第三話 魔物爺さん・呪われた刀
よし、転売しよう。
これだけの容姿だ。きっと高値で取引されるに違いない。
これで荷馬車を引く馬を買うお金が手に入ったな。
「俺をマスターなんて呼ぶ必要ないぞ。俺とお前の関係はなかった。それだけだ。よし、ギドこの町のオークションやっている場所はどこだ? すぐにそこに連絡して出品するぞ!」
五年もこの街の近くに住んではいるが、そんな場所行ったことないし、そもそも買いたい物とかなかったからな。
「え、大将本当に手放しちまうんですかい? 勿体無い」
ギドは少し残念そうにそう口にした。
なんで勿体無いなんて言葉が出るんだ?
「うん? 何が勿体無いんだ」
そう俺がギドに問うと、ギドはその理由を語り始める。
「先史文明の遺産は使い方次第では、富を生み出し世界を変える力があると信じられていやす。その所為もあって偽物が横行してやすが、コイツはどうやら本物のようですし、手元に置いておく事も検討してはどうかなと思いやす」
ほほう。
それは聞き捨てなりませんな。
「富を生み出す・・・か。なあ、シリウスって言ったか?」
俺はシリウスに視線を向け問いかけた。
「はい。マスターリオン」
「お前は何ができる?」
いろんな意味でね。
家事が専門とか、戦闘が専門とか色々あるじゃない。
夜の専門とか。まあ、そんな感じで先史文明の助平な奴が作ったなら、それを求めている奴に売るだけだしな。
「マスターリオンの問いへ返答致します。マスターが知りたい事や行いたい事全てを実行する事が可能です」
オッフ、夜的な感じか? 感じなのか? おじさん心配になって来たよ!?
「例えば?」
俺は冷静にそう答えた。
すると彼女は感情というものを感じさせない顔で平然という。
「ワタシの許される権限で実行可能である事柄ですと、まずこの大陸・・・地上を衛星・パンドラにて焼き払い焦土とする事が可能です。勿論マスターには地下施設への非難をお願いいたします。その他には、全世界のデータベースへのハッキングならびにウィルスの拡散を実行する事が可能です。経済を操作することもワタシ一台いれば造作もないことです」
・・・うーん。おじさんが思っていたのよりよっぽどヤバイね。
想像の斜め上過ぎてヤバイね。まあ、そんな気もしないでも無かったけどさ!
「なんて物騒なバイオロイドだよ」
「それほどでもありません」
笑顔怖! なにその顔!
せっかくの美女が台無しだよ!
「はあ、金儲けできると思ったけど、こんな危険なもんオークションに流せるか! 世界が滅ぶキッカケになった女だなんて、後ろ指さされながら行きたくないわ!!」
俺はシリウスとの主従契約を破棄して、転売するのを諦めたのだった。
俺はギドと先ほど仲間にした? シリウスを連れてウェールズ商会へ戻って来た。
もちろん荷馬車をギドが引いてな。
流石に俺もその隣を歩いていたが、人の視線が痛かったけどね。
「おや、どうだった・・・なんて聞く必要ないね」
俺たちをみてオリガさんは抽選の結果を瞬時に悟ったようだ。
「はい。荷馬車と先史文明の遺産、それから魔獣の卵を当てました」
オリガさんはにこやかに笑う。
「そうかい。よかったじゃないか! 先史文明の遺産とか欲しくても手に入らないし、魔獣の卵だって購入するにしても、ランク次第じゃ手が出せないほど高額なしなっちまうからね」
「へーそうなんだ」
そうか。ランク次第ではこの卵でさえも金の卵になり売るのか。
「魔獣の卵か。どれ、わしが鑑定してやろう」
嗄れた声に俺が振り返るとそこには禿げ上がった頭をした老人が店の入り口に立っていた。こう言う爺さんのことを好好爺って言っていいのかな?
「あら、ドランの爺さんいらっしゃい。また魔獣の餌を買いに来てくれたのかい?」
「そうだ。ウチの子達は大食いが多くてね。少し規模は縮小してしまったけど、わしが生きている間は続けて生きたいと思っておるからな。魔獣の餌は以前注文した量の倍は注文しておいてくれ。それとそこのお嬢ちゃん。ワシにその卵を鑑定させてもらえないかな?」
「この卵か? なんだじいちゃん鑑定なんて出来るのか?」
「ホッホッホ、じいちゃんか。いい響きじゃな」
「大将さん。この爺さんはこの街の外れで魔獣や魔物の育て屋を営んでいてね。四年に一度、帝都で行われる大品評大会。その魔獣武闘会で五度連覇した上で見事殿堂入りを果たした伝説的なモンスターマスターなんだよ」
「そんなにじいちゃん有名なのか?」
「なーに。それほどでもあるわい。それより早くその卵を鑑定させてくれ」
俺はドランのじいちゃんに持っていた魔獣の卵を手渡した。
じいちゃんは顔を近づけたり、殻を舐めたり、息を吹きかけたりしている。
最後には卵と話を始める始末である。
その、このじいちゃんが魔獣の育て屋だって知らない人が見るなら、ボケた爺さんが卵と語り合っている図が完成するだろう。
「ふむ。わかったぞ。この卵はマウンテンブル♂の卵じゃ。レアリティはそれほどでもないが、頑丈で力が強く、仲間思いな魔獣なので人馴れしやすいから比較的育てやすい魔獣と言えるぞ」
レアリティが普通なら、ただの牛ってことだよな。
育てやすくて、人馴れするなら家畜として村の労働力になってもらえるな。
「そっか。ありがとうな。じいちゃん。大切に育て上げてやるよ」
「うむ。魔獣にかけた時間は決して無駄ではない。彼らは必ず答えてくれるからな」
「わかった。俺、頑張るよ!」
「うん。そのいきだぞ」
俺はドランのじいちゃんから鑑定が終わった卵を受け取る。
大切な村の復興に役立つ労働力だ。大切に育ていくぞ!
