【地球編】レテのほとりで

1)

 という一報を受けて、由梨ゆりは発掘品をおさめている倉庫へと駆けて行った。しかし、倉庫についた途端、汗と共に、由梨の中のエリスの思い出も流れ出したのか、綺麗きれいさっぱり、彼女の記憶が抜け落ちていたのだった。


 2)

 エリスが消えたと時を同じくして、無人となった倉庫の中、謎の少女がふうじられた水晶の間近まぢか天井てんじょうに魔法陣が走り、そこから、白銀の鎧をまとった女騎士が、転移してきて降り立った。紫の縁がついた純白のマントを翻して、等身大の水晶に歩み寄る後ろ姿には、白無垢しろむくに三日月を背にするネコミミ娘の横顔のシルエットを剣がクロスし支えている紋章が、女騎士の肩甲骨の間に陣取っている。

 そんな彼女は、ケンブリッジブルーのボブカットの前髪を、右の端から左右に分けた下、やや釣り目がちに見える青い瞳で、水晶の中の少女を、じっと見つめている影が、水晶に映り込ませながら、苦悩の表情でつぶやいた。


  「 エリーズ様......。どうすれば、お救いできるのか。」


 そんな、呆然ぼうぜんたたずむ女騎士の背後から、歩み寄る小柄な影があった。


3)

 一瞬の眩暈めまいの後、エリスが気が付いたときには、真っ白で何もない広大な世界に、水晶の中の少女と対面して立っていた。


   「 貴女は一体......?」


 不思議そうに問いかけるエリスに、水晶の中の少女も同じような表情をして、問いかけた。


   「 忘れたの?私は......。」


 彼女の科白せりふを聞き終える間もなく、エリスは、再び、光に包まれ......


4)

 女騎士の目の前で、ぴしぴしっと水晶にひびが走り、中に封じられた少女が大地に降り立った。


 「 ようやく、見つけましたぞ。エリーズ様。」


 自然に片膝をついて、頭を下げる姿で、エリーズと呼ばれた少女を出迎えた女騎士に、慈愛に満ちた苦労をいたわる表情と口調で、


 「 ご苦労様でした。ジャンヌ......。私は、すぐに消えることになるでしょう。」


 と告げるのだった。


【つづく】

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