第11話 復活のシャール
翌日、ヘレスとアルナ、父さん、母さん、兄さんにも手伝ってもらい総出で地下室の大清掃が開始された。
扉も一階廊下の窓も全開にして、床を水のモップで拭き、天井の蜘蛛の巣をとり、濡れた雑巾で隅々まで拭いていく。
例の腐った樽は兄さんとヘレスがお外へ持ち出し、中身を捨てて樽を解体。
乾燥させて燃やす事にした。
戸棚もあちこち腐っていたので、壊して外へと持ち出し、樽と同じ運命に……。
これ、一日で終わるのかしら?
「これでしばらく開けっ放しのまま放置だな。室内の乾燥と換気して……ワイン造りに使えそうだ」
「まあ、それじゃあうちでワイン造りが出来るんですね?」
「ああ、アルナの家のりんごの使い道の一つとしていいと思う」
兄さんはアルナの家のりんごを使って、新商品を開発してくれる事にした。
その第一弾がアップルワイン。
ワインといえばぶどうだけど、スパークリングのアップルワインはとても美味しいと兄さんが言っていた。
理想のスパークリングワインを作れれれば、売り方にはいい考えがある、と少し悪い顔をしていたのできっと兄さんならこの町の特産品レベルまでアップルワインを有名に出来るだろう。
わたしもなにか手伝えたらいいのだけれと……もう貴族ではないから、お茶会や社交場で売り込みも出来ないわ。
「あと、アルナの家の両親についても少し探ってみるけど……半年以上戻ってこないとなると、ちょっとあまり期待は出来ないよな……」
「……そう、ですね……」
兄さんからしてもアルナの両親は絶望的だと……まあ、そうよね。
貴族に意見をすれば、貴族の性格にもよるけれどその場で手打ちにされてしまう事はよくある事らしい。
舞踏会で、自慢げにそんな話をしている人を何人か見た事がある。
平民は口答えするようなら見せしめに殺してもいい、という考えの貴族が悲しい事に少なくはないのだ。
「……あの、兄さん」
「ん?」
「アルナの事もそうなんだけど……」
黙っていると決めた。
だから、せめてこれだけは伝えさせて欲しい。
「わたしに出来る事があれば、なんでも言って欲しいの。家族なんだもの……わたしも兄さんの力になりたい」
兄さんには、たくさん、たくさん助けてもらったから。
イリーナの言っている事は、半分以上分からなかったけれど……。
「……、……そうか……ユニーも大人になったんだもんな」
「そ、そうですよ! 女のわたしにはあんまり出来る事は、少ないかもしれないですが……頼りにならないかもしれないですが!」
「分かった分かった、本当に困った時は頼むよ」
「絶対ですよ!」
「うん」
そう約束を取りつけられただけ良かった。
多分、きっと、おそらくは。
「ふう、年寄りには骨が折れるわい」
「いやだわ、お父さんったらおじいさんみたいな言い方ですわよ」
「ははは、孫の顔も見ないのにじいさんはひどいだろう」
「旦那様、肩をお揉みします!」
「おお、ヘレスありがとう。じゃあお願いしようかな」
「はい!」
ダイニングに戻ると、ソファーに座った父さんの後ろへヘレスが回り込み肩揉みを始める。
父さんたちもすっかりヘレスへ心を許しているみたい。
──『シナリオ通りにしないと、シュナイド様は魔族に殺されてしまうんですよ!』
頭の中にイリーナの言葉が木霊する。
いいえ、いいえ……そんな事にはならないわ。
それに兄さんを害する魔族がヘレスとは限らないじゃない。
わたしは信じないわ。
あなたの言葉なんて信じない、イリーナ。
「さーて、昼はなににしよう?」
「あ、そうだ! いいものを作ってたんです!」
「?」
石窯の中に入れておいたアップルパイを取り出す。
アップルパイ──昨日アルナが持ってきてくれた型を使って、今日も作ってみました!
しかも昨日とは違って大きいのよ!
