【クラフィ編】ニートな猫姫、爆誕なの

1)

 シャエル歴2897年。ブランの月20日_______


 創世竜イオがきずいたと言われる世界の一つ。【西国オスト・クラフィティオナ】の朝は早い。東にある西国で一番古いと言われる機甲姫きこうきエルンスト20世がおさめる【イオガイア帝国】の帝都アティア・キルリスから、ドリュアドの国があるらしいといううわさの、西南のエルクラフト大森林帯を抜ける街道をとおって、錬金術師の国にして、その長、リヒテンバルト公が治める【ガルマリア公国】の公都ドゥクシアナ・アリスから南下し、魔道具の加工に必要とされる鉱石ベクトレイム鉱山があるホーヘンハイム領を、さらに南下した場所に、あたしがつとめる、風光明媚ふうこうめいびなシャデシャトー城がある【シャデシャトー王国】の王都シャエルがある。

 私の名は、コレット。王都シャエルに建つシャデシャトー城に勤めるメイドであり、今、城の廊下をとある部屋まで歩いていると、前方から歩いてくる姫の家庭教師が会釈えしゃくをしてきた。


   「やあ、おはよう。コレット。今日も、時間通りですな。」


   「 おはようございます。ローズモントさん。

     シャデシャトーは慣れましたか。」

 

 彼の故郷は、東国にあるクラフィティオナの歴史を管理する騎士【刻神剣聖こくしんけんせい】を輩出はいしゅつしている国【ハイルツァイト】である。姫の家庭教師として赴任し、その傍らで、ローズモント航時便こうじびんという運送店もいとなんでいるということだったが、あの姫の家庭教師を、真面目まじめにできているのか、時折ときおり不安になってくる。


   「 ええ、すっかり。さては、マリー姫の起床きしょうですかな?コレット殿。」


   「 はい。毎朝、毎朝、起こすのに苦労しておりますわ。

     では、失礼いたします。」


 おほほと笑いながら、ローズモントさんと姫の愚痴ぐちを言いあって、会釈えしゃくをして、姫の部屋へ私はを進めた。kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk......


 ***

 その立派な調度品が飾られた部屋の中、天蓋てんがいの下のベッドで、羽毛布団がこんもりと膨れて、時折、もぞもぞとうごめいている。

 そこへ廊下に面した扉から、聞きなれた声が掛かってきた。


 2)

 姫の部屋の前までコレットが来ると、扉の前には巨大なキツネがいた。


  「 ヌコワール殿、ヌコワール殿。」


 と声を掛けてみるが、起きる様子はない。これで、良く姫の部屋の門番がつとまるものだと思いながら、コレットは、扉をノックした。


  「姫様。姫様。朝ですよぉ。起きてくださいな。」


 何度か扉をノックし、しまいには、扉をこわいきおいになってきたころ、ようやく、中から間延びした鈴の音のような声がしてくる。


  「むにゃ......。ぽてち......」


 大方、また、シャデシャトー名物のぽてちを食べている夢を見ているらしく、そんな暢気な寝言が聞こえてきた。コレットは、慣れた仕草で、入りますよと声を掛けると、部屋の中に入り、ベッドにつかつかと歩み寄り、ばさっと布団を引っぺがした。


 「うにゅ...。アルフォンスさまぁ......」


 布団の下にまるまっていたのは、シャデシャトーの王族によく見られる明るいピンクの髪が、ナイトキャップの隙間すきまから覗くおさない顔立ちの少女。幸せそうに、高そうなまくらよだれでびしょびしょにらしているさまからは、想像出来ないだろうが、これでも、この国の姫君である。マリー・シラット・ガロア・シャエル・シャデシャトーなどという立派な名前があるが、周辺諸国の王族や貴族からは、ニート姫などと揶揄やゆされている、困った姫様だ。

 コレットは、ようやくのこと、彼女を起こし、身支度を手早く済ませると、ナチュラルボブをツインテールにし、朱鷺色ときいろきらめく前髪の下、れ目がちで眠たげなモスグリーンの瞳が、コレットの姿を映しこんでいるマリー姫に語りかけた。


  「 姫様、園遊会のご用意を致しますよ。」


 今上殿下、マクシミリアン7世は、歴代女王殿下の多いこの国に珍しい男性の王様であり、彼の治世ちせいとなってからは、昼も夜も園遊会が開かれていた。近隣諸国の友好を広めるという意味合いもあり、各国の文化を自国に取り入れ、内政に役立てるために必要とされる、このパーティーに、マリー様も同席するよう厳命されているのだが、当の本人は......


  「やだっ!!!!」


 と、盛大に拒否をするが、いつものことであるので、


  「 では、まず、朝食に致しましょうか。」


 彼女の興味を引くことで、そこから説得をすることにした。


 3)

 さて、マリー様が食堂で朝食をし上がっていると、

  奇妙なことに、彼女はおどろくと、なのだ。一説にれば、ガロア・シャデシャトー朝のリリス様が、猫神族ねこがみぞくという獣人であったための先祖返りであろうとも、何らかの呪いであろうとも言われているが、その原因はわからない。人に戻すには、姫のテンションが下がることか、もう一つの方法しか無いわけだが、猫状態のマリー様のテンションは、アゲアゲ状態MAXなので、もう一つの方法になりそうだなとコレットは憂鬱ゆううつになる。憂欝ゆううつというよりも、あの方法はずかしかった。思い出すと、顔が赤くなってくるが、気を取り直して、コレットは猫になった姫を探すことにした。


4)

 この日の園遊会のゲストは、シャデシャトー王国の南に位置する穀倉地帯にある食通で知られる国家【ロマニア皇国】の女皇ルイーズ・マドレーヌ・ココ・アレクサンドラ1世だった。そして、彼女が座る席には、どこかで見かけたことがある仔猫が抱かれていた。隣国の女王陛下である彼女は、臣民の誉れ高い名君として知られているが、大の猫好きでもあるという。コレットが会場を見渡すと、視界の端にマリー姫が歓談しているので、普通の仔猫だろうが、見れば見るほど、姫様に見えてくる。再びルイーズ閣下に目を移すと、仔猫にキスしそうになっている。

 そこに、マリー姫らしき人物が挨拶に来て、姫が仔猫を預かった。

 その様子を見て、コレットは安堵する。姫を猫から人に戻すもう一つの方法とは、キスすることだからだ。マリー姫らしき人物は、そのまま、お花摘みにと称して会場を後にしていった。


5)

 幸か不幸か、ルイーズ閣下との対談は、仔猫こねこのおかげとどこおりなく進み、我が国からは、魔導石の月光石【月の恵み】を、ロマニア皇国からはシェフとジャガイモを貿易することに決まったのでした。


【つづく】

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る