第32話 タッチポイント
「※ ○ ♀ $ ⁂ ! ! ? ! !」
道足は興奮が過ぎて言葉にならない言葉を発した。
「おい、またアイツらだ」
慎一が道足とマリー=テレーズがE.G.o.I.S.Tから何かを照射する事で自分たちを可視化しているのに気がついて言った。
「ワシが、少し話して見るかのお」
コマはそう言って道足の方に向き直して言った。
「おい、お主ら。誰なんじゃ? ワシらを普通の人間どもに見せるその道具は何なんじゃ?」
道足にとっては、想像の斜め上をいく展開だった。
「ま、ま、マリー=テレーズ! 何か喋っているわ!」
「先生、落ち着いて。日本語ですわよ?」
道足は深呼吸をした。
少し興奮を抑えられた。
「私はこの大学の助教、道足恭代よ。貴方は誰」
コマは答える。
「道足殿、ワシはコマと申す者じゃ。少し訊きたい。その妙な物でワシらをどうするつもりなのじゃ?」
道足は戸惑った。
答えなど用意していない…と言うよりも自分の研究対象と会話すると言うことなど全く想定していなかったからだ。
「ワシらを、見せ物にするつもりかのお?」
コマは少し不機嫌そうに尋ねた。
「この装置は『E.G.o.I.S.T』と言うの。貴方達を可視化する装置なの」
道足は出来るだけ丁寧に説明した。
しかし、
「なんだよ、やっぱり俺らを見せ物にしたいんじゃねえか!」
軍荼利明王の憤怒した表情で慎一が言い返す。
「ち、違うわ! これは霊科学にとって本当に重要な一歩なの。貴方方を見せ物にするつもりなんて…」
「それではどうするつもりか、分かりやすく教えてくれぬか? 道足殿よ」
感情を圧し殺しながら八咫烏が詰め寄る。
「お姉さん、アタシたち、色々あってこんな姿になっているんだけど、悪いことをしてるわけじゃないのよ。その、少し、話せませんか?」
サキは会話を提案した。
「まず、その装置を使うのは止めてくれないか。装置がなくても、話し合う事は出来るんだぜ。道足さん」
そう慎一が言うと、
「マリー=テレーズ、悪いけど止めてもらえるかしら」
と言って道足はマリー=テレーズに命じてE.G.o.I.S.Tを停止させた。
慎一たちの姿は消え、風景はいつものキャンパスに戻った。
E.G.o.I.S.Tの出す大音量の音も消えて静寂が戻った。
マリー=テレーズはもちろん不満顔だ。
「さあ、止めたわよ。どうするつもり? 出てこないの? それとも私を担いだのかしら?」
「まあそんなに慌てるでない。道足殿」
そう言ってコマがスーッと現れた。
「済まぬが、姿を現せるのはワシだけなのじゃ。他の者たちにはワシが質問を取り次ぐ」
マリー=テレーズはE.G.o.I.S.T無しでもこの化け猫が何故見えるのか興味を持った。
結界師である自分でだけでなく、霊感のない道足まで普通に見ることができるからだ。
道足は姿を現したコマに向かって、
「そう、分かったわ。それで貴方は何者?」
と訊いた。
コマは答える。
「ワシは鍋島藩臣下、龍造寺又一郎の飼い猫、コマと申す。主人の母、お政の怨み晴らすため化け猫となって300年間以上生き延びてきたんじゃよ」
道足は質問を続ける。
「あの仏像はだれ?」
「あやつは軍荼利明王様じゃ。その正体は慎一という。丁度一年前この先で死んだ。許婚がおっての、心配でコヤツは成仏できなんだ」
マリー=テレーズは道足の後ろで顔を手で覆って、
「God...」と呟く。
「あの女の子は誰なの?」
マリー=テレーズが訊く。
「あの子はサキという。慎一と同じ日にならず者に殺された。殺させたのはサキの両親じゃ」
それを聞いたマリー=テレーズの心は張り裂けそうになった。
マリー=テレーズはサイバーパンクやミリタリー趣味があるオタクだが、基本的に人道主義であり、慈悲深い性格を持つ。
コマは自ら八咫烏の話をした。
「そして、カラスだが、本物の八咫烏じゃ。流石にお主らも知っておろう?」
「し、知らない…」
道足は正直な女だった
。
マリーテレーズは内心
(この間日本サッカー協会のキャラクターだって教えたじゃない)
と憤慨していた。
「八咫烏も知らんのか、と怒っておるぞ。まあ、それは良い」
それはよい、とコマが言ったのを聞いて八咫烏は怒っている。
コマは続けた。
「慎一は成仏できなんだで、地獄の使者が次々と送られてくる。ワシたちはそれと闘っておるのじゃ」
道足は頷く。
「ワシらには見せ物になりたくない理由があるんじゃ。道足殿の『研究』とやらが何を言っておるのかワシにはとんと分からんが、どうかこのコマの顔を立てて諦めてはくれぬか?」
しかし道足はいつも往生際も悪い。
コマの言っている事は理解できるものの、自分の研究を進めない限り学者としての未来も不確かなものになる。逡巡しているうちに、コマが慌てだした。
コマは、
「済まぬが、今言ったように追手が来たのでワシらは戦わねばならん。一度消えるぞ。悪く思うな」
と一言言って霧のように居なくなった。
そう。忽那が八咫烏についに追いついたのだった。
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