アルナは大・中・小の三種類のパイ型を持ってきてくれたの。
もちろんりんごもたくさん持ってきてくれたのよ。
な、の、で!
「じゃーん!」
大きな大きなアップルパイでーす!
型から外してお皿に盛り、ナイフで人数分に切り分ける。
りんごは増し増し!
シャールだけでなくローズさんの分も作ったの。
「おおー! すごいなこれ。もらっていいのか?」
「もちろんです! 感想を聞かせてくだ」
「いただきまーす」
特に兄さんの意見は是非聞きたい。
ドキドキして見上げていると、ぱっと兄さんの表情が明るくなった。
「うん、うまい!」
「!」
「でも一つ。溶いた卵を表面に塗るといい。すごい艶が出て見た目もうまそうになる」
「……! ……た、試してみます!」
「うん、今夜にはひよこと卵をもらってくるから、明日の分に試してみろよ。次回作も楽しみにしてるぜ」
「はい!」
ヘレスがお皿に父さんと母さんの分を取り分け、運んでくれる。
アルナがイルナの分をテーブルに置いて、椅子を引いて座らせた。さすがお兄ちゃん。
わたしも自分の分をお皿に取って、石窯の中からもう一つのアップルパイを取り出す。
ふふふ、さすがにこの人数なので三つ焼いておいて正解ね。
「こんなに焼いていたのか」
「はい! 余っても夜の子たちにあげればいいかと思って」
「あーなるほどな。そうだな。でも、このアップルパイいいな。俺の店舗の方にも持ち帰り用として売ろうか」
「え! 本当ですか!」
「ああ。アルナんちのりんごと、それをユニーが入荷加工して作ったアップルパイ。それから将来的にはアップルワイン。うん、いいんじゃないか? アルナのりんご園産と提携して、新商品を開発して手広くやっていければWIN-WINだろ?」
「……! シュナイドさん……!」
「素敵!」
親の戻らなくなったアルナの果樹畑。
りんごしかないから、確かにりんご園ね。
お互い協力していけば、きっともっといろんな事が出来るはず。
「わたしもアップルパイ以外になにかお菓子が作れないか試してみます!」
「普通にりんごジュースにしても売れそうだよな。瓶の仕入れ先を探しておくか」
「りんごジュース! わたし大好きです!」
「りんごジュースが作れるようになれば、りんごジュースを混ぜたケーキとかもいいんじゃないか?」
「ケーキ! りんごジュースで!? すごい、考えもしませんでした! 素敵です!」
「あとは香水とか? 石鹸に混ぜてりんごの香りがする石鹸ってのもいいかもな」
「す、素敵です!」
ぽんぽんと色々な使い道を思いつく兄さん。
すごすぎてアルナや父さんたちは、ぽかんと口を開けっ放し。
りんごにそんな使い道があるなんて!
兄さんにこれほどの商才があったなんて!
驚きの連続だ。
「あとはそうだなー、ドライフルーツにしてもいい。細切れにしたりんごのドライフルーツをクッキーなんかに混ぜたりして売るのはどうだろう? ドライフルーツだけでも需要はあるけど。うんうん、なかなかいい感じになりそうだな」
「夢が広がりますね!」
「そうだな。やれる事はたくさんありそうだ」
『あ!』
あ?
突然上がったシャールの声に、みんなの視線が集まる。
茶色かったシャールの体が輝き始めた。
え? え? なに? なにが起き……!
『わぁーい! 完全ふっかーつ!』
「まあ!」
「おおー」
「なんと!」
「まあ、素敵!」
シャールの体が……真っ白に!
「白柴!」
「し、しろしば?」
「あ、いやこっちの話。……そうか、シャールはこれが本来の姿か」
『うん! 地下室が綺麗になったからわがはい完全に戻ったよ! ありがとうみんな!』
「こちらこそ! これからもよろしくお願いします、シャール!」
『うん、よろしくねー!』
我が家の守護精霊が、完全復活した模様です!
白いシャールも、とてもかわいらしい〜!
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