第四話 故郷へ向かう
俺は刀をしっかり抱きかかえながら。
再びオリガさんの後をついて行く。最後の扉を通ると天井が高い倉庫へとでた。
そこでは多くの従業員達が慌ただしく出荷準備を行っているところであった。
「ここがウェールズ商会の大倉庫さ。あそこに大将さん達の荷馬車が積み込みを終えているようだけど・・・馬が居ないねぇ?」
不思議そうに首をかしげるオリガさん。
そんな不思議そうな顔しないで!
もともと馬が居ないの!
「あー、えーっと。もともと馬はいないんです」
俺はオリガさんに馬は当たらず、荷馬車があたりギドがここまで引いてきた経緯を話した。
「はっはっは!! それは傑作だねぇ! そじゃ何かい? ギドが馬の代わりに--ぶふ!!」
オリガさんはしばらく笑いが止まらなくなる病気にかかりました。
「あー笑った。笑った。ギドアンタやっぱ面白いねぇ」
「そうですかい?」
うーん。やっぱり、荷馬車を引く馬は必要だよなぁ・・・
どこかで購入するなり借りるなりしないとダメかな?
「マスターリオン。馬がご入用でしたらワタシが作りましょうか?」
このバイオロイドは何を言っているんだ? 馬を作る?
「え? どうやって?」
「マスターリオンの疑問に答えます。魔法です、と。さらに贅沢を言わせて頂ければ不要な材木や鉄くずをいただければと思います」
「そんなのでいいのかい?」
「はい。ミセスオリガ。不要なものはございませんか?」
「そうだねぇ。少し待っててくれるかい?」
そう言ってオリガさんは俺たちの元から離れていき、男性従業員を捕まえしばらく話した後に、手招きして居た。
廃品置場に来た俺たちの前には大量のゴミが置かれて居た。
「ここのが全てがゴミだから、いくらでも持って言ってくれていいからね」
「ミセスオリガ、感謝します」
そう口にするが早いか、シリウスはゴミ山に向かって手を前に突き出した。
「我が名・シリウスの名において命ずる、世界の法則を改変し、歪め再構成せよ。クレイゴーレム・ホース!」
先ほどまで目の前にあった大量のゴミが一瞬にして光の粒子に変換され、まばゆい光を放ちながら漂い渦を巻き集結し、形を成していく。
白い光で満たされた視界に次に写ったのは銀色の雄々しい馬だった。
「全てのゴミを使ってしまいましたが、荷馬車を引くのには十分であるとワタシは判断いたします」
ゴーレムに触れてみる。
ひんやりと冷たく、硬い感触が手から伝わって来る。
「魔法ってこんなことができるんだねぇ」
「いや、こんなの魔法や魔術じゃありやせんよ。一種の奇跡ってヤツでさあ・・・」オリガさんはしみじみ感心したように呟きを漏らし、ギドはいま目の前で起こったことが信じられない様子であった。
これこそ俺が求めている魔法の形だよ。
この世界の魔法はなんというか、現代日本(アニメ)で再現される魔法よりも劣っているからな。
「取り敢えずは、馬の問題は解決だな」
俺たちはゴーレムホースを荷馬車につなぎ終えると、ウェールズ商会を後にした。
もうとっぷりと日が落ちても俺たちが乗る荷馬車は夜の街道を進んでいた。
御者はシリウスが担当し、俺とギドは荷物が溢れる荷台の片隅に座っている。
男爵家のある付近の道は整備されているが、だいぶ離れてくると道の状態は最悪である。道がえぐれているため、先ほどから突き上げるような衝撃が荷馬車内を襲っていた。
「さ、流石にこのスピードで走り続けやすと、この馬車自体がもちやせんぜ」
「俺たちの体もな! なあシリウス! どこか泊まれるところで今日は野営をするからそろそろ止めてくれ!!」
「マスターリオンのもうしでを受託。一キロ先に野営向きの地形があるのでそこで野営準備を開始いたします」
俺とギドは街道を猛スピードで走る暴走荷馬車内で激しく揺られ続ける事になった。
それからまもなく、馬車は止まった。
俺とギドは素早く降りると、茂みまで這って移動し、そこで吐いた。
流石に無理だ。あんな振動で酔わない人間なんていないだろ!
