遭遇
目が覚めると目の前には俊和の寝顔が飛び込んでくる。
うん、驚いて声をあげなかった自分を褒めてやりたい。
というか、寝ている間に俺が思ったよりも俊和を強く抱きしめていたみたいで、ちょっと俊和が苦しそうだ。
俺は俊和を起こさないようにゆっくりと身体を離す。
布団から出て、窓のカーテンを開けて陽の光を部屋に入れると薄暗かった部屋は明るくなり、俊和はもぞもぞと布団に顔を押しつける。
「俊和、朝だよ」
「んー……」
苦しそうにうめく俊和から布団を優しく取ろうとすると、俊和は寝ぼけながらも布団を奪われないように抵抗してくるが、
「ほら、朝だ」
「あ、うん。分かったよ」
もう一度、今度は少し強めに声をかけると目を覚ました。
その後は朝食を食べて、今日は何の仕事をするか確認をする。
「ニワトリを柵の中に離して、畑やって。水を汲んで、だね」
「分かった」
その後は、俺の訓練の時間となった。
そこで俺は今日はどの方に彩雲を飛ばすか悩んでいたが、ふとこの島はどの県に属しているのか、疑問に思った。
というか、なんで最初に気づかなかったんだ?
艦載機を東西南北どこへ飛ばせばよいのか悩んでいたけれど、この島がどの都道府県に属しているのかが分かれば、ある程度は飛ばす方角が絞り込めるかもしれない。
「俊和、そういえば、この島は何県なんだ?」
「え?」
「都道府県だ。神奈川県とか、北海道とか。ここは何県の島になるか分かるか? あ、いや。昔の郵便のハガキとかあるか? それなら、この島がどの県に属しているか分かるかもしれない」
「え、え? ええっと、――あっ、確か婆ちゃんが静岡県だって言っていた気がする」
「本当に?」
「ああ、えっとそう言えば、本土の親戚から送られてきた婆ちゃんのハガキとかあったはず」
「分かった。お婆ちゃんの部屋にある?」
「うん、確か婆ちゃんそういうのは、取っておいたはずだよ」
俺は俊和と共に、俺が今借りているお婆ちゃんの部屋に移動して、箪笥の中に入っていた。日記やハガキ、手紙などを確認。住所は確かに静岡県だった。
「となると、ここは太平洋側。恐らく北。いや北東か北西の方が良いか? ともかく、ある程度の位置が分かった」
太平洋側の静岡県の離島なら、恐らく南側にあるはず。
ならば、ずっと北側へ飛んでいけばいつか辿り着くと思う。
というか、辿り着いて下さい。
「なんとかなりそう」
「う、うん。そうだね」
俺の言葉に、ちょっと浮かないというか、戸惑う俊和。
うーん、本土へ。今までこの島で祖母と二人で暮らしてきた俊和にとって、本土の人間にはあまり良い感情を持っていないのかもしれない。
いや、感情を持つ以前かもしれない。
俊和は同世代の子供と交流が無いようだ。年齢的に小学生。いや、その前に幼稚園に通う為に本土へ行っても良いはずだ。
それが無いと言うのは何か事情があるのだろう。
俺は住所が書かれたハガキや手紙を探している時に見つけた、俊和の祖母の日記を後で確認することにした。
ニワトリを小屋から出して、柵で仕切られた広場へ放した後、俺と俊和は水を運び、
畑の手入れをした。
雑草が生えないように、小さな芽の雑草も丁寧に取り除く。
二人で昼食を食べて、俺は一人海岸へと移動する。
俊和は今日のノルマ。と言っても自分で作っている分の畝とかがまだできていないので、別行動だ。
「ちょっと怖いけれど、北へ一機向かわせよう」
俺の身体が一瞬光り輝き、そして艤装が展開される。
「……どんな服を着ていても、艤装を展開するとこの神楽舞っぽい衣装に変化するんだな」
実は俺は先ほどまで動きやすトレーナーとジーパン姿だったが、艤装を展開すると瞬時に着ている衣服が最初に着ていた神楽舞の衣装に変化する。
それと艤装を解除した時に元のトレーナーとジーパンか、神楽舞の衣装のままにするか感覚で選べる。
