第2話 姫坂桃子
「あっ、あの! 吹奏楽部、どうですか?」
高校一年の四月、どの部活に入ろうかと迷う俺に天使が声をかけてきた。
勇気を出して絞り出された可愛い声と、頬を赤くして目を潤わせる姿に俺の心は射貫かれた。
これが俺が吹奏楽部に入ったきっかけであり、一目惚れから始まった俺の初恋である。
入部当初は胸の高鳴りがちっとも止まないくらいの毎日が続いた。
吹奏楽はおろか、音楽の初心者の俺に、その先輩は丁寧に優しく教えてくれた。その時間があまりにも裕福で、部活ではその時間ばかりが楽しみで仕方が無かった。
そしてしばらくして、俺たち一年生が演奏する楽器を決めるときが来た。
もちろんどの楽器をやるか決まっている。俺は先輩と同じ──
「フルートがやりたいです!!!」
『えっ、まじで?』
『男子がフルートって、珍しくない?』
『しかも初心者なんでしょ? 大丈夫??』
……あれ? 俺、なんかまずいこと言った??
〇
あれから三ヶ月、俺と姫坂先輩は部内でそんなに深く関わっていない。
というより関わるための都合が無くなってしまったのだ。前まではフルートのこととか、いろいろ教えてくれたのだが。
本当は先輩ともっとお話ししたり、仲良くしたい。それを望んで、同じパートであるフルートを始めたのに。
「…………」
だけど高校の吹奏楽で男子がフルートをやるのは極めて稀有な話で、フルートを持った男子がステージに姿を見せるだけで会場がざわつくほどだという。
現に俺は、「フルートをやりたい」の一言で部内をざわつかせている。
要するに、俺は男子一人。パート内で浮いているのだ。
俺は基本、休憩時間中などの空き時間はずっと観葉植物のごとくじっとしている。
それだけでは退屈なので、女の子たちが大勢で固まって、流行だのファッションだのタピオカだのについて話しているのに耳を傾けている。おかげさまで流行はバッチリ頭に入っているのが俺の強みだ。
「ねぇ、見てこれ!」
「わぁ~、かわいい~」
対して姫坂先輩は、友達の
姫坂先輩はぎゃあぎゃあ騒ぐこともなく、耳と心を溶かすほどの甘い声で甘々な会話をするものだから、こっちとしては目だけでなく耳まで幸せだ。
だけどやはり、俺が入れる隙などないのだ……。
と、ばかり思うのは部活の間だけである。
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