第3話 ミツヤくん──

「ミツヤくん。『悪』の対義語はなんだと思う」


「それはもちろん、『正義』じゃありませんか」


「つまりふたつは両極にあるというんだね」


「ええ」


「しかしだね、悪には悪の正義があり、正義はなにかを成すために悪となることもある。つまり、わたしとしてはこのふたつは、横ならびなのかもしれないと思うんだよ。シーソーではなく、ブランコだということだね」


「はあ」


「そこで最初の質問だよ」


「カズトヨさんはどう思うんですか。悪の対義語は」


「思想と行動は切りはなして考えなければいけないと思うがね、すべての場合において成り立つ言葉をさがすなら──『悪とはいえないもの』ということになるだろうね。正義の対義語は『正義とはいえないもの』だ。まあ、辞書のなかの言葉でということになると、しいて言うなら『モラル』や『マナー』かな。他には『常識』、そして『法』というのもあるかもしれない」


「そういうものは、たしかに正義の対義語でもあるかもしれませんね」


「気をつけないと正義の味方をやっているつもりでも、悪の手下だと思われていることがあるかもしれないよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る