第18話 新宿を封鎖しろ
漆黒の翼、三本の脚を持つ姿の八咫烏だが、実のところは
しかしながら、今の奈良県に当たる葛城国造の祖とされており神話上の神ならず現世に続く賀茂、又は鴨姓の始祖だとされる。
神武東征の際に神武天皇を
「閻魔とはな、簡単に語れる間柄ではないのだ」
八咫烏は閻魔大王について語り出した。
「閻魔は、黄泉の国と現を行き来出来る稀有な存在だ。
私は太陽神だの、導きの神だなどと言われているようだが、現の存在だ。何故この時代にいるかと問われれば、閻魔によって時空を超えさせられてしまったからなのだ」
「要するに貴様は、閻魔と何かしらの取引をして今は奴に従っている、そう言う訳じゃな?」
と、コマ。
「私の娘、玉依姫が閻魔の手下、忽那によって囚われている」
「忽那ってあの忽那か? コマ?」と慎一が聞くと、
「そのようじゃな」
とコマ。続けて、
「八咫烏よ、何故閻魔がお前の娘をさらうんじゃ?」
と聞くと、八咫烏の表情は少し曇って、
「少しばかり喋り過ぎたようだ。これ以上貴様らに話すようなことではない」
と、幾ばくか力なく言った。
「そんなことないよ!」
サキが割って入る。
「カラスさん、誰かを助けたいって気持ち、アタシたちは一番わかるよ。このシン兄は、この中にいる有紀さんを助けたいって物凄く心配してるし、ネコちゃんは、閻魔大王を裏切ってまでシン兄のこと助けたいって思ってる。アタシは、玉依姫さんを助けたいって今思った」
サキの言葉を聴いても、八咫烏の表情は変わらない。
「そこの娘よ。我が娘を助けたいだと? 随分と、軽々しく言う」
「軽々しくなんて言ってないよ! アタシ達、力を合わせて立ち向かえば…」
サキが言い返そうとする刹那、八咫烏は怒鳴った。
「ふざけるな! お前らごときが忽那に勝てるとでも思っているのか! 雑魚を相手に少しばかり勝ったからといって、のぼせ上がるのも大概にしろ!」
「ひっ、ひっ」
サキは八咫烏の怒号に気圧され、また自分の思いを否定された事に悔しさを覚えて泣き始めた。
「八咫烏よ。ワシも簡単に忽那に勝てるとは思ってはおらんよ。しかし、このサキの思いはもう少し汲んでやってはくれぬかのう? ワシはサキほど優しい他人思いの娘をあまり知らぬ」
コマは八咫烏に言った。
「優しさや思いだけで勝てる相手ではないぞ」
「分かっておる。しかし思いと言うヤツは、思わぬ力を発揮するとは思わんか?」
そうコマが言うと、八咫烏の漆黒の瞳の奥に、柔らかい焔の様なものが宿った。
漆黒の「闇」の中では、刻が止まっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時速80kmで走行していた中央快速も、その乗客も、半径500mの「闇」の中で走っていた車両も、飛んでいる鳥でさえも。
「闇」中から外は見る事が出来るものの、外の世界から「闇」の中は窺い知ることができない。
まるで光をも吸収するブラックホールのようであった。
慎一達にしか見えないが、ヤマタノオロチが半円の闇の頂点に鎮座し、十六の眼で文字通り八方に睨みを利かせている。
外から闇の中に入る事は出来るが、刻が止まっているため中から外へは出ることができない。
その意味では内向きの結界と言っても差し支えなかろう。
しかしながらこの世のものではない慎一、コマ、サキの3人は「闇」から放り出された。
何人かの警察官や数台の警察車両が中へ入って行ったが、無線は役に立たず、十数分経っても誰一人戻ってくるものはいなかった。
所轄は新宿警察署だが、この数十分間の状況の成り行きから、異例のスピードで警視庁に対策本部が設置され 、第八機動隊及びSATの前身であるSAPが第六機動隊から派遣された合同チームが結成された。
特科車両隊も待機させ、警視庁の威信をかけたチーム編成で未曾有の事件に対応しようとしている。
しかし、精鋭の隊員たちも、この「闇」には全く歯が立たない。次から次へと隊員が「闇」に突入しては二度と戻ってこなくなっていた。
報道のヘリが上空を旋回し、多数の野次馬で「闇」を取り巻く円周3kmは騒然となった。
交通管制が敷かれ、東は市ヶ谷以西、西は幡ヶ谷以東、北は落合 、南は原宿付近では交通止め。JRおよび営団地下鉄丸ノ内線、都営地下鉄新宿線、京王、小田急、西武の各私鉄も不通となった。
まさに有史以来パニックである。
首相官邸の動きも早かった。
総理大臣である早川 徹州は、未曾有の事態に思考が止まり、煮え切らない都知事 神谷 崇に恫喝の電話を掛け、自治体の要請に基づく自衛隊派遣を決めさせた。
同時に国家公安委員長である澤田 啓一を座長とする有識者を集めた会議が招集させ、約20年前に惹起したカルト教団の地下鉄を狙った同時多発テロと同様の案件としたアイデアを中心とした対策を練り始めた。
「闇」はこの後どうなるのか。
誰もが恐怖におののきながら想像を巡らしている。
六時間が経ち果たして「闇」は動き始めた。
まず、「闇」が形成されたのち外部から入り込んだ十数名の公僕とその車両が吐き出された。
殆どが心肺停止状態で放り出され、残りのものは意識不明である。
車両は裏返しになり、横転し、既に用を足さない鉄の塊と化していた。
そして、半円だった「闇」は空中に移動し、完全な球体に変化した。地上または、地下にあった構造物は完全に残ったが、人間たちは「闇」の中に取り残されたままだ。
自衛隊の隊員による放射能測定が実施されたが、何も検知されなかった。
公安委員会に召集されたメンバーの一人、東京科学工科大学の助教授、道足みちたり 恭代は、日本でも有数の霊科学者だ。
一応公安から呼ばれた彼女は、会議中ほかの有識者から半ば嘲りの眼で見られいたので居たたまれなくなって会議を中座し、現場へ向かった。
そして「なによ、これ」と「闇」を前にして膝を折り、地面に跪ひざまずいた。
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