【クラフィ編】ドジっ子メイドを拾ったの

1)

 その少女のオレンジのショートヘアは,ふわふわで,ハシバミ色のつぶらなひとみ亡羊ぼうようとしていた。森の樹々きぎにともすれば,かくれそうな小柄こがらな少女は,森の中を彷徨さまよっていた。一村人いちむらびとといった簡素かんそな衣装の彼女が,なぜ,こんな森の中にいるかというと,


  「あぅぅ~~~」


 とまよいながら,森の中を歩いていると,同じく,森をつらぬく街道をあゆんできた人物と衝突しょうとつした。

 これが,この少女,ドジっ子メイドにして魔女のアニエス・バローと,シャデシャトー王国のニート姫マリーとの出会いだった。


2)

 シャデシャトー王国から,西国の東に位置するイオガイア帝国に,国境をはさんで広がる森をつらぬくように通されたカトリ街道の途中から,南の脇道を抜けた先にある,森の樹々に隠れそうな開けた土地に,一軒のログハウスが建っていた。ここが,最後の魔女と呼ばれたエティエンヌ・バローのいおりだった。

 そして,今,三人の女性が,いおりの前に立っている。


  「ここが,エティエンヌ殿のいおりですか。アニエス。」 


 と,メイド姿の女性が,村人然とした少女に問いかけている。


   「はいな。お婆ちゃんの庵ですぅ。コレット様。」


 と,少女,アニエスは,間延びした声で,メイド姿の彼女,コレットに答えた。

 どうやら,アニエスは,森に薬草を摘みに行って,迷ってしまっていたらしいが,カーナビ魔法ともいえる位置情報表示型地図展示魔法【アトラ】と,このコレットの機転によって,なんとか自宅であるこの庵まで戻れたのである。

 なぜ,そんな便利な魔法が使えるのに,アニエスは道に迷っていたのかというと,彼女はとんでもない方向音痴であることが,コレットとコレットの主人である少女に判明したからで,放っておくと,時空と次元を越えて道に迷うレベルの方向音痴ぶりであった。例えば,普通なら三十分もあれば到着できる距離にある庵まで着くのに,アニエスが向かった先に魔力だまりがしょうじていて,うっかり,そこにはまってしまい,転移した先で,創世の龍と呼ばれるイオの虫歯を直し,感謝の印にと,イオの力を含んだ魔導石【イオの瞳】をもらい,かの龍の力で元の時代に帰り,そこから,更に三日かけて,ようやく,庵に到着するといった具合に,そのドジっ子ぶりと方向音痴ぶりは,見てて心配になるほどだった。だから,


  「ようやく,ついたわね。」


 と,マリーが疲れたように,二人に語り掛けるのも無理からぬことと言えた。

 しばらくして,三人の声を聞きつけたのか庵の中から,アニエスをしゃきっとした感じの銀髪の女性が現れ,


  「おやおや。アニエスや。ようやく戻ったかえ。」


 とアニエスに声をかけた。


  「あ,お婆ちゃん。この二人,薬草のオクトケアが欲しいんだって」


 アニエスが声を掛けた,この人物がエティエンヌ・バロー,その人らしかった。


3)

 オクトケアというのは,八種の薬効があると言われているハーブのことで,魔女は任意の薬効を,魔法で,このハーブに付与できるという噂を聞きつけて,マリーはやってきたのだった。


  「アニエスが,世話になったね。姫さま。」


 ひとまずの礼を,目の前に腰かけた身分の高そうな装いの少女に,エティエンヌは告げ,話を切り出した。


 「それで,私に何用だい?オクトケアが必要とのことだが。」


 と尋ねると,彼女は,こう告げた。


 「月羸病げつるいびょうに効く効果を付与して欲しいのです。

  エティエンヌ殿。」


 その言葉に,エティエンヌは驚愕の表情を浮かべた。


 「なんだって!月羸病げつるいびょう?...ってことは,何かい。姫様。」


 そう月羸病げつるいびょうという病は,下界の生き物はかからない病だったからだ。それにかかるのは......


【つづく】


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