第3話:災禍の魔剣
それにしても、魔剣の力は控え目に言って最高だった。
剣技のみならず、魔法も自由自在。
「ギチギチギチギチギチギチギチギチ!」
「【ファイヤーボルト・テンペスト】!」
視界を埋め尽くすほどの数で迫る、黒鋼殻のイナゴ《デスアーミー・ローカスト》。
その大群を、火と風と雷の複合魔法で焼き払う。地上に出れば畑どころか、自然という自然を食い荒らすであろう死の軍団を、炎と雷の竜巻が丸呑みにした。
誰もが子供の頃に一度は憧れる、神秘の行使《魔法》。【魔法】スキルを生まれ持つ、選ばれた血族しか使えないと知って諦めるまでが一般人の通過儀礼だ。
しかし、今のファルは魔法が使える。それも属性は一つと二つと言わず全属性で、通常は複数人がかりで行う《複合魔法》も一人で思いのまま。
調子に乗ってバカスカ魔法を撃つものだから、魔力がすっかり枯渇寸前だ。
ファルは慌てず騒がず、丁度殴りかかってきた《ポラリス・ベアジェネラル》を、全身を包む白銀鎧ごと斬り捨てる。地を揺らして倒れた大熊に、魔剣を突き刺す。すると大熊の巨体が瞬きの間に干乾びていき、比例してファルの体に魔力が漲った。
【捕食吸収】
〔あらゆる物体やエネルギーを捕食し吸収するスキル〕
このスキルで《ベアジェネラル》の生命エネルギーを吸い尽くし、自らの魔力に変えて補充したのだ。これでまた魔法を撃ち放題。
なぜ、ほんの十数分前まで知りもしなかった魔法やスキルを、こうも簡単に扱えているのか。それもまた、魔剣が宿すスキルの恩恵だった。
【鑑定】
〔対象の情報、人間であれば身体能力や所持スキルなどを解析するスキル〕
初見である魔物たちの名前がわかったのも、このスキルの効果だ。
どうやら【鑑定】は自分自身に対しても有効で、先程から脳裏に浮かぶ解説もそれによるものらしい。なんという親切設計か。
しかし、だ。
ファルは【鑑定】の存在も知らなかったのに、なぜ勝手に発動したのか?
疑問の答えが、次のスキルだ。
【
〔魔剣に焼き付いた歴代所持者の断片的記憶・思念が集合し形成された擬似知能スキル。魔剣に宿るスキル・戦闘経験などの情報処理を行い所持者を補助する。また「知能」であって「知性」にあらず。自我意識の類は有していない〕
これについては解説を呼んでもチンプンカンプンである。
そもそもファルには知能と知性の違いもわからない。両親から文字の読み書き、それと簡単な計算しか教わっていない村人の教養を買い被るなという話だ。
ともかく、この【智慧】が自分の代わりにスキルの選択・使用を判断しているらしいと、ファルはかろうじて理解する。ついでに言えば、体が半ば勝手に動くのも、【智慧】によって自動的に操作されているためのようだ。
まるで操り人形のように……否、「ように」ではなくそのままか。
今の自分は、魔剣が力を発揮するための『乗り物』に過ぎないのかも。
「グルアアアア!」
爽快だった心に生じた淀み、濁りを振り払うように叫ぶ。
大量の屍を築きながら、未だ暗闇から現れ続ける魔物の群れを斬り払った。
今は、ここから生きて地上に戻ることだけ考えればいい。そのために、神話の怪物どもさえ蹂躙する魔剣の力が必要なのだ。
たとえそれが、呪われた剣であろうとも。
《
〔力を呪い、人を呪い、世界を呪う魔剣。我らの怒りと憎しみを、怨念と無念をここに。力なき人を涙させる世界に災いよ在れ。力で人を踏み躙る世界にとっての
黒銀の魔剣そのものを【鑑定】した結果、明らかになった忌み名がこれだ。
災いを冠する、本来なら手にした者を例外なく狂わせるだろう呪物。
ファルが正気を失わずにいるのは、やはり【呪い耐性】のおかげか。何世代も呪われた土地で育まれ、ファルの代で数値が測定不能にまでなった呪いへの耐性。
仮にこれが【呪い無効】だったら、手にすること自体が叶わなかったはず。
ならば、自分はこの魔剣に選ばれたに違いない。災いをも従える主として。
「グルアアアアアアアア!」
夢想に酔い痴れ、迷いに蓋をして、ファルは進んで狂気に身を委ねる。
今はただ、生き延びるために。――そう。今は、まだ。
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