【クラフィ編】月の使者さん,こんにちは

1)

 ブランと月の使者との攻防は、一進一退いっしんいったい五分ごぶといった状況で,推移すいいしていた。

 クラフィオナの力の基準は,最強のSSSオメガクラスの【凌大神級りょうたいしんきゅう】で、宇宙群うちゅうぐん消滅しょうめつさせるというレベルであり、下から四番目のUクラスの【魔王級まおうきゅう】ですら、大陸を破壊するレベル。最も下のZクラス【諸獣級しょじゅうきゅう】の中の入門級は、一番弱い野獣一体を,単独で倒せる力量。素人の一般人同士が、サシで喧嘩けんかに勝つ力量とされている。

 そう言った等級が、大まかに,三十。細かく,十二づつ。実に、三百六十も分かれている。天界人である二人の力は、この中の上から十六番目に当たるJクラス【聖霊級せいれいきゅう】で、宇宙一個を半壊はんかいさせるレベルにして、星霊魔術せいれいまじゅつが使用可能な最低レベルとされるクラスに当たるために、城をこわさぬようなYクラス【獣王級じゅうおうきゅう】の中の上から二番目に強い獣王破軍級 《じゅうおうはぐんきゅう》(獣王級の上のランクである諸魔級しょまきゅうの二個以上の軍団,あるいは師団を倒せる力量)の、徒手空拳での戦いに終始している。そんな中,月の使いである天使が苦言くげんてい


 「 魔法を使えないというのは,縛りがキツいですね。」


 と言いつつ、ブランに蹴りを放ちながら、何でこんな事になったのか悩んでいた。

 聖魔せいまさばきと呼ばれる盈月えいげつの落とし子を、月からむかえに行く、このイベントは、天使にとっては、昇級試験もねていたために、ブランを傷つける訳にもいかず、かと言って、戦闘を止める訳にもいかず


 「人間になるとか言わず,素直に月に戻ってくださいよぉ。」


 などと泣き言を言いながら、ブランを追い詰める。


2)

 「ここは,どこなのです?」


 ウロボロス草を採ろうとして,魔力溜まりに落ちたアニエスは,見知らぬ場所にいた。高い銀色の塔が幾つも天を突き,空気も焦げ臭い。さらに,見慣れぬ鉄の獣が,道を駆け抜けている。不安になったアニエスが,きょろきょろと周囲を見渡していると,茶髪を左分けした利発そうな少女が,声を掛けてきた。


 「あら?貴女は…。お久しぶりです。エリーズです。先生。」


 と親し気に声を掛けてくるが,アニエスには,少女のことは,とんと記憶にない。

 先方のエリーズと名乗った少女も,アニエスが発する違和感に気づいたのか,


  「そうか,時間軸が…。」


 などとつぶやいて,改めて,エリーズことエリスだと名乗り,アニエスの世話を焼きはじめた。


 「ところでアニエスさんは,何で地球に?」


 「えっと,ウロボロス草を採ろうとして,魔力だまりに落ちたです。」


 アニエスがエリスに,バツが悪そうに語ると


  「えっ?なんで,ウロボロス草なんかを…。」


 と,エリスに驚かれてしまった。だから,


   「実は,姫様が…。」


 と,アニエスが仕える姫様のマリーが,猫になったまま戻れなくなった話を,エリスに語って聞かせると,エリスは納得した表情で,


  「その話なら,前世の母上から聞いたことがあったわね。」


 そう言って,持っている学生カバンから,ウロボロス草を取り出すと,アニエスに渡し,転移室があるというエリスの住んでいる家に,招待された。


3)

 このままでは,らちが明かないと思った天使が,ブランに一気呵成に攻めこもうとしたときに,月明かりが収束して,人影を形作り,二人の間に割って入った。

 神々しいオーラをまとい,月の女神であるデア・ルナが顕現したのだった。


  「ルナ様?!」


 戦いの手を止め,天使は,その場で片膝をつき,頭を垂れた。

 ごく自然に,ブランも,天使にならって,その場で片膝をつき,頭を垂れた。そんなブランに,母たる月の女神が二言三言,声をかける。


  「えっ?いいの。母さま。」


 月の女神は,こくりと頷き,その手をブランにかざすと,二重露光したように姿がぶれたブランが,二人に分かれた。


  「これで,人間に?」


 再び,慈愛に満ちた表情で月の女神は,こくりとうなずき,もう一人のブランと天使をつれて,月の世界へと戻っていった。


4)

 後のシャデシャトー王国の記述には,こう記されている。

 盈月の落とし子たる二代目ブランこそが,ルナデウス家の祖であると


【つづく】




 


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クラフィティオナ物語 あるてみす☆しゃえる @arco_iris

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