第八話 代官・リオン

『代官とは、君主ないし領主に代わって任地の事務を司る者又はその地位をいいますっとマスターリオンに懇切丁寧で見事なフォローをお送りいたします』

 ちょ、おま!!!

 頭の中がフリーズしている時にウチのポンコツは、頭の中に声を届かせる離れ業を披露しましたよ!

「お前は村を街にすると豪語したな」

「はい」

そこまではいってない。

「であるならば、お前にあの村一帯の開発許可を許す。好きに開発し、大いに盛り上げてみせよ。予算が必要な場合は綿密な計画書をもってこい」

「はい。頑張らせていただきます」

領主である男爵様の許可は得た。

あとは思うままに行動するだけだ!

「それから未発見のダンジョンの件だが、それは冒険者組合から人をやり調査させる」

「はい。そうして頂けると助かります」

 調査は俺とギド、カミュールの三人で事足りるが、復興をメインに据える場合は少し厳しい。魔物との戦闘になった場合は命だって落としかねないしな。

「それから、温泉が出たと言ったか?」

「はい」

「今その温泉はどうなっている?」

「はい。その温泉につきましては、入浴できるように整備を進めております。工事が済み次第にはなりますが、一般に開放して入浴料を取ろうと考えております」

 実際はシリウスが工事を終わらせているが・・・


 あれれ? 

 今人手が足りないとか言ってなかったけ?

 なんでそんなどうでもいいような施設が出来あがっているのに、なんで復興が進んでいないのかな?


 なんてチクチク言われたくないし、何より余裕があるようには決して思われたくない。

「将来的な産業が二つか・・・温泉の話が本当であれば、この領への観光客の数は今までの倍以上になる。さて、そうだな・・・」

 マッケンファイマー男爵は口元に手を当てて考えに耽り始めた。

 俺たちはそのままその光景を見続けるのかと、待っていると叔母さんが出口の方へと歩いていく。

「リオン。謁見は終わりです。村へ帰り代官仕事に励みなさい」

「え、このままでいいの?」

「こうなった旦那様はもう周りなんて見えません。だからあなたは一刻も早く村を復興させるために尽力なさい。今回の契約金はトーマスが準備をして玄関先で待機しているはずですから受け取っていきなさい」

 表情筋が死んでいる叔母の言うとおりに部屋を後にして玄関先に行くと先ほどのトーマスさんがワゴンの上に大きな革鞄を置いた状態で俺たちが来るのを待っていた。

 その鞄かなり重そうだな。

「リオンさん。こちらが旦那様よりお預かりした契約金となります。ご確認ください」

 彼が鞄のふたを開けると、そこには大量の金が詰まっていた。

 一千五百万ゴルドーあるか確かめろとか無理だろ。

『確かに一千五百万ゴルドーありますっとマスターリオンにお伝えします』

 シリウスが言うのならあるのだろう、何と言っても先史文明のバイオロイドだしな。

「確認するまでもないですよ。男爵様がそのような方ではない事を、私は知っているつもりですから」

 俺はそう言い残し玄関へと向かう、あの重そうな鞄はシリウスが受け取り、俺とともに男爵家の屋敷を後にした。


 俺とシリウスはまた15分ほど歩いてブラブの中心街まで戻ってきていた。

 村の管理を任される代官になると言う想定外もあったが、これで村の復旧と発展に集中することができるぞ。

 さて、まずは人員の確保のために冒険者組合へ向かい人員の募集をしないと。

 大通りを避けて路地に入り、冒険者組合を目指す。

 俺が唯一ブラブで何度も通い覚えた場所だから、人通りの少ない場所把握している。

 休みの日などは叔母が許可する行動の範囲内であれば、と言う条件で電撃魔法の条件が緩和されていたから、迷いようが無いほど休みの度に通ったっけな。

「あの頃は冒険者になりたくてなりたくてしょうがなかったからな」

 叔母の管理下からの脱出はかなったが、今度は男爵様の管理下か・・・

 だが、だんぜん男爵様の方がまだマシだな。

 勝手に判断していいし、行動の制限さえない。

 いい事だらけだな。

「おい嬢ちゃん。おれらと遊んでいかねえか?」

 スキップしそうな勢いだったのに、路地の陰から薄汚れた男が出てきた。

 目の前に三人、背後に・・・五人か。

「へえ、何して遊ぶの?」

「何して遊ぶの? だってよ! ギャハハハハ!!」

 八人の男達はゲラゲラと笑いはじめた。

「おれはガキに興味はねえからな。遊ぶならそっちのメイドさんにお願いするさ。お前はそうだな。奴隷商にでも売っ払うか、そう言う趣味のやつに高く売りつけるくらいしかねえだろうな」

「抵抗しなければ痛い思いはしないで、いいご主人様の元へ行けるぞー」

 また男達の下卑た笑いが広がった。

 完全に抵抗できない子供とメイドとか思っているのだろう、こいつらの手際の良さからしてこれが初めてではないとみた。

 ここはひとつお仕置きが必要だろう。

「そうか。なら、せいぜい足掻いて見せようか」

 俺は走り出し、はじめに話かけてきた男に前蹴りを食らせて転ばせ、股間を踏みつけた。

 男はくぐもった呻き声とともに丸くなって動かなくなり、その光景を見ていた男二人の動きも止まる。

「今の感じだと潰れなかったかな? まあいいか、まだまだ練習台はいるようだし。今度は外さない。二度と盛れないようにしっかり去勢してやろう」

 俺は青い顔で小刻みに震えている男二人を見る。

 二人とも去勢されるのは嫌なようで、股間に手を当ててガードしていた。

「知っているか? どこかの部族は雄牛の球を木の棒で挟んで何度も何度も木の棒で叩き、球を細かく潰すそうだ。なぜだかわかるか?」

 問いかけると男達は股間を押さえプルプルと首を振る。

 なんともノリノいい男達である。

「球を潰して去勢することにより、おいしいお肉になるそうだよ」

 俺は頭部ノーガードの二人の顔にローキックをかまし、昏倒させて沈めた。

「おーいシリウス。大丈夫か?」

「問題ありませんと、マスターリオンにお伝えいたします」

 シリウスはメイド服のスカートを叩いて埃を落としているところだった。

「そうか。じゃあ行こうか」

 そんな事もありながら、冒険者組合・ブラブ支店へ改めて向かう事にした。


「十九番ふだでお待ちのお客様ー」

「この依頼は・・・」

「それで、その後なんと!」

 冒険者組合は昼間という事もあり賑わっていた。

 ブラブが港町だからという意外にも、食堂や酒場なども一緒に経営しているようで、予想に反して繁盛していた。

 ジロジロと無遠慮な視線が俺たちに刺さるが、きにする事なく受付へと向かう。

 受付窓口は五箇所あるが、女性が一人だけ立っており、悪目立ちしている俺達を見つけると元気よく挨拶をする。

「いらっしゃいませ。ギルドへようこそ!」

「すみません。人材の募集を行いたいのですが」

「はい。どういった職業の方をお探しですか?」

「腕の良い医者と鍛治職人だね」

「年齢や性別、実績や経歴などはどうしますか?」

「年齢は特に気にしません。医者は女性で鍛治職人には性別は求めない。実績とか経歴は知りたいかも」

 商人のあてはギドが知っているそうなのでそちらは探さないでよくなったから負担は減った感じだ。

「そうですね・・・少々お待ちください」

 受付嬢は四角い携帯端末タブレットの様な物を操作する。

「今の所、条件に合う方はこの方達ですね」

 うーん。パッとしない。経歴もイマイチだ。

 鍛治職人も同様にいまいちだった。

 なんかこーこれだ!! って人はいなかった。

 取り敢えず、人材の募集は継続して行う事にして、移住者募集のチラシを貼らせてもらう事にして冒険者組合を後にした。


 ウェールズ商会へ向かう道すがら、香ばしい匂いにつられて一台の屋台の前に吸い寄せられていた。

「おっちゃん。うまそうだな! 二本くれ」

「おめぇ金もってんだろうな?」

 いぶかしむ串屋のオヤジ。

「これで良いか?」

 俺は一万ゴルドー懐から取り出した。

「もっとこまけえのはねえのかよ! ほれ二本」

 そう言いながらも一万ゴルドー受け取るところが商売人だなーと思う。

 一本はシリウスに食べさせ。

 俺もさっそく一口食べてみる。

 口の中に入った瞬間に甘辛いタレが口の中に広がり、肉を噛めば肉の旨味と脂が口の中で甘辛いタレとブレンドされさらに旨さを高め合っている。

「うん。うまい! おっちゃんあと五十本くれ」

「おいおい、嬢ちゃんそんなに食ったら腹ら壊すぞ。でも焼いちゃう! 毎度!」

 俺の呼び方が、おめぇから嬢ちゃんになっている。

 陽気なおっちゃんだ。

 それから少したわいない話をしながら焼けるのを待っていた。

「あいよ。五十本お待ちーね。毎度!」

「ありがと。また来るよ」

 そう言って串焼きが五十本入った袋を受け取った瞬間--何かに串焼きの入った袋ごとかすめ取られた。

 俺は状況が飲み込めないまま、わきわき両手を動かし固まる。

「・・・ない」

「先ほど別のお客様が持って行かれましたと、マスターリオンに現実を突きつけながら、ご報告いたします」

「お客様は俺だよ! 俺んだよ! どこ行った! 俺の串焼き!!」

 俺は左右を見渡したが、串焼きは見当たらない。

 どこだ!!

「マスターリオンにご報告します。もうすでにドローンがつけていますのでご安心くださいと」

 なんだと! シリウスでかした!!

「シリウス案内しろ。俺の串焼きを掻っ攫っていた輩に目にもの見せてくれる!!」

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