第12話:因縁の再会


「【ブラックメイク】【チェイン】! うおおおお!」

「ニュギアア!」


 迷宮の地下一〇階層。


《タコツボ・ソードマン》の厄介な六本腕を、【ダークマター】で形成した黒い鎖でまとめて頭上に縛り上げる。無防備になったところへ、魔剣を縦一直線に振り下ろした。


「剣を持ったタコが、足の生えたタコ壺に入っている」という、名前まんまな姿をした魔物は真っ二つになって絶命。横薙ぎだとタコを斬れば壺が、壺を斬ればタコが残りそうだったので、まとめて縦に割ったのだ。


 奇怪な魔物との、うっかり気が抜けそうになる戦いをどうにか乗り越え、一息つく。


「ふー」

「お疲れ様です。大分、戦い方が馴染んできましたね」

「そうか? だと、嬉しいんだが」


 手遊びで銃をクルクル回しながら労うミーナに、ファルはポリポリと頭を掻いた。


 魔剣に依存しないよう地力を磨くと決意するに当たり、ミーナにも相談してファルがまず定めたこと。それは戦闘スタイルの確立だ。


 魔剣に宿るスキルは数も種類も膨大。【魔法】【剣技】といった戦闘系は勿論のこと、なぜか【料理】【鍛治】と生産系スキルまである。

 しかしその多すぎるスキルを、今のファルでは到底扱い切れない。

 扱うには擬似知能たる【衆愚の智慧】に、選択と判断を委ねる他ないのが現状だ。


 そこで戦闘スタイルを一つに絞り、それに関連する以外のスキルは思い切って、普段は全て封印してしまうことにした。【再生復元】は命を守る保険としてそのままだが、【未来演算】も封印。ただし緊急時は【衆愚の智慧】が自動で発動させる。


《災禍の魔剣》が剣であり、またミーナが超高精度の射撃を得意とするため、ファルの戦闘スタイルは《剣士》で決定。結論が出るまで実に三分かからなかった。


「それに、戦闘補助として【ダークマター】を選択したのも正解でした。やはりこのスキルは、マスターとの親和性が非常に高いようですね」

「ああ。こいつのおかげで断然戦いやすい。かなり気に入ったよ」


 戦い方を前衛に絞ると決めたものの、素人同然である現状のファルが戦っていくには、剣だけだと心許ない。未熟な剣技をある程度カバーできる手段が必要だった。


 そこでファルの目に留まったのが【ダークマター】だ。

【暗黒】という、闇属性の魔法とも異なる系統らしいが詳しい違いはよくわからない。

 こんなときの【鑑定】によれば、


【暗黒】

〔自然界の闇を吸収・操作するスキル。魔力を用いない、特異体質の一種〕


 とのこと。特異体質とだけ言われてもファルにはチンプンカンプンである。


 ともかく、【ダークマター】は闇を暗黒の粒子として物質化し、手も触れず意識するだけで自在に操作できるスキルだ。集めて凝結させれば、その硬度は鋼鉄以上。発想と想像力次第で、いくらでも応用が可能となるだろう。


 そして「想像力次第」という点こそ、戦闘スタイルの要として【ダークマター】を選んだ理由。生成できる粒子の量、凝結の構築速度、形成した物体の強度、それらは使い手のイメージが精密であればあるほど向上する。

 そして「想像」もまた、ファルが培った数少ない積み重ねの一つだ。


 甲斐のない畑仕事を繰り返すばかりだった村での生活。降り積もる鬱憤をファルは棒切れでの鍛練と、地下書庫での読書で晴らしていた。

 様々な英雄譚や冒険物語、果ては学術書の類まで読み漁り。いつか村から飛び出して始まる冒険の日々を夢想して、想像の翼を広げたモノだ。


 そうして培われた想像力が、正確かつ強固なイメージの構築を可能とし、【ダークマター】の力を最大限に発揮させる。念じるだけで自由自在に形を変える暗黒粒子なら、剣技のミスでいくら体勢を崩そうとも、そのカバーを可能とした。


「地下六五階層からここまでの五五階層、力押しができないよう、身体強化や魔力を常に相手より一回り下にセーブして実戦を繰り返したが……俺の強さって、現状でどの程度なんだ? 地上で冒険者稼業ができるくらいには欲しいんだよな」

「そうですね。時代の推移によって、冒険者の水準も変化していると思われますが――魔剣の力込みという前提ながら、今のマスターなら《銀鳳級》は固いかと」

「いやいや、それは流石に盛りすぎ。《銀鳳級》って確か、《天竜級》《金獅子級》に次ぐ上から三番目だが、冒険者の階級としては一流を示す位だろ?」


《天竜》や《金獅子》は一国に数人しかいない英雄の域。《銀鳳級》こそ大多数の冒険者が目標とする、実質の最高位と言っていい。いくら魔剣の力が反則技でも、いくつも制限をかけている今の状態でそれは過大評価だろう。


「マスターなら余裕です」とミーナは真顔のまま自慢げに胸を張るが、信憑性の怪しい高評価にファルは苦笑する。


 そんな風に、雑談を交えながら小部屋に入った矢先のこと。



「「――あ?」」



 申し合わせたかのように、同時に反対側から入ってきた四人組と視線がかち合う。


 しかし、その邂逅は思えば必然。

 衝撃的な体験が連続した上、鍛練に熱中していたせいでファルは失念していた。

 そもそも自分が最下層に落ちた元凶にして、《災禍の魔剣》を狙う者たち。


 すなわち、下衆勇者パーティーとの再会である。

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