「それからな、もう間も無く産まれるようだからな。生まれたら必ず名前を付けてやるのだぞ」
「名前を?」
「そうだ。その名が魔獣とお前さんをつなぐ契約になるからの」
「わかった! しっかりいい名前を付けるよ。そういえば、生まれたら当然赤ちゃんなんだよな? ミルクとか何時間に一回あげないといけないとかあるの?」
「いんや、そもそも魔獣は生まれた時から成体で産まれる。色々諸説はあるが、外敵に対処するために成体で産まれるのではないかと言われている。おそらく魔素をより多く取り込むために成体のまま生まれるのではないかとわしは思っておる。この世界は魔素にあふれ、その摂取量はどうしても体積が大きい方が都合がよく、より多くの魔素を吸収でき活用出来るほどの肉体と体力。となれば必然的に成体で生まれる事で生存競争を生き抜いてきたのだろう」
「なるほどな。ありがとうじいちゃん。勉強になったよ」
「わしも久しぶりに楽しい時間を過ごさせてもらったわい。そうじゃな。嬢ちゃんにはこれをやろう」
ドランのじいちゃんがポケットから取り出したのは、銀色の指輪だった。
「これはエンゲージリングといって、成体の魔獣や魔物を仲間にしたい時にはめるリングじゃ。相手を倒すか、寝入っている時や気絶している時に即座にはめて仲間にする便利な道具じゃよ」
なんて卑怯な道具なのだろう・・・ロマンスのかけらもないじゃない。
それにしてもその指輪だと人型の魔物しかはめられないのではないか?
「その指輪に入るサイズの魔物以外もそれで契約できるの?」
「そうじゃ。この指輪は魔力でサイズを変えることができるものでな。大きいものはドラゴン。小さいものは妖精くらいまでこの指輪で契約可能じゃな」
「そんなすごい道具をもらっちゃっていいの?」
「もちろんだとも」
ドランのじいちゃんはニカッと笑うが、前歯が三本なかった。
「おーい。オリガ、商品が全部そろったよ。おや、ドランさんいらっしゃい」
店の奥からキノコヘアーの男が歩いてきた。
口元のちょび髭が笑いを誘うな。
俺はこのおじさんのことを心の中でチョビと呼ぶことにする。
「お邪魔しておるよ。ウェールズ」
片手を上げてチョビに挨拶をするドランさん。
しかし、チョビは俺たちが視界に入った途端すごい速さで俺のそばに現れる。
「店の中に花が咲き乱れているね。お嬢さん、お名前は?」
チョビは俺の前に片膝をつき、手を差し伸べ下から俺を見上げてきた。
「えーと。俺はどうすればいいの?」
俺は助けを奥さん・オリガさんに求めた。
しかし、先ほどまでカウンターの中にいた彼女の姿はない。
一体どこに?
「アンタ。覚悟はいいんだろうね?」
めん伸ばしをもったオリガが、チョビの後ろに立ち、右手に持っているめん伸ばしで、左手のひらをペチペチ叩きながら、蔑むような目でチョビを見ていた。
「その覚悟はできていない・・・かもしれない。かなーなーんて」
チョビの顔色が悪い。少し小刻みに震えているようだ。
「そう。嫁さんの目の前で毎度毎度よく若い女の子を口説けるもんだねぇ・・・ええ、おい?」
「いや、これはね、オリガ。そう、例えるのなら--」
「例えるなら病気かい? もしも病魔の仕業ならわたしが叩き出してあげるのが一番だと思うけど・・・どうされたい?」
「仕事に戻りまーす」
チョビはばね仕掛けのオモチャのように姿勢を正し、立ち上がった。
「よろしい。それで、商品が揃ったのなら、次は積み込みをお願い」
「はい。喜んでー!!」
チョビは駆け足で店の奥へと戻っていった。
「マスターリオン。今のは敵ですか?」
「いや、この店の店主みたいだ」
「あのスタイルがこの時代の主流なのでしょうか?」
違うと思うけど・・・俺もそこまで外の情勢に詳しくないからなー。
俺はギドへと視線を向ける。
「あれが普通なのか?」
「特殊な例だと思ってくだせえ。あれでも結構なやり手なんでさぁ」
ギドはそう苦笑いで答えてくれた。
そうか。何か特別に秀でている人ってのは、なぜだか致命的で決定的なバグを持っているよな