八島へ
約五百メートルの空母の様な外見の巣級と、その護衛と思われるエイリアン艦隊を殲滅した後、増援として東北へ向かっている途中だった長崎第七艦隊の旗艦、長門級二番艦陸奥は手応えの無さに首を傾げた。
夜間戦闘ということでここには長崎第七艦隊十六隻、湘南第三部隊、部隊指揮を行なう妙高、鬼怒、京波の三隻。
合計十九隻での攻撃だった。
ハッキリ言えば、戦力は足りなかった。だが、ここで王女級を食い止めねば、日本が東西に分断される可能性すらある。
事前に衣浦港から威力偵察で送りだされた衣港第一部隊が夜戦を行い敵の情報を集めていた、この戦いの勝率は低かった。だが夜戦で王女級が消極的に戦っていると考えた上層部は時間稼ぎと敵戦力を削るの為に彼女達を送ったのだが。
「想定外ですね。王女級がいるので、撃沈する者がでることも覚悟していたのですが」
『ええ、まさか王女級が不在とは思いませんでした』
旗艦陸奥の言葉に、第三部隊の指揮を任せられている妙高が無線で答えた。
「して、これからどうしましょうか。王女級の捜索はするとしても何処を探せばよいのやら。伊一六八の進言もありますが、本土と本土近海は陸戦部隊と飛行隊に任せるとして」
おっとりとした顔立ちに月の様な黄色い髪、平安の大鎧のパーツを身に着けた長身のグラマラスな女性、陸奥は今後の相談の為、第三部隊の副部隊長であり、今回の戦いに増援として送られた第三部隊の指揮官でもある妙高に無線で問いかける。
『手がかりになりそうなものは、巣級が移動していた方角でしょうか?』
「現状それくらいしかないわね」
妙高、身長は女性としては高めではあるが、童顔と頭に付いた犬の様なモフモフな耳がある為か幼い印象を受ける。
無線越しではあるが、妙高はキリッとした表情を作っているのだが、第三者から見れば、少女が頑張って背伸びをしている様にしか見えない。
さらに妙高の服装は白いスクール水着の上にセーラー服であり、それも妙高が幼い印象を与える理由の一つとなっている。
「しかし、巣級が向った方角には何かあるのかしら? 地図には拠点にするには不向きな小さな無人島しかないですね」
副部隊長に選ばれる実力は本物だと共に戦い理解している。まだ、王女級を撃破していないことを考えれば、これからも連携は必要だ。
『そうですね――どうした、鬼怒?』
「どうかしましたか?」
『鬼怒から話しがあると』
「ええ、問題ありません、発言を許可します」
無線で妙高からの提案に陸奥は即座に許可を出した。
『第三部隊所属の軽巡洋艦、鬼怒です』
「長崎第七艦隊旗艦、戦艦陸奥です。それで何かあったのですか?」
『はい、実は先日のことですが』
鬼怒はここ数日のことを簡潔に話した。
艦載機を部隊メンバーが目撃したこと、それを確認するために出撃して巣級を発見したこと。
そして、周辺海域の過去のデータを詳しく調べた結果、八島のデータがおかしいことが分かった。
「それは事実ですか?」
『はい、三姉妹の王女級との戦いの混乱を利用したようです。疎開船が真っ先に撃破されたことが当時のレーダーによって確認されています。そして、はぐれエイリアンの襲撃に遭い、調査していないにも関わらず、島には生存者無しと判断されました』
『…………』
妙高の言葉に頷く鬼怒。
『私達は人間を助ける為になら無茶をします。そして、助けられなかった時、大きな精神的なダメージを受けるものが多い。政府は全滅したと思われる島に戦女子が向い、そこに広がる悲惨な光景を戦女子に見せたくなかったようです。表向きは』
鬼怒の言葉にやはり、と陸奥と妙高は思った。
本音と建前は重要だ。
本土で三姉妹が猛威をふるっていた時、民間人の救助は必死に行なわれていた。
あちらこちらで、自衛軍や戦女子が命懸けで民間人を助けていた。
離島に生存者がいるかもしれないと判れば、助けに向う自衛軍や戦女子が必ずいたはずだ。
「裏は?」
『当時の川島重工のとある派閥には死んでほしい人物がいたそうです。名前は跡部俊和。当時はまだ六歳の少年です』
「…………その少年はどういう存在なのかしら?」
『指揮官の話しですと、現在は引退されておりますが、元川島重工の会長であった川島五郎の孫だそうです』
「『…………』」
陸奥は何でそんなことを調べられた? と疑問に思ったが湘南基地の司令官は良いところのお嬢さんだったわね。と思いだし納得。
妙高は、私は司令官から何も聞いていないわよ。と鬼怒をジト目で見つめる。
「それで鬼怒さん、貴女は何が言いたいのかしら?」
『八島に、我々第三部隊が行くことを許可してほしいのです。謎の艦載機。行方が分からない王女級。そして巣級が移動していた方角。……八島に王女級がいるかもしれません』
しばしの沈黙の後、陸奥は鬼怒に八島を調べる様に命令を飛ばした。
「司令官から私は何も聞いていないわよ」
「ええ、司令官からはいざとなったら私だけで八島を調べる様に言われていました。
「何故?」
「今回の騒ぎを聞きつけた川島五郎さんが、伝手を使って司令官に連絡を入れたそうです。孫の遺骨の回収を出来ないだろうか? と」
「それはまた」
「私達が巣級と接触した頃に連絡が着たそうで、衣浦の夜戦の威力偵察が終わった後、状況によって、遺骨の回収を出来たら行なう。と仕事を引き受けたらしいのです。司令官は」
断れなかったんでしょうね。と鬼怒が溜息を吐く。
「で、私に言わなかった理由は?」
「余計なことで、貴女の心に負担をかけるわけにはいきませんよ」
負けたら、遺骨すら回収できない。
そんなことになれば、仮に生き残っても妙高は心にダメージを少なからず負う。
それはマイナスにしかならない。
「ともかく、今は向いましょう」
「ええ、そうね。京波。行くわよ」
「は、はい」
こうして、妙高、鬼怒、京波の三人は長崎第七艦隊と別れて八島に向った。
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