第22話 最強の──

「最強の能力と言われているのは、もちろん『時を止める』だがね、今日はすこしそれについて考えてみようか」


「はい」


「時を止めるとひとくちに言うが、そこにはふたつの可能性が存在していると思う。『本当に時を止めている』か、『止めているように見えるだけ』か」


「能力者が超高速でうごけるような場合ですね」


「そう、まさにそのとおりだね。前者は概念に干渉する能力者であるのに対して、後者は完全にフィジカルの能力者だ」


「限定的に誰かだけが時を止められてしまったという例もありますが」


「それはなかなか分類がむずかしいだろうね。たとえばここに、『時を止められたらしい人物』がいたとして、本当に時を止められたのだと証明できるだろうか。表面だけがコチコチにかたまっているのだとしたら、ただの一般的な『固化能力』かもしれない。息をしていない、心臓も止まっている、さらにコチコチだというのなら、それはただ『死体を立たせただけ』とも言える。『時間を止めた』と言うからには、やはり誰が見てもそうだと思える状況が必要だろうね」


「ちなみにですが、やはり止まった時のなかでは皮膚はコチコチなんでしょうか」


「それはもちろんそうだろうと思うね。『皮膚がうごく』──これは『変化』だ。変化は時間の経過によってのみおこる反応だ」


「では概念に干渉するたぐいの、本当の意味で時を止められる能力者がいたとして、その能力者が止まった世界でわるさをしたとします。能力解除後の世界はどうなるんでしょうか」


「時が止まる前の運動は継続されるだろうがね、時が止まった世界での運動は無効になるんじゃないかな。さっきも言ったが、変化が存在しないのだからね」


「止まる前に撃った弾丸は解除後も直進するが、止まっている最中に撃った弾丸はそのまま落ちると」


「そもそも発射されないというのが正しいんじゃないかな。撃鉄も引き金もうごかないはずだよ」


「ふうむ」


「もちろんこれは能力にもよるよ。『自分がさわったものだけは時がうごきだす』といった、ズルい能力の持ち主なら話は別だ」


「カズトヨさんなら、どうたたかいますか」


「さて、変化のない世界だからね。止まった時のなかで死ぬということはないだろう。すると、問題はうごきはじめたその瞬間だ。列車が目の前にせまっているかもしれない。味方の銃口がこちらにむいているかもしれない」


「わたしではとても勝てません」


「わたしだってむずかしいだろうね。そんな敵が出てこないことを祈るばかりだよ」

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