【クラフィ編】子育ては大変なの

1)

 その盈月えいげつの落とし子ブランが、月羸病げつるいびょうに掛かったのは,魔素が少ない下界では,無理らしからぬことだったといえる。

 魔素というのは、かつて地上に存在したと言われている魔法を扱うための元素のことで、生き物の意思の力に反応して、様々な効果を具象化ぐしょうかさせていたらしい。ここで「らしい」と言ったのは、千数百年前に起きた天変地異である【月の断絶】以来、月の女神の怒りに触れたのか,この地上から魔法が消えたのだった。という訳で、回りくどくなってしまったが、現在の下界には、盈月えいげつの落とし子であるブランを維持できるだけの魔素が、極端に少ない状態と言えた。


 「はぁ......はぁ.........」


 と、マリーの寝所に寝かされた少年ブランは、熱にうなされて、息も絶え絶えに消えかかっていた。もうこのまま死ぬかもと絶望していると、何かの小瓶を持ったマリーと村人の姿からメイド姿に着替えたアニエスが駆け込んできたのだった。


2)

 その魔法薬は、月羸病げつるいびょうの特効薬というだけあって、ブランの調子は見る見る快復していった。マリーとそのまま城勤めとなったアニエスにも懐くようになり、日に日に成長していった頃。城下で不思議なことが起きていた。


  「あれ?念じただけで,火がついた。なにこれ?気持ち悪い。」


 とある宿屋や厨房で、そんな呟きを漏らす臣民が続発したり、


  「あはは。こりゃ、すげぇ。」


 と万能感に浸る者などが事件を起こす事案が、立て続けに、騎士の詰め所に寄せられたのだった。


3)

 さて、西国の各国には、万族平等ばんぞくびょうどう恒久平和こうきゅうへいわを旗印とするルブラン教の聖地ルナブラン市国から、聖騎士が派遣されているが、マリーの部屋の門番をつとめている狐の毛皮をかぶった聖騎士せいきしのアドルフ・リュカ・ヌコワールがメイドのコレットと結婚して、一人娘のジャンヌをもうけた頃。彼の身にも、不思議なことが起きていた。

 今まで使い物にならなかった魔法剣【ヌコワール流】が使えるようになっていたのである。彼は、城の演習場で、

  「一体,全体,何が起こってやがる?」

 と唸るのを、他の聖騎士も見守っていた。


4)

 そういうマリーにも、吐き気という形で異変が訪れる。


「何?これ、気分が悪い。」


といいつつ、マリーは猫になった。


【つづく】  


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