恥ずかしがりで小動物みたいに可愛いロリ体型の女の子。俺の尊敬する先輩であり、カノジョである

緒方 桃

第1話 俺の好きな人

「なぁ志勢ゆきなり、好きな人とかいる?」


 音楽室の近くの小さな部屋で、同じ吹奏楽部の友達のヒロこと、島田広宙しまだ ひろみちが突然、恋バナを持ちかけてきた。


「えっ、ヒロ……もしかして?」

「いや、そういうことじゃなくて……。ほら? 俺たち高校から吹奏楽始めた同士じゃん?」

「あー、そうだな」

「女子がたくさんいる環境……新鮮じゃん?」

「おっ、おう……」

「めっちゃ可愛い人、多くね? 同い年も、先輩も」

「おう、そうだな」


 ヒロの言うとおり、ウチの高校の吹奏楽部は可愛い女子が多い。

 特に先輩たちの顔面偏差値が非常に高い。

 そんな環境に男子が少ないとは……どういうことだ? とたまに思うことがある。


「で? ヒロは好きな人、いるの?」

「いや、だからぁ。好きな人はいないっつの!」

「……ホント?」

「……ホント、だけど?」


 人は嘘をつくとき、目線を右斜め上に向ける。

 そしてヒロは今、そのお手本通りの動きを見せているのだ。「嘘ですよ」と言ってるみたいで実に面白い。


「じゃあさ、好みというか、タイプの人は?」


 俺は質問の内容を変えて聞いてみる。

 てかヒロ、間違いなく部員の中に好きな人いるだろ。

 そもそも「好きな人いる?」って聞くのはたいてい、好きな人がいる人の仕草だからな。


「えっと……、パートリーダーの……桐ヶ谷きりがやさん」

「あー、なるほどねぇ」


 ヒロの好きな人がわかり、思わずにやけてしまった。

 桐ヶ谷沙霧きりがやさぎりさんは、ヒロが所属するサックスパートのパートリーダーの三年生。

 サラサラとした黒髪ロングとクールで落ち着いた雰囲気が特徴で、学年一の美少女と呼ばれるほどの──いわば、高嶺の花だ。


「もういいだろ? 俺の話は……」


 ヒロは赤面しながら、無理矢理話を終わらせようとする。


「てか、お前に聞いてるんだけど??」


 そして話は俺の方に回ってきた。


「なぁ志勢、好きな人いるだろ?」


 俺がヒロに好きな人がいるのをお見通しであるように、ヒロも俺に好きな人がいるのはお見通しみたいだ。


「いるよ。好きな人」


 だから俺は包み隠さずヒロに打ち明けるつもり。というか、早くこの俺の恋心を誰かと分かち合いたいと思っていたから、正直ヒロが唐突に投げかけた質問に「よっ、待ってました」と内心で叫んでいた。

 それほどになるまで、俺は誰かを好きになったのだ。


「相手は?」

「……姫坂先輩」


 俺は打ち明けた。同じパートの二年生、姫坂桃子ひめさかももこさんが好きだと。

 それなのに──。


「えっと……、誰だっけ」

「おい」

「いやぁ、悪い悪い。ほら? ウチの部員多いから、あんまり関わらない他のパートの人とか覚えてねぇし」

「本当に分からないのか!?」


 俺の頭の中が姫坂先輩でいっぱいだからこそ、なんで知らないんだよ! と思ってしまった。


「でも、特徴教えてくれたら思い出すかも」


 と、ヒロが言うので、俺は姫坂先輩の特徴を細かに教えた。

 肩に掛かるくらいの髪の長さで、幼げな見た目──ぱっと見、同い年か年下に見えるほど。

 普段から制服の下に薄桃色のカーディガンを着ており、いつも萌え袖なのがたまらん!! などなど……。


「あー、あの人か」


 ヒロは思い出したみたいだが、なんか反応薄いな。


「なんだよ?」

「いやぁ、確かに可愛いと思うよ? でもさ……年上じゃん?」

「それがいいんじゃないか!!!!」


 興奮して、思わず大声が出てしまった。

 しかも身体が熱くなってきたし。さすが、恋の病ってところだな。


「えー、でもさぁ……年上にはさ、引っ張られたいわけよ。だからさ、年上にはしっかりした人。クールな人か、余裕とか包容力のある人を求めるべきだろ?」

「なんだよ。姫坂先輩がそうじゃないみたいに決めつけやがって」

「だって……、そうじゃん?」

「まぁ、そうだけど」


 俺は何一つ否定しなかった。

(包容力の有無はさておき、)確かに姫坂先輩は、部内では「恥ずかしがり屋でちょっぴりおっちょこちょい」で精通しているから、ヒロの理想像からは程遠い人だ。

 まぁ俺は、姫坂先輩のそんなところもまた可愛くて好きなんだけどな。


「でもさ、なんか健気に見えるというか、なんでも懸命に頑張るところは好感持てるかな」

「わかる!!」

「なんか……少女漫画の主人公みたいな感じ?」

「わかる!!!」

「それで……イケメンの先輩とかクラスメイトに、密かに恋心を抱いてそうな……」

「あーあー!! 聞こえない聞こえなーい!!!」

「ははっ、悪い悪い!」


 そう言ってヒロは俺をからかうようにケタケタ笑う。くそっ、俺のピュアな恋心を弄られた……。

 でも、もしヒロの言う通りだったら……。そう思うと、胸が今までに無いくらいざわついた。


「ヒロ、俺決めたよ」


 高校一年の七月、俺は大きな決意をヒロの前で掲げる。俺の高校生活を大きく変える決意だ。

 今は夏。もうすぐ青春の真っ只中といえる夏休みが訪れる。彼女と過ごす夏休みを過ごしたい。


 だから──。


「俺、姫坂先輩に告白する」


 俺は本気だと、言わんばかりの真剣な表情でヒロに言った。

 告白本番にそんな表情を作るための練習を兼ねて。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る