第32話 感情論というのは──

「感情論というのはまあ、好ましくない議論のかたちだと考えられがちだがね、わたしとしてはおおいに結構だと思うんだよ。いわく言いがたいがそれだけはゆるせない、そんなふうに思うのはよくあることじゃないか。その場の感情にぴったりあう言葉がすぐに見つかればいいが、誰もがみんなそううまくいくわけじゃない。だからといって誰もがみんなだまってうけいれられるわけでもない。『おい、おれはその考えかたは嫌いだぞ!』。そう訴える権利くらいあったっていいじゃないか」


「しかし──」


「そう、しかしだね。感情論の根底に無知がある場合、そしてそれを本人がよしとしている場合、議論はまさしく好ましくないかたちに落ちていくことだろう。つまり、わるいのは感情論のほうではなく、『言葉をうしなうほどの無知と傲慢』のほうなんだよ」

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