島風の説明



 目が覚めて、翌日のことだ。




「姉ちゃん!!」


「俊和」




 俺が入院している病室で、俺と俊和は再会した。


 俺が人型のエイリアン、王女級と呼ばれているモノを倒した後、俺はそのまま死ぬはずだった。


 けれど、ギリギリのところで湘南基地所属の戦女子達が辿り着き、応急手当を行ない、オスプレイのような救助飛行機を呼んで、俺は治療カプセルに入れられたようだ。




 治療カプセルは人間には使えないが、戦女子が生まれたエイリアンがもたらした物質で作られていて、王女級に吹き飛ばされた左肩と右足首は綺麗に治った。




 デタラメな治癒能力だと俺は思ったけれど、これも人類がエイリアンとの戦いで生み出した技術だと島風には言われた。




 エイリアンとの戦いが始まった最初の頃は、戦女子も人間と同じように治療を受けていたそうだ。


 Gクリスタルの研究が進んで治療カプセルや怪我の治療を治せる道具も生まれたらしい。




「姉ちゃん、本当に良かった」


「心配かけてごめんね。俊和」




 俊和は病室に入ってくると俺に駆け寄りそうになったが、直ぐに耐えるようにゆっくりと俺がいるベッドまで近づいてきた。




 島風の俊和への眼力が凄いので、事前に病室で騒ぐなと釘を刺したのかもしれない。


 俊和が背後に居る島風のことを気にしているから、俊和は島風が苦手なのかもしれない。




「肩、治ったんだね」


「うん、目が覚めてビックリしたよ」




 肩をゆっくりと回しながら、俺はそれとなく俊和の顔色を窺う。吹き飛んだ左腕が全部綺麗に治っている。


 普通なら、嫌悪感くらい出てもおかしくは無い。


 治療を受けた俺でも最初は違和感があったし。




「治って本当に良かった」




 けど俊和は俺の左肩を見て、本当に嬉しそうに笑みを浮かべているのを見て俺は安堵した。


 良かった、忌避感は無いみたいだ。




「そろそろ、いいかしら?」


「ああ、島風。俊和を連れてきてくれてありがとう」


「気にしないで、仕事だし。それに怪我の具合を見て数日中には貴女にも選んでもらうことになっているしね」


「ああ、アレか」


「え?」




 目が覚めて、俺が落ち着いたのを確認した島風が告げたのは俺の今後のことだった。




「まあ、本格的な話は部隊長と司令官が話すけれど、先に触りだけ伝えるわね。その子も一緒に聞いた方がいいだろうし」


「ああ、分かっている」


「え?」




 困惑している俊和に島風が告げた。




「まず、信濃。貴女だけど、今後は日本政府の管理下に置かれるわ」


「うん、昨日のさわりの話で予想していた」


「で、問題なのは貴女がどこに所属するかなんだけれど」


「このまま、湘南基地所属になるのでは?」




 苦い顔になる島風に俺はそう返した。すると島風は首を横に振った。




「貴女が信濃であり、更に生まれたばかりで王女級を単独で倒したことで、貴女を欲しがっている指揮官が多いのよ」


「それは……」




 喜んでもいいのか、悪いのか……。




「基本的には喜んでいいことなんだけど、ちょっと今防衛軍上層部でゴタついているのよ」




なんで、ゴタついてる? と首を傾げたくなった。




「ええっと、派閥争いか?」


「そうよ」




 俺の言葉にあっさりと頷く島風。そのまま視線を俊和に向ける。




「更に生存者が、その子だったとこで更に騒がしいことになったのよ」


「ん?」




 どう言うことだ? と俺と俊和が顔を見わせる。




 島風の話をまとめるとこんな感じだ。現在防衛軍の上層部は大きく分けて四つの派閥が存在している。実際はもう少し細かいのだけれど……。




 まず、陸軍の岩村大将の派閥。空軍の飛鳥大将の派閥。海軍の山本大将の派閥。そして、最後が「国があぶねぇ時に派閥争いしてんじゃねぇ!」という霧島大将の派閥だ。


 最後の派閥は、会議が進まなくなった時の調整役のような立ち位置らしい。で、だ。




「あー、つまり。俊和の父方のお爺さんが大きい企業のお偉いさんで、岩村大将の派閥と仲が良かったけれど、お爺さんの親戚筋が、俊和を殺す為に救助隊を向かわせないように岩村大将の派閥の者に手を回したと?」


「ええ、それが原因で、今岩村大将。当時は少将だったらしいんだけれど。現在お爺さんが滅茶苦茶怒っていてね。お爺さんの家も軍上層部も揉めに揉めているらしいの。それこそ、派閥を海軍の山元大将の派閥にするっていうくらいに」


「ええ……派閥って簡単に変えられるの?」


「わたしもそこまで詳しい訳ではないけれど、それだけ怒っているみたいなの。更にそこから問題になったのは、俊和……くんが」




 島風、俊和を君付けするの言い辛そう。俺と会う前に何かあったのか?




