滅んでいる可能性も考えないといけない。


その場合、本土の状況によってはこの島で生涯を過ごすことになるかもしれない。


情報、これがまず必要だ。




「姉ちゃん!」


「ん、どうした?」




 俊和の声に、艦載機から視界を外して俊和の方を見ると。




「サクラが釣れたよ!」




 俊和がド・ピンクのヒラメみたいな、奇妙な魚を釣り上げていた。


 正直、見た目が最悪だ。サクラみたいに淡い色のピンクではない。


 蛍光ペンみたいな、ちょっとキラキラしている。




「これ、刺身がおいしいんだぜ。夕食は楽しみにしててくれ」


「あ、ああ、分かった。楽しみにしておこう」






 ちなみに、刺身となったサクラは、淡い桜色の身で甘みのあるコリコリとした食感の美味しい魚だった。


 それとアラも味噌汁の出汁になり、食えない骨などは肥料になった。


 うん、俺が思った以上にド・ピンクのサクラは良い魚だった。








 その日の夜、自室に戻った俺は陸地の手掛かりを見つけられなくて、溜息をついた。


 今日、彩雲でこの島をぐるり全方位を調べてみた。


 それなのに見つからない。




 まず、最初に考えたのは俊和の勘違い。実は半日かけて船で本土に移動していた。


 もしくは、俺が想像している以上に、俊和が乗っていた船の速度が高かった。




「分からないな」




 いっそのこと、彩雲を一機使いつぶすつもりで飛べるだけ飛ばしてみるか? けれど、その場合、どの方角に飛ばすかが問題だ。




 どうしたものか……。俺が頭を抱えていると、部屋の外の廊下から微かに足跡が聞こえてきた。


 襖の近くまで音が聞こえてきたので、俺は声をかける。




「俊和?」


「あ、ああ、姉ちゃん」


「入っていいぞ」




 俺が声をかけると、俊和はちょっとビクッとする気配がした。


 襖を開けると、ちょっと申し訳なさそうな俊和が顔を出した。




「あ、あの、さ。その、今日もいい?」


「……まあ、いいよ」




 俺は少し考えて、OKを出した。


 昨日、と今朝の様子を見るに下心はないみたいだし。


 俺がOKを出すと、俊和は安堵した雰囲気で、俺の布団に入った。




 ……年齢は十五歳くらいだと聞いた。


 けれど、精神が幼い様な気がする。愛情に飢えているのもあるのだろう。


 お婆ちゃんだけが家族で、甘えたくても甘えられないサバイバル生活。


 この島に、ずっと居るつもりはない。けれど、本当に良いのだろうか?


 俊和を連れて行くことが……、俊和の幸せにつながるのだろうか?


 家族が居ない、この子を……。




 俺はしばらく、考えていたけれど、結局答えなんて出なくて。




「おやすみ」


「うん、おやすみ姉ちゃん」




 俊和を抱きしめ眠りに付く途中、唐突に男だったとき、俺は抱き枕ないと良く眠れなかったことをなんとなく思い出した。


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