眠りと夢
突然現れた人の形をした赤黒い化け物。
次の瞬間には俺の左肩を吹き飛ばされ、激痛で泣き叫んだ。それと同時に、頭によぎったのは俊和のことだ。
胸の奥から、コイツを倒さなければ、俊和が殺される。と焦りと危害を加えてきた化物に怒りが吹き出てくる。
激痛ではあるが俺の身体は動いた。
強引に無理やり、目の前に存在する化け物を殺す為に。
無我夢中、闘争本能ともいえるような感覚で結果的に俺はどうにか勝利をもぎ取った。
残していた流星二機を使い、最後は対物ライフルに無理やり飛行甲板をくっ付けた様な艤装を鈍器にして、赤黒い人の形をした化け物を殴り、いや。
文字通りミンチにした。
だが、そこで俺も限界だった。
その場に崩れ落ち、化け物の体液で出来た池に沈んだ。
生臭い、化け物の匂いは男だった時に、嗅いだ生ごみの袋を多少マシにした程度の臭さだった。
ここで死ぬのかと、げんなりした時だった。
「ね゛え゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っっ!!!」
俊和の泣き叫ぶ声が聞こえ、俺の身体はグイッと引っ張られ、地面と化け物の液体しか映っていなかった視界が一気に広がる。
次に見えたのは雲一つない綺麗な星空と、顔をグシャグシャに涙と鼻水塗れの俊和の泣き顔だった。
「とし、かず……か」
「ね゛え゛ち゛ゃ゛ん゛、し゛っか゛り゛ぃいっ!!」
泣き叫ぶように俺を強く抱きしめてくる俊和、正直かなり痛い。まあ、左肩と右足に比べれば大したことはない。
それに、この身体は戦艦でもある為か、痛みはそこまで酷いものではない。
いや、死にかけているからその辺も鈍っているだけか。
「としか、ず。ぎそうを」
「な゛に゛す゛る゛ん゛だ?」
泣き声の俊和にそう言って、俺は片腕を動かし、崩れ落ちる時に取り落とした艤装に伸ばした。
俊和が慌てて俺を抱きしめたまま、艤装の近くへ移動してくれる。
とりあえず、握ることが出来れば問題ない。
力が入らないから、持ち上げられないけれど水平にするくらいは出来る。
「彩雲、ぜんき、発しん!」
艤装の中に残っていた全ての彩雲を本土があると思われる北へと向け発進させた。
恐ら燃料切れになる期待もあるだろうけれど。
「一機でいい」
「え?」
「一機でもいいから、人がいるところたどりついて……、人をつれてこい」
「ね゛え゛ちゃんっ!!」
彩雲が本土の人のいる所に辿り着けば、彩雲が誰のモノか探すはずだ。
辿り着ける可能性は低いけれど、ある程度彩雲は自動で動いてくれる。
「ごめ、とし……かず」
俺は艤装から手を離し、片腕で俊和を強く抱きしめると、俺はそのまま意識を手放した。
▲▽▲▽
「××××って、キモイよね」
俺を初めてキモイと言ったのは、小学五年生の時の同級生の女子だった。
当時の俺はオタク趣味が芽生え始めていて、ちょっとエッチな漫画も買い始めていた。
確か本屋でそのクラスメイトの女子にアニメ雑誌を買ったところを見られたのがキモイと言われるきっかけだったはずだ。
「オタクって言うんでしょう? アイツ」
あれがキッカケで、俺に対するイジメが始まった。
ま、男子は参加しなかったけどな。
理由? 男子の大半がゲーム好きで、それに当時はパンチラとかが多いアニメが多かったので、その話題で盛り上がれるエロガキが多かったからだ。
けれど、この時周りに味方が多いことが中学時代が辛くなった原因の一つだ。
女子の俺へのイジメは小学校卒業まで続いた。
可愛い部類のイジメだった。今振り返ればマシだ。
陰口などの差別発言、蹴りなどの暴力、俺に階段でパンツを見られたと言って濡れ衣をかけてくる。
