【地球編】博覧展にて

1)

 その人混みの隙間から、飛鳥しおりが見つめている、その人間大の水晶に閉じ込められているのは、どう見ても、ようぢょだった。明るい桃色のどこかで見たような右分けのミディアムヘアに横髪も肩まで伸び、ティアラっぽい装飾品が頭頂を飾っていて、子供らしい輪郭に、らしからぬ理知的なエンペラーグリーンの瞳が、しおりを映していた。


  「どう見ても、女の子。しかも、姫様じゃない。」


 なんて、しおりが感想を述べていると、この博覧展の主催者で、しおりの同級生にして、考古学者のタマゴである古澤由梨が、光のイタズラで少女の姿に見えると説明してくれた。だが、どの角度から見ても幼女なので、しおりとしては納得がいかないし、由梨は、どうやら、何かを隠しているようである。


  「 ねぇ。由梨ちゃん、あなた、何か隠しているでしょ。」


 と、しおりが迫ると、彼女は、信じてもらえるか判らないけどと前置きして、彼女が経験した不思議な話をしてくれた。


2)

 その出来事は、博覧展が開かれる半年前まで、遡る。

 由梨の母親は、著名な考古学者イゾルデ・アッヘンバッハで、古代の歴史の概念を一変させる発見をした人物で、由梨も、もう一人の助教授と、小説の取材と言って、由梨についてきた同級生で、世界的に有名な小説家のエリスと共に、彼女についてまわって、発掘の手伝いをしていた。


  「 うぅ......。こんな姿になって......。」


 なんて、言いながら発掘をしているのは、助教授のクローディアさん。

 この彼女、見た目は中学生くらいにしか見えない修道女である。頭を覆う紺色のベール(ウィンブルというそうだ)からは、ピンクの髪色が見えている。それは、幼い輪郭に乗っかった眉のところで、水平に切りそろえられていて、青空を映したような水色の大粒の瞳が、発掘物を映して、雨模様である。

 由梨より年下っぽい年齢にして、助教授をしてて、あたしの日本での拠点としている東京都東猫城市では、副都心に市境を接する宇州院町で、女学院の理事長もしてるらしい。趣味は、地下ドル活動のネット配信という、はっきり言って、変な人だ。

 変な人だが、考古学の知識は確かなものらしく、イゾルデも頼りにしているらしい。


 「 何、また、泣いているんですか?クローディアさん。」


 由梨は、クローディアの隣で呆れたように尋ねる。

 遠くを見る目をしてクローディアは、な、何でもないわと挙動不審になって、発掘を続ける。彼女のこういう態度に、由梨も周囲の人物も慣れてしまっていた。

 そして、これが、由梨の発掘現場の日常だったりする。


2)

 その日、エリスは、発掘現場の拠点でキャンプを兼ねるプレハブ小屋でへたっていた。冷房はあるが、効いていないのである。


  「 あづい......。」


 と言いながら、発掘品に目をやると、妙に懐かしい気持ちになってくる。

 途中、発掘品を置きに来た同級生の由梨やら、クローディアやらが、いろいろ世話を焼きにやってきたりして、退屈ではないが、発掘素人のエリスは、手持無沙汰である。そんなエリスに、外から騒ぐ声が聞こえてきた。


 「 何かしら?」


暑さで鈍る身体を起こして、エリスは外に出て行った。


3)

 由梨は、その子供くらいなら、丸々包み込んでしまいそうな、人身大の巨大なエメラルド水晶とでもいうべき発掘物を前に、目を見開いていた。

 

 「 何。これ。」


 と、声を絞りだすのがやっとの様子で、その水晶の中を凝視する。

 その中には、一人の少女が封じられていた。


4)

 よくよく観察してみると、少女の薄い胸は、前後に規則正しく動いていて、生きていることが分かった。


  「 そんな、馬鹿な......、この状態で、生きてるというの。」


 驚愕した声で、イゾルデは呟いた。だが、不可思議な現象は、それで終わらない。

 その場に居合わせたエリスが、水晶の中の少女を目にした瞬間


 消失した......


【つづく】

 

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