第25話 それは──
「それは前世があるかないかという話かい。それとも前世の記憶を持った人物がいたとして、どのようにしてそれを経験し得たかという話かい」
「前世の記憶などウソっぱちです。すくなくともわたしはそう思っています。ウソでなければただのカンちがいです」
「しかし、実際にあった過去の事件をことこまかに語ってみせたり、はじめての場所で道案内をしてみせたりした例もある」
「それは予習の成果です。もしくは、はじめてではなかったか」
「もちろん、いかなる能力とも関係していない、というのは、前提条件としてあるんだろうね」
「はい」
「じゃあ、これもいくつかのパターンにわけて考えてみよう。まず第一に、前世を経験したというその人物の発言は、『すべてまったくの虚言である』。これはもう言うまでもないね。全部ウソのウソっぱちだ」
「ええ」
「このパターンの人物は、注目をあつめることに快感をおぼえている。ウソにウソをかさねてしまい、つじつまがあわなくなって自滅する」
「だいたいがそれに決まっていますよ」
「うん。次に、第二の可能性だ。その人物の発言は『すべて真実である』。──きみの言うとおり、『カンちがい』『思いこみ』というのはひとつあるかもしれないね。この土地に足をふみいれたことはないはずなのに、どこかなつかしい気がするぞ──こういう経験は誰にでもあることだ。そこでさらに感受性の強すぎるひとなら、その土地と自分のなにかしらの共通点──たとえば、その土地で語りつがれている悲恋話の主人公が、じつは自分とおなじ名前であった、というような共通点にぶつかってしまったとたん、『わたしはきっとうまれかわりなんだわ』という気になってしまう。本人はまったくウソのつもりはないから、これは虚言ではない。ある意味真実だと言える」
「まあ、理屈のうえでは黒にちかいグレーですね」
「では、本当に真っ白な人間、『本当に前世の記憶を持っている人間』はいるのだろうか。──そうだよ、ミツヤくん、これはわたしも認めよう。それを証明するのは至難のわざだ。まず前世とはなにか、本当の記憶とはなにか、人間の脳と遺伝の秘密をすべてときあかさないと、そのこたえにはたどりつけないだろう。だからいまこの時点においては、『前世というものの記憶を持っている人間』はいないんだ」
「やはり──そうですか」
「そこでわたしは『第三の可能性』をきみにおしたい」
「だ、第三の可能性、ですか」
「『誰かの人生と接触してはいるが、それは前世ではない』ということだよ」
「はあ」
「予言の話になったときに言ったね、現在にはありとあらゆる時間が同時に存在していると。その説が正しいのだとすると、わたしがいますわっているこの場所にも──」
「ありとあらゆる時間がかさなっている」
「そのとおり。たとえばだがね、百年前のこのおなじ場所で、偶然誰かがいまのわたしとおなじ体勢になったとしよう。その誰かは偶然わたしとおなじ体格をしていて、ふたりの身体はぴったりとかさなった」
「そこで──『混線』がおきるということですか?」
「おや、という程度のことはおきてもおかしくないと思うんだよ。たとえば一瞬だけ視界がいれかわってしまうとかね。もしかすると、記憶の交換くらいのことだってあるかもしれないじゃないか」
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