第4話:いわゆる、運命の出会い
この奈落に落ちてから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
一時間か、半日か、あるいは既に数日?
我を忘れて暴れていたし、こんな暗闇の底では時間の感覚も曖昧になる。
「グルル。ここも駄目、か」
途中で行く手が塞がった昇り階段を前に、ファルは嘆息する。
とうとう魔物の出現が散発的になり、ようやく地上への道を探し始めた。
幸いにも【マッピング】なるスキルで、最下層の詳細な地図が脳裏に浮かぶ。
これなら脱出も楽勝かに思われたが、そう甘くはなかった。
【マッピング】が示す、上層へ続く階段は四ヶ所。その全てが埋め立てたように塞がっているのだ。しかも異様に硬いだけでなく、魔剣でいくら破壊しても全く向こうが見えてこないほどの分厚さ。
「魔剣が眠る最下層に決して誰も入れないよう、階層ごと埋めやがったのか。なんて無茶苦茶な……俺が落ちてきた穴は、魔剣を封じてからずっと後にできたんだろうな」
では、その穴から地上へ戻れないかと考えたが、これも難しい。
地上付近まで続く巨大な穴には、途中の階層で降りられそうな場所がないのだ。視力が上がり、暗闇の中でも真昼のように見えるばかりか、外界に満ちる《マナ》の流れまで見通せる【神眼】スキルで確認したから間違いない。
地上まで一気に登るなり飛ぶなりできないか、とも考えた。
しかし『それだけの力を引き出すと、負荷に耐え切れず肉体が「パァン!」と破裂する』という旨の解答が【智慧】から返ってきて。つまりファルという乗り物が脆弱に過ぎて、魔剣はその力を未だ完全には発揮できずにいるそうで。
「ええい、やめだやめ。ただでさえ陰気な場所だっていうのに」
とにかく、上層へ向かって地上に戻るのは難しいようだ。
そこで、ファルは逆に最下層の一番奥まで進むことにした。
地下迷宮なら、最奥に地上まで転移できる《帰還装置》があるかもしれない。
なぜそんな、人間に都合の良い仕掛けがあるのかというと、地下迷宮は元々人工物だからだ。気が遠くなるほど遥か昔、古代文明が残した遺跡だとされている。
【マッピング】の地図にそれらしい表記はないが、これまで探索したのとは反対方向に広い部屋があるようだ。丁度、《災禍の魔剣》が飛来してきた方角である。早く地上へ戻りたい一心で捨て置いていたが、そもそもこの魔剣はどこから飛んで来たのか。
それを確かめるためにも、今度は奥を目指して進んだ。
道中、あれだけ殺したというのに、散発的ながらまだ魔物と遭遇する。魔物は地下迷宮が生み出していると噂に聞いたが、この様子では本当かも知れない。
「キキィィィィ!」
「グルオ!?」
とはいえ、部屋を埋め尽くす大群さえ相手にならなかったのだ。
今更一匹や二匹ずつ襲いかかってきたところで……などと油断し切っていた慢心を突くように、ファルは驚かされることになる。
音の振動で破壊を引き起こす【音魔法】を試しに使ったところ、翼に雷を帯びた巨大コウモリ《ダークストーム・レイダー》に口からの音波で相殺されてしまったのだ。同じ「音」なら扱いは相手の方が上ということか。
危うく、翼に雷の刃を形成しての突進をまともに喰らうかと思った。
しかしファルの体は【智慧】による半自動操縦。ファルの動揺などお構いなしに、魔剣が見事なカウンターで《レイダー》を両断する。
「頭が痛いな。主に音波の反響で耳鳴りが――お?」
自分が落ちてきた広間を過ぎ、通路と小部屋をいくつか抜けた先。
そこには、幻想的な光景が広がっていた。
「おお……」
まず目に飛び込むのは、広い空間を優しく包み込む光。
地下迷宮は元が人工物なだけあってか、各所に照明が設置されている。しかし最下層では照明が機能しておらず、【神眼】なしでは歩き回るのもままならなかっただろう。それが、この部屋だけは天井に輝く不思議な光球で照らされていた。
月明かりのように柔らかな光の下には、乱立する用途不明の建造物。
巨大な剣や盾に見えなくもない物も含めた謎のオブジェに、植物が根を張り地下だというのに花まで咲かせている。長い時間の経過、歴史の儚さを物語るかのようで、これがまたなんとも荘厳な雰囲気を醸し出す光景だ。
そんな、まさに古代の遺跡といった風情漂う花園の真ん中に。
地に膝を突いた体勢で佇む人影が一つ。
「天使――?」
警戒することさえ忘れて、ファルは呆然と呟く。
この世の者とは思えないほど美しい、白銀の乙女がそこにいた。
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