【地球編】盈月の落とし子?

1)

 天弓あゆみが、ヨハンナに連れられて天鷲族てんしゅうぞくの里についたとき、里の様子を見た天弓は絶句した。まるで蜃気楼のように、里の風景が目まぐるしく変化しているではないか。


  「な、何この風景、酔いそう。」


 天弓が耳がつんとして、吐き気をもよおす中で、よく見ると、老いも若きも男も女も歌っているのはいいのだが、彼ら,彼女らが歌うたびにPVのように歌の情景が里の風景を一変させていくのだ。


  「これって一体?」


 どうも、大人たちが歌うときは風景が変化し、子供たちが歌うと変化しないようで


  「ああ。本気で私たちが歌うと、歌の情景が里の風景を変えてしまうの。」


 と、ヨハンナは軽く説明したが、


   「ちょ、ちょっと待って。歌うだけで風景を変えちゃうって。」


 天弓の常識では考えられないことである。要は自前のプロモーションビデオを、この里の住人たちは作れるということで、ヨハンナに弟子入りした天弓も、このレベルを目指すということになる訳で、


  「なんだか。頭痛がしてきたわ。」


 と思わず愚痴っていると、ヨハンナが事情を説明してくれた。


   「まあ、まあ。皆、久々の歌合戦だから張り切っているのよ。」


   「どういうこと?」


 ヨハンナの話では、ここ数千年というもの魔曲が出来なかったらしい。

 どうやら、月の女神の怒りに触れた下界の人族の仕業ということだが、その噂も本当かどうかは分からない。歌っても魔力無しの歌合戦になっていたそうだ。

 それが,歌うと歌の情景が現れるようになってきた。どうやら魔力が戻ったらしいということで、祝いの歌合戦を開くことになったそうだ。


    「ちょっと待って、下界ってどういうこと?」


    「あら。言ってなかった?

     ここ、天鷲族てんしゅうぞくの里は、

    浮遊島ウェルベニアの上にあるの。」


    「えっ?じゃあ,この耳鳴りや吐き気って。」


  天弓の不調の原因は、高山病だと知って唖然あぜんとするのだった。


2)

 ちょうど,天弓が浮遊島ウェルベニアで戸惑とまどっていたころ。地球界の飛鳥あすかしおりにも変化があった。


  「何?身体の内側から何かが、それに透け…、てきている?」


 得体のしれない何かが、身の内から湧き上がってきている恐怖と、自分の身体が透けてきているという恐怖に、しおりは拒絶の叫びを腹の底からあげる。


  「ひっ!嫌ぁああああああああっ!!!」


 しおりに異変が起きていたころ。各地でも超能力者のパンデミックとでも言える事件が増え、それを使ったテロや事件も多発することになったのである。


3)

 ぱらぱらぱらっといきおいよく、その書物のページがめくられ

あるページに差し掛かったときに、ぴたりと止まった。


  「何?西国と地球界で魔法が復活するだと…‥…。」


 魔界にいるその魔導書【預言書】の管理者である魔族の青年は、この一文に額に冷汗が流れるのを感じた。なぜならば,世界七大魔導書の一つとされる【預言書】の予言は、標示されたが最後、絶対に起きることだったからだ。


4)

 魔法が復活した影響は、飛鳥しおりに真実を告げる。


  「そうか……。あたしは……。」


***

 一方、夢の中でエリスは一人の少女と対峙していた。

 少女は、この世のものとは思えないはかない見た目とは裏腹に、凛としたオーラをまとってエリスを威圧している。


  「久しぶりね。シャ・リオン。」


 エリスは,前世でも出会っているその名を少女にかけた。


【つづく】

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