俊和との話
島風が部屋を出て、俺と俊和の二人が残された。
俺は俊和に来客用の丸椅子に座るように言って、丸椅子に座った俊和を見る。
顔色は悪くない、けれど目にクマがある。あまり眠れていないようだ。
「改めて、久しぶりだな。俊和」
「うん、姉ちゃんも」
「でも、ちゃんと眠っているのか? 目にクマがあるぞ」
「え、ああ、うん。大丈夫だよ、姉ちゃん」
俺の指摘にビクッと身体を揺らす俊和。あまり眠れていない自覚はあるみたいだな。
「食事はどうだ?」
「食べてるよ。ここのご飯、すごく美味しいし」
「何を食べた?」
「カレー! ……ばあちゃんが生きていた時に、カレー粉が残っていて、食べた記憶があるんだ。それとは違うけど。カレーだった」
「そうか……」
記憶のカレーとはかなり違うだろう。食材も想いも。
そっか、カレーとかは食べたことがあるのか。……時間が出来たら俊和と食べ歩きとか出来れば良いけど。
「姉ちゃんは」
「ん?」
「姉ちゃんは、どうだった? 目が覚めてから」
「ああ、私は島風から色々と話を聞いたよ。といってもさわりだけだが」
「さわり?」
「俊和は聞いたか? この世界とこの国の現状」
首を傾げる俊和に俺は頷く。
俺が島風から聞いたのはこの世界と日本の現状だ。と言っても一般人が知っている様な一般的なことだけだが。
「うん、北海道ってところに一番強いエイリアンがいて東北地方って場所がエイリアンに占領されているって」
「うん、だから一人でも多く戦女子が必要だって言われた」
「……うん、俺も言われた」
「俊和は、将来の為にお爺さんの所に行った方が良いと私は思う」
「な、なんでだよ?!」
「お爺ちゃんは貴方をずっと死んだと思っていた。愛情を持っていると思う。さっきの島風の派閥関係の話しからも、貴方を大事にすると思う」
「で、でも、俺は姉ちゃんと一緒に居たい!」
俺の顔を見て、ハッキリとそう言う俊和の顔色は家族と離れたくないという感じがした。
これで、頬を赤く染められていたら、少し困っていた。
家族として離れたくないのと好きな女性と離れたくない。では今後生活していくことを考えたら、色々と問題だ。
まあ、俊和の年齢と精神が噛みあっていないから、今は家族として一緒に暮らしても問題ないだろうけれど。
恐らく数年後には、俊和も恋愛感情を自覚すると思う。
もちろん、俺以外の女性を好きになるのならそれは安心でもあるが。
「俊和、嬉しいけれど。私は人間であり戦闘艦でもある。一緒に暮らしていくには問題が多い。それに戦女子としてこれから私は戦場に出る」
「なら、俺も行く! もう姉ちゃんを傷つけさせない! あんなのもう嫌だ!」
泣きそうな表情になる俊和を見て、胸が苦しくなるな。
出会って数日だが、俺が思っている以上に可愛い弟分になっているようだ。
「俊和それは駄目だ。一緒に戦えない」
「嫌だ!」
「ふぅ、それにな、俊和。お前は私と一緒に戦う前に、まずはすることがあるだろう」
「すること?」
不思議そうな顔をする俊和に俺はハッキリと告げた。
「――勉強」
え? って。顔をする俊和。うん、少し考えるとね。俊和の将来の為には避けて通れない案件だ。
まあ、離島でどうしようもなかったけれど。
「私個人的にも、俊和を戦場へ連れて行きたくない。でも、どうしても俊和が私と一緒に行きたいと言うなら、しっかりと勉強してから、国の許可を取ってからにしてほしい」
「んん? どういうこと?」
「義務教育課程を修了していない者は下っ端の兵士にも、島風が言っていた適性者の指揮官にもなれない」
「……え?」
まあ、後者の適性者は戦女子を呼びだす才能か家柄でお飾り司令官とかいそうだけれど。
昔の剣とか槍を振り回している時ならまだしも、現代の歩兵になるなら厳しい訓練と勉強が待っているはずだ。
離島で自給自足をしていたから、一般的な同世代の男の子よりは体力があると思うけど、兵士になれるか? と問われれば……。
俊和は栄養不足で体つきが細い。歩兵は無理だろう。出来て後方支援かな? オペレーターとか。
「そ、そんな!」
「残念だけれど、学校に通うことは確定だと思うぞ」
「…………」
ぼー然としている俊和を観察する。
うーん、勉強が嫌というような雰囲気ではないかな? 一応聞いてみるか。
「俊和は、勉強が嫌いか?」
「……嫌いじゃない。婆ちゃんが読み書きと計算を教えてくれた」
「具体的には?」
「えっと……」
俊和の話を聞いてホッとした。
俊和のお婆ちゃんは、孫の俊和の将来を考えて、読み書きと計算を教えていたようだ。
学校で習う、これいつ使うの? って、いうような数式は教わってないが。
五桁の暗算が出来た。ベッドの横にあった棚の上にあるメモ帳で簡単な計算をいくつか解いてもらって、確認したんだけれど。計算が速くて驚いた。
俊和に詳しく聞くと、種植える日数とか水の量とか計算していたらしい。
それと食べる量、備蓄の量もお婆ちゃんからちゃんと数を数える様に厳しく言われていたらしい。
計算を間違えれば、死に繋がるのだから、厳しくて当然か。
うん、本当に俊和のお婆ちゃんを尊敬する。
「これでも、勉強しないといけないのか?」
「うん、一般生活は何とかなりそうだけど、仕事をしていくことを考えれば学校に通っていないのは致命的だね。学歴は最低限ないと」
「がくれき……、婆ちゃんが言ってたな……。がくれきがなって」
「今なら、国に色々と賠償を吹っ掛けられるタイミングだから、学校とかのあっせんをしてもらえると思う。俊和のお爺さんが世話しそうだけれど」
かなりの金持ちのお爺さんのだから、そのへんは大丈夫だと思うけれど、国民を見捨てている以上、その辺をしっかりしてもらわないと困る。
「爺ちゃん……」
「うーん、俊和はお爺さんに会うのは嫌?」
「分からない。ただ、お婆ちゃんは出来るなら迷惑をかけないようにって、言っていた」
微妙な表情をする俊和に俺がそう問いかけると、俊和はそう答えた。
うーん、迷惑ね。
俊和の今生きているお爺さんは社会的地位も高い。俊和を育てた祖父母は離島で暮らしていた。
迷惑をかけるなってことは、俊和の祖父母の子供。
「あ、俊和のお婆ちゃんの子供って、お父さん? お母さん? どっちだ?」
「え、ええっと、俺の死んだ母さんがばあちゃんの娘だって言ってた」
……これ両親結婚する時に反対されて強引に結婚したパターンか?
うーん、まあ、この辺は俊和の生きているお爺さんに話を聞いて、許可が出たら詳しい話を聞こう。
「俊和」
「ん、なに?」
「俊和が、私と一緒に戦いたいのは分かった。けど、まずは学校に通ってからだな」
「……学校」
「うん、それと生きているお爺さんと会って、俊和の現状をもっと詳しく聞いてから、また考えよう」
「わ、分かった。けど、姉ちゃんは?」
俊和の言葉に俺は腕を組んで考える。
俺が航空母艦信濃というレアな戦女子で、既に実戦を経験している。
上の連中は迷っている可能性があるよな。
けれど、俊和のことを考えたら前線配備は今は勘弁してほしい。
「ここの司令官は女性で、水上艦を多く生み出している適性者だ。しばらくはここで色々教わることを考えている。それが終わってから、また正式配備を考えて希望するつもりだ」
それが通るかどうか分からないが。
「後は、まあ、俊和の……家族のことが気になって仕方が無いから、出来れば前線は今は困るって言っておけば、たぶん時間が稼げるだろう。少なくても俊和の今後がしっかりと決まるまでは! てな、私も俊和の傍に居たいと思う」
「お、俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたい!!」
「ははっ、ありがとう」
照れながら、強く言う俊和の頭を俺は思わず撫でた。
最初は少し嫌がったけれど、直ぐに大人しく俺に頭を撫でられる。
さて、俊和のお爺さんとこの基地の偉い人や戦女子の指揮官殿とこれから話し合いか。
あー、これから大変だ。
TS兵器擬人化転生 航空母艦 信濃(美少女)になった俺 アイビー @karumia4
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