まあ、基本的に普段着に戻しているけれど。
それと、全裸の状態でも艤装を展開をすると神楽舞の衣装に変化する。
風呂に入ってる時に、艤装を展開する必要が出た時は結構便利な機能だと思う。
「さて、行きなさい。彩雲」
俺は艦載機彩雲を北へ向かって、発進させた。今回は彩雲を燃料切れになるまで飛ばすつもりだ。
理由は本土の状態が早く知りたいからだ。
もしも、本土に人間がおらずエイリアンが歩きまわっているようなら、俺もこの島で骨を埋める覚悟をしなければならないだろう。
もちろん、他の地域に人間が居るかもしれないから、調査はするつもりだけれど。
「どうなるだろうか?」
現在、午後を少し過ぎたころだ。しばらく時間が空いたな。
よし、今日は複数の艦載機を動かしてみよう。
一度に四つの彩雲を動かしたから、一機ずつ増やして行こうか。
こうして、俺は烈風二十機、流星二十機の艦載機を同時に動かしてみた。
「ぐっ、細かく動かそうとするとちょっと頭が痛くなるけれど」
耐えられないわけではないな。
男の時に遊んだフライトシミュレーションゲームみたいに烈風と流星を使い、ドッグファイトや編隊飛行をやってみる。
うん、これ結構負担が大きいけれど。
「か、かっこいい!!」
「ふふっ、そうだろう?」
ちょうど畑仕事を終えて、釣竿を持ってここへ来た俊和が目を輝かせるくらいには、艦載機を動かせている。
「……とはいえ」
エイリアンと戦闘になったら、何処までやれるだろうか。
エイリアンそのものを見たことが無い俺は、それだけが心配だった。
そして、ちょくちょく艦載機の様子を確認していたそろそろ日が沈み始めた夕方。
「――はっ!?」
「ん、どうした、姉ちゃん」
「い、いや、何か大型船っぽい物があるんだけれど……」
ええっと、海上をぽつんと浮かんでいる船らしきものがある。かなりの大きさだ。
タンカーか? そう思い、俺は彩雲を近づけて行く。
赤と黒のカラーリング……。
彩雲が徐々に船に近づいて行くと、俺は猛烈に嫌な予感がし始めた。
そして、船がある程度ハッキリと見えてきた。
東へ進んでいる大型タンカーらしきもの。
けれど、綾雲がソレに近づくにつれ、俺はタンカーではなく、空母のように見えてきて。
「え?」
突然、船の奥側から何かがにょきっと生えてきた。
鉄色の金属と赤黒い肉の様な、腕の様なものが。
「…………ん、ええ?」
戸惑う俺が次に見えたのは、腕の先から戦車砲の様な物がせり出てきてそれがこちらへ向けられ、光で視界が一杯になった。
「――い゛っづづっっぅうぅっっっ!!!!!!」
「ね、姉ちゃんっ!!??」
右目を閉じて彩雲の視界を接続していた左目に激痛が走る。
突然左目を押さえて、その場にうずくまる俺に砂浜で釣りをしていた俊和は釣竿を捨てて、慌ててこちらへ走り、海へ入ってくる。
「姉ちゃん! 大丈夫、姉ちゃん!!」
「だ、大丈夫!」
「ち、血が出てるよ!!」
海面に片膝を着いた俺の足にすがり付くように俺を抱き締めてくる俊和を安心させるように笑いかける。
俺はゆっくりと左目を開けて、視界を確認すると確かに視界が少し紅い。
チッ、放っておけばそのうち治りそうだけれど、もしかしてあれば……?
「と、俊和、質問がある」
「な、何だよ」
「エイリアンの外見ってどんなの?」
「え、ええっと確か、化け物だって、それと婆ちゃんが言うには人間の兵器の形を真似して」
「うん」
「確か、色は赤と黒の」
「分かった。もういいよ」
俺はゆっくりと立ち上がり、俊和に告げた。
「ごめん、エイリアンに見つかったかもしれない」
「……え?」
「たぶん、エイリアンはこの島に来る」
俺の言葉に、俊和は顔を恐怖で強張らせた。
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