【地球編】白鳥 天弓 前編

1)

 飛鳥しおりの従姉いとこになる白鳥天弓しらとり あゆみは,重度の従兄いとコンであった。


 「純おにいさま。天弓あゆみはおしたい申し上げておりますわ。」


と言っては、肩甲骨の下まで下がった黒いリボンでわえたサイドテールを振って、勝気そうな瞳をした美少女に属するタイプの顔立ちに喜色きしょくにじませ,いくら,睦月むつきの方が好きだと告げる純もたじたじになるほどに迫ってくる。そんな毎日を送っていたある日のこと、彼女が習っている、近所の神鳥かんどり音楽塾でのフルート演奏の帰り道に、天弓あゆみが神隠しにあってしまったのだった。


2)

 その日、天弓あゆみが、急に現れた深い霧を抜けると、石造りの建物の中にいた。ほのかなあかりをともす小さな太陽とも呼べる球体が、その室内を照らしていたので、天弓あゆみには、ここが石造りの建物であるということが分かったのである。


 「ここは、どこ?」


 と天弓の鈴の音のような声が、不安気ふあんげに室内にひびき渡る中、一つの足音が天弓がいる部屋へ向かってひびいてくる。


「「誰なの?」」


 と,一つの影が誰何すいかする声と、天弓の問う声が見事にハモった。

 それは、一人の女性だった。


3)

 女性の名は,ヨハンナ・ロシニョラ・ガルディエル・ヴァイス・ガルディア・リント。と言うらしかった。

 全体的には、人間と変わらない容姿で顔立ちも人間だが、ただ一つ耳だけが小さなつばさになっている。天鷲族てんしゅうぞくという名の獣人らしかった。


 「そうか、天弓あゆみも音楽が好きなのか。」


 天弓あゆみがいた建物は、ネフォスの神殿というらしく、ヨハンナは天鷲族てんしゅうぞく歌合戦うたがっせん優勝祈願ゆうしょうきがんのためにおとずれたということだった。


 「はい。ということは,ヨハンナさんも?」


 「私に限らず,天鷲族てんしゅうぞく魔曲まきょくを愛しているよ。」


 「ま......きょく?」


 天弓あゆみが、聞きなれない単語に思わずき返すと、ヨハンナは、


  「ああ、魔曲というのは、音楽系の魔法のことだよ。」


 と端的に言って、その場で、ラシミレドをベースとする曲を歌いだした。


 「な、何これ?勝手に涙が......。」


 天上の音楽とでも言うべきか、天使の歌声とでもいうべきか、ヨハンナの歌は天弓の心を大いに揺さぶるものだったのである。それだけではない、天弓の涙と共に疲れまで全て流れ出し、わりに英気がみなぎってきている。


 「なんだか、疲れもとれて、元気もでてきたわ。これが、魔曲?」


 「そう。これが、医神系魔曲【小夜曲セレナーデ】の一つ,パーティーの全ステータスの50%を回復させる魔曲。平癒へいゆ小夜曲セレナーデになるわ。」

 

 「すごい。あの、お願いがあります。私を......。」


 天弓は,その場でヨハンナの弟子になることにしたのである。


【つづく】

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