「適性者かどうかってこと」


「適性者?」


「Gクリスタルで私達を呼び出せる人間のことよ。戦女子を呼び出せる貴重な人間として、保護されるんだけれど、この適性者の仕事は二つあるわ。一つが私達を生み出す。もう一つが私達を指揮すること」




 島風の言葉を聞いて、俊和がしき? と首を傾げた。




「戦闘時にどのように行動するか、私達に指示を出す人のことだよ。俊和」


「……えっと隊長ってこと?」


「うん、それのもっと凄い感じ」




 俺が分かり易く説明すると、島風が少し困った顔をした。


 子供に説明が難しいからね、この辺のことは。




「実は適性者はね。どうやら戦女子の眠っている力引き出せるの」


「眠っている力?」


「うん、私も直接みたことはないんだけれど、私達の基となった兵器では出来ない様なことが出来るようになるみたいなの。例えば空を飛ぶとか」


「え?」


「聞いた話だと、首都第一防衛隊所属の戦艦大和は空を飛んでビームのような砲弾を敵に叩き込んだって聞いたことがあるわ」


「…………」


「すげぇっ! 戦女子の戦艦って空飛べるんだな!」




 ま、まあ、俺ってか戦女子の存在そのものがファンタジーだし、男になる前に見たアニメでは、潜水艦が重巡洋艦と合体したり、空を飛んで空間移動したりしていたから、不思議ではないのか……?




「で、軍上層部は考えたの、空母信濃は自然発生したのか? それとも俊和君が生み出しのか? って」


「え、でも、俺はちゃんと話したぜ。姉ちゃんと出会ったのは浜辺だって」


「ええ、そう聞いている。けど、過去の事例を考えると、ほぼ百パーセントの確率で、自然発生した戦女子と最初に出会った人間は適性者なのよ」


「仮に適性者だったとして、それが俊和にどんな意味が?」


「適性者もピンキリなのよ。強い戦女子を生み出す者がいれば、最初の一人以降生み出せない人もいるわ」




 一瞬、その言葉の後、島風の表情に影が差した気がした。




「強い戦女子を生み出せる可能性がある適性者と、戦闘経験は乏しいものの、たったひとりで王女級のエイリアンと配下を倒した稀少な戦女子の信濃。軍上層部が騒がしくなるのは仕方が無いことだと思わない?」


「それは、まあ……」


「だから、一応、希望を聞いておきたいんだ。信濃はどこに、どのような部隊へ配属されたいのか。俊和君はお爺さんのところへ行けばとりあえずは安心だと思う」


「じいちゃんの所へ?」


「うん、けど、その場合。信濃とはもう会えないと思った方がいいよ」


「えっ、なんでだよ!?」




 島風の言葉に俺も驚く。流石に言いすぎでは? と思ったのだが。




「戦女子は同じ艦種も確認されているわ。まあ、顔立ちと服装、性格は違うけれど、最初の艤装は同じだから、分かり易いの。けど大和と武蔵の戦艦の戦女子は今のところ一人しか居ない。あまり言いたくないけれど、駆逐艦などは代えが効くけど、信濃の様な存在は代えが効かないの」


「だから、安全に秘密裏に使いたいと?」


「ええ、貴女のことを知る人は少ない方がいい。そして、俊和君は保護者のお世話になる場合は、生み出すことは出来るだろうけれど、指揮官としての教育は受けられないと思うわ」




 だろうなぁ。話を聞いている限り、死んだと思っていた孫が生きて帰ってきたんだ。


 何が何でも今度こそ守ろうとするだろう。


 特に自分の親戚が孫を殺そうとしたことで、その想いは更に強くなっているはずだ。


 島風の話しぶりだと、ちゃんと愛情を持っている感じに見えるし。




「お、俺は……」


「良く考えて、答えは明日聞くから。幸い、私は中立だから、色々と話を聞いてあげられるよ」




 島風にどう言うことだ? と聞いて見ると島風はあっさりと自分のことを教えてくれた。


 どうやら湘南基地の適性者の司令官は、海軍の山元大将の派閥。だが、島風を呼び出した適性者は中立に属しているらしい。


 なので、今回情報開示や俺と俊和の世話役を任せられているようだ。




「じゃあ、私は一度下がるね。二人でごゆっくり」




 そう言って、島風は部屋を出た。


 俺は困惑している俊和と顔を見合せ、これからどうするか話し合うことにした。




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