幸い、オタク友達や男子クラスメイト達が味方に付いてくれたので、辛い思いはしたけれど耐えられた。
そして、小学校卒業後、俺は父親の仕事の都合で、引っ越しをした先の中学へ入学。即座に俺はイジメの標的になった。新しい土地の中学のクラスメイト達は、アニメもゲームもしなかったのだ。
暴言、物を隠す、俺の私物を破壊するは当り前。いきなり殴りつけられたこともあった。殴る時は目立たない場所だった。悪知恵を見に付けた子供は最悪だった。
金をせびられて、暴行を加えられて俺は金を渡してそこからどんどん心が死んでいった。
途中から泣くことも痛みも感じなくなった。諦めたのだ。全てがどうでもよくなり、引きこもりになる寸前だった。
けど、唐突に虐めが終わったのは中学二年の十月。
誰かが、俺が激しく暴行を受け、許しを請いながら財布を差し出す映像をネットにばらまいたのだ。
同時に市の教育委員会と文科省にも映像が送りつけられたらしい。
学校は大騒ぎになった。俺が学校側にイジメの相談は何度かしていた。
そして、それを全て学校側が無視したことも世間に暴露されたのだ。
その後、母方の祖父母が俺の家へ駆けつけ、学校に行ってブチキレた。
当時のマスコミの取材が酷いマナーだったこともあり、俺は祖父母に田舎へ連れていかれた。
まあ、祖父母は仕事人間で、俺を放置していた両親にも怒っていたが。
田舎に行き、俺は平穏な日々を手にいれた。
そのまま引きこもりになりかけたけれど、田舎でのんびりできたことで、どうにか心を癒し都会の私立高校に進学できた。
授業料大丈夫か? と思ったけれど、両親の友人の弁護士が滅茶苦茶頑張って慰謝料とかふんだくったらしい。
そして、俺は高校生になって…………。
▲▽▲▽
気が付いた時、俺の視界はぼやけていた。
ここは? と思っていると徐々に視界がしっかりとしていき、真っ白な天井が見えた。そこで、俺は思わず目が覚めて天井が見えた時のお約束を言ってしまった。
「知らない天井だ」
俺がそう呟いた瞬間、
「――ブフッ、あはははははははははっっ!!」
大爆笑と言える笑い声に、俺が驚き反射的に声が聞こえた方へ首を動かすと、そこには部屋の入り口で、茶髪のショートヘアの女の子が腹を抱えて笑っている。
俺が誰だ? と思っていると、ひとしきり笑いその少女はこちらへ歩いてきた。
「あー、ビックリした。ネットで使われている言葉をリアルで使う人がいたからビックリしちゃった」
「……ネット?」
「あー、そう言えば貴女は自然発生で、離島に居たらしいわね。なら、知らなくて当然ね。ネットって言うのは、インターネットの略で。パソコンとかスマホとかで、情報検索や世界中の人とコミュニケーションが取れる道具なのよ」
いや、前世で普通に使っていたので、どんなものかは知っているけれど、離島で目を覚ましたから、知らない振りをしておこう。
「なるほど。それで、その……君のその格好は?」
「ん? ああ、これね。これがあたしの普段着。あたしをこの世界に呼んだ変態の趣味よ」
「…………趣味」
俺は改めて目の前の少女を見た。
目の前に居る小柄な少女は、セーラー服にブルマ姿で頭には赤い鉢巻を付けている。
マニアックなご趣味で……。
「あ、まだ名乗っていなかったわね。あたしは島風。貴女の様子を見に来たのよ」
「え、ええっと、私は信濃。よろしく?」
「うん、よろしくするわ! だって貴女は新しい私達の仲間だもん!!」
島風はそう言うと、ニコッとひまわりの様に明るい笑顔を俺に見せてくれた。
…………仲間?? 島風の言葉に俺は内心首を傾げた。
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