「ここまで揺れがひどい馬車は初めてでさあ・・・ウプ」
ギドはまだ吐くようであるが、俺は一度吐いてスッキリしたので、荷馬車に戻ってきた。
「マスターリオン。荷馬車の改良の許可を頂きたいのですが。許可願えますか?」
「何を改良するんだ?」
「衝撃の緩和剤としてスプリングを追加する事により、衝撃をさらに減らす結果になるのではと思案いたします」
「スプリングか。そういえばこれスプリング着いてないな」
そりゃ揺れるよ。普通の速度で走れば良いところをこのゴーレムホースはその倍以上で走っているからね。早めに故郷である村につきたいとお願いしたけど、これじゃあ着いたとしても体調を崩しかねないよ。
「わかった。改良を許可する」
「マスターリオン。感謝いたします」
シリウスは再び魔法の行使を始める。その様子を戻ってきたギドと見ていた。
荷馬車の土台部分から下が光の粒子となり、再構築が始まる。
次に俺たちの前に現れた時には、最初の頃の面影はなく、スプリングが搭載され、車輪も新しく変わっていた。
「それでは、マスターリオン。ワタシは夕食の調達に行ってまいりますので暫しの休息をお楽しみくださいませ」
そういうが早いか、シリウスは森の中へと姿を消した。
「あっしもなんか獲ってきやす」
シリウスに続いてギドまでもいなくなってしまった。野営地に一人お留守番か。
まあ最低一人は見張りでいないと、荷物が心配だからね。
さて、大量であることを期待して、火でも起こしておくか。
俺は、手早く火をつけて二人の帰りを待つ間に、問題の刀を取り出して見た。
鞘から抜かなければあの不思議なプレッシャーは感じないようなので、様子を伺っている。
「もしかして、妖刀なのかな? 妖刀ってことは魔物や魔獣の部類になるようなら・・・」
俺はドランのじいちゃんから貰ったエンゲージリングを取り出して、少し引き伸ばし、唾と柄の間にエンゲージリングを取り付けて見た。
さてこれであの不思議な現象が治るなら安いものだがなー
俺は二人が帰ってくるまでつけた火を絶やさないように、枯れ枝を近くから集めて火にくべ続けた。
「ただいま戻りやした」
最初に戻ったのはギドだった。
ウサギを二羽その手に抱えている。もう下処理と血抜きも終わっているようだ。
「鍋もありやすからこいつでスープと丸焼きてもいいですかい?」
「いいね! うまそうだ」
俺とギドは手早くウサギをバラし終えた。
俺は荷馬車から購入した鍋を取り出し、そこに水とバラし終えたウサギを投下、さらに臭み系の葉を一枚落とし、灰汁を丁寧に取りながら煮込んでいく。
「そろそろいいかな?」
塩を入れながら味を整えていく。
ひと啜りしてみる。
臭み消しの葉の香りがスーと鼻を抜け、その後を追いかけてくるようにウサギの骨から滲み出たダシが香る。味も風味も最高なスープは完成だな。
「ギドはどうだ?」
「もう少しで出来上がりやす」
ギドはウサギの丸焼きを焼いていた。
ウサギの肉からしたたる脂が炙っている火に落ちジュージューと音を奏で、肉の焼ける香ばしい香りが俺の鼻腔に挨拶してくる。
美味しいよってね。
あー早くシリウス帰ってこねえかな。
別にボウズでも怒らないから。
「ただいま戻りました。マスターリオン」
「ねえ、なにそれ?」
「マスターリオンの問いにお答えします。くまさんですっと」
赤と白のまだら模様の大きな熊だった。
どのくらい大きかっていうと1トンダンプくらいの大きさはある。
「A級のバラッドベアーだって! こんな人里近い場所に出没することじたい珍しいことですぜ!」
この世界には冒険者が依頼を受けて討伐している魔物や魔獣がいる。
年間通して駆除される魔物や魔獣も当然いるがそういった部類の魔物・魔獣は基本C~D級と言われる。ゴブリンやオークなどがそれに入る。
B級はそれらから進化した個体。であり、ゴブリンジェネラルやオークジェネラルなどが分類される。
さらにその上のA級クラス以上の魔物・魔獣は偶然が重なった結果によりそのクラスと知恵と言葉を得る。ここにゴブリンキングやオークキングが入る。
S級クラスの魔物・魔獣は魔王と呼ばれる。
その強さに付随するように知識・分析能力・学習能力・魔法・魔術を備えた存在へと昇華する。記録が残っているものとして新しいのは、ゴブリンエンペラーとオークエンペラーが近年出現した記録が残されている。
「マスターリオン、このくまさんはどう料理した方がマスターリオンに喜んでいただけますか?」
「取り敢えずは血抜きだな。まだ終わらせてないだろ」
「マスターリオンの問いにお答えします。それはすでに完了済みです。このくまさんの体に外相がないのは魔法による血液の奪取を行なったためです」
魔法で血抜きとか便利だわ。
まさかそのまま解体とかもできちゃったりするのかな?
「それでは、マスターリオンこれからこのくまさんを解体していきます」
シリウスは俺が想像していた通り、魔法であの熊を解体しており、解体した肉塊を次々に銀色のジュラルミンケースの中に収めていっていた。
「それってもしかして、シリウスが入っていた容器?」
「はいっと、マスターリオンの問いに返答します。これは私が眠っていた培養カプセル・ランタナの七つのうちの一つの姿になります」
あのカプセル、ランタナっていうの?
あの植物のランタナなら、花言葉は七変化だけど・・・そういう意味だっけ?
「このランタナの優れている所は、この中に物を入れるとその時点で時間の経過が止まります。取り出すと再び時間が動き出します。つまり」
「いつまでも新鮮で美味しい物がいつでもどこでも食べられるって事?」
「そういうことになります」
そんなやり取りがありながらも、シリウスは熊肉を綺麗に解体し収納を終える頃には、料理は全て完成し終えたのだった。
コンガリと焼け上がったウサギの丸焼きを蓋のついた鉄鍋に入れて、余熱で火を中まで通したものをシリウスがナイフで切り分け、皿に盛っていく。
切り分けられた肉からは上質の肉汁が溢れている。
美味そうだ。
俺が作ったウサギの塩スープをギドが木のお椀につぎわけ、俺はと言うと夕食が並べられるのを待っていた。
三人分の食事が行き渡り、二人も火を中心にして腰を下ろした。
「「「それでは頂きます」」」
ナイフとフォークを使って食事を始める。
綺麗に盛られたウサギ肉にフォークを突き刺し、ナイフで切る。
抵抗もなくスッと切れ、その肉はとても柔らかそう。
フォークを使って肉を口に運び入れると香ばしさとウサギ肉のプリプリした食感が広がる。これは美味い。
クセもなく、噛みごたえのある上質の肉は、噛めば噛むほどその旨味をたんのできる。
ギドは手掴みでウサギ肉をむさ掘るように食べていた。
その後三人で火に当たりながら食事を終え、今は夜の見張りの順番をきめていると、シリウスが・・・
「マスターリオン、ミスターギド、お二人とも就寝してください。偵察はドローンと私がスリープモードで対応いたしますので」
そういうが早いか、シリウスは自分のメイド服のスカートをバサバサと揺らすと銀色の丸い塊六個彼女の周りに音もなく浮かぶ。
「一と二はこの辺り一帯の偵察と地形の把握。三と四はこのキャンプ地に近づく外敵の殲滅・人間だった場合はすぐに報告を上げること。五と六はキャンプ地三百メートル圏内を順次偵察せよ。オーダースタート」
銀色の玉はシリウスの名を受け、空と森の中へと飛んで行った。
海を見下ろせる岬に俺は立っていた。
日差しを受けてギラギラと光を反射し流動する海の光景を眺めている。
なぜ海にいるのだ?
「この様な下郎が妾の所持者!? 認められるわけがない! すぐにコイツも--ぎゃああああああ!!!」
俺は後ろの方で声がするので振り返ってみると、黒光りするほど黒く長い髪に金の瞳、とても顔のバランスが良いのか美女に見える彼女は十二単を着ていた。
刺繍がとても繊細に入っているようで買い求めるなら何百万もするであろう。
その彼女は今、俺の足元で黒い煙を上げながら、悶え苦しんでいた。
「くそ、こんな男なぞに! 妾が・・・」
よく見ると彼女の首には銀色の輪っかがハマっていた。
それは紛れもない俺が寝る前にもらった刀の柄と唾の間に付けたエンゲージリングのように見える。
「本当に妖刀だとは思わなかったけど。それで? 今までの所持者が死んでいたのは君のせいなの?」
「話しかけるな! 不細工! 妾の耳が腐ーーぎゃああああ!!!」
また躾が降ったな。学習しないとは余程嫌われてしまったようだ。
「それで? お嬢ちゃんお名前は?」
「貴様に名乗る名など--ぎゃああああ!!」
「ねえ、学習しよう。いつまで経ってもそのままだよ」
「うるさ--がああああ!!!」
これをあと二十回ほど繰り返している頃には、この不思議な世界は歪み崩壊して行った。
そして何事もなく、朝を迎えた。
朝の日差しで目が覚めた。昨日の夜は何事もなかったのだろう。
外なのに騒音もなかった。
「おはようございます。マスターリオン。こちらモーニングティーです」
「ああ。おはよう・・・お茶かありがとう」
シリウスが入れてくれたお茶を飲みながら、昨日何事もなかったのか聞いてみる。
「魔獣の血の臭いに引き寄せられたのか、大型の魔獣が現れましたが、ドローン二機で殲滅しておりますのでご安心ください」
・・・アレってそんなに強いの?!
先史文明の遺産の力は偉大であると思い知らされる夜だった。
その後、火の後始末を終えて、出発準備を整えた頃に起きたギドを荷馬車に積み込み俺たちは故郷へ続く街道を爆走した。
昨日は夜だったから周りがあまり確認出来なかったが、俺が住んでいた村まですぐの場所で野営していたお陰もあり、一時間程でつく事が出来た。
ギドが走って三日の距離をこの荷馬車は半日程で走り抜けたことになる。
しかし、ギドが旅立って今日で五日目になろうとしている村はどうなっているのだろうか・・・
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