鬼怒
「いっちゃんが艦載機を目撃したのはこの辺りのはずだけれど……」
「何も見当たりませんね」
鬼怒と涼波は艦載機が目撃された地点へ辿り着き、立ち止まる。
周りを見渡してみても、艦載機どころか鳥も雲も無い青空が広がっている。
「ここから南南西に艦載機は飛んでいったみたいだから、次はそっちを目指しましょう」
「分かりました。……でも、信じられませんね」
「何がかしら?」
動こうとした鬼怒が後ろに居た涼波に振り返ると、やや怯えた表情の涼波が足元の海面を見つめている。
「ここって、十年くらい前は陸地だったんですよね」
「ええ、愛知県と静岡県の県境。陸戦型の王女級のエイリアン……約三体分の自爆によって陸地は吹き飛んでしまったのよ……。民間人の避難がほぼ完了していたのが不幸中の幸いだったけれど、ね」
鬼怒も当時、陸戦型のエイリアン討伐戦に参戦しており。王女級エイリアンの自爆によって、多くの犠牲が出たと聞いたのは、避難民の護衛として湘南基地へ辿り着いた時だった。
かつてここ行なわれた人類、戦女子とエイリアンの激戦を想い、二人はしばらく黙とうをささげた。
「さ、行きましょう」
「はい」
二人は南南西へ向かって、進みだす。この時点で、二人は一式陸上攻撃機の「艦載機を目撃した」という報告は誤認だと思っていた。
エイリアンが確認されたと報告が来て、偵察に出も、何も見つからないというのはよくあることだ。
けれど、移動を開始してから約一時間後。
九十四式水偵を飛ばしていた鬼怒は、水偵の視界から見えたモノに一瞬驚き、即座に気を引き締め直した。
同時に彼女の背中から大量の冷や汗が吹き出てくる。
「拙いわね」
「そ、そんな」
同じく、水偵を飛ばしていた涼波も同じ物を発見して、身体を強張らせる。
二人が水偵を通して見たモノは、海上を漂う細長い小島の様な赤黒い物体。
それは、全長五百メートルのエイリアンの仮巣。
見る者を不快にさせる生物と機械が融合した合成生物。
恐らくアメリカの空母を参考にしたと思われるそれは、のっぺりとした赤黒い人間の右半身が側面に張り付いているようにも見える。
「あの形と大きさ、空母級からランクアップした巣級ね。ということは高い確率で王女が住んでいるわ」
「そ、そんなっ!!」
エイリアンの上位個体は、最初の九体のエイリアンは女帝級と呼称されている。
その九体の娘で、人類と戦い生き残り、各地に巣を作った個体を女王級。
女帝級、女王級が生み出した若い個体を王女級と呼称されている。
エイリアンは学習能力があり、時間が経つにつれ強力になっていく。
それ故に、王女級は見つけ次第撃破しなければならない。
「いつの間にここへ移動したの」
ギシリと奥歯を噛み締める鬼怒。彼女は比較的強くない王女級であろうと恐ろしい存在だと言うことを、その身をもって知っている。
何より過去の奇襲から、日本政府はエイリアンの浸透を阻止、早期発見するために、過剰と言えるほどのレーダーを配備している。
それを掻い潜り、首都圏を越えてここまで辿り着く。
その方法を早期に解明しなければ、今後甚大な被害が出る。
「撤退します」
「は、はい」
鬼怒の判断は早かった。戦えば熟練の戦女子の鬼怒と新人の涼波の二人だけでは、エイリアンと戦っても無駄死となる。
「――っ、見つかりましたか。全速!!」
「は、はい!!」
鬼怒は涼波に水偵を廃棄させ、エイリアンの赤黒い肉と機械が組み合わさった艦載機の追って振り切り無事に新・湘南基地へと帰還した。
帰還した鬼怒と涼波の二人の報告を聞いた第三部隊の隊長である【扶桑】は、事の重大さに「ま、またなのね……」と頭を抱え。
戦女子の司令官【沖田水無月】は、「皆を集めて」と冷静に指示を出しながら、滅茶苦茶動揺しながら、お気に入りのティーカップとソーサーをガチャガチャと音を鳴らし、【扶桑】と副部隊長の【妙高】に心配されていた。
「白い艦載機、もしかしたら伊勢方面の部隊の物かもしれませんね」
「というと?」
「何らかの形でエイリアンと遭遇、そしてこちらの方まで逃げてきて、救援を呼ぶためか、何かしらの理由があって艦載機を飛ばした……」
「で、ではその方は?」
「いえ、これは私の予想の一つです。いっちゃんが見たのは、エイリアンの艦載機だった可能性もあります」
鬼怒は涼波に自分の予想の一つを呟き暫し考え込み、その後部隊長の扶桑にエイリアンの巣とその周辺の偵察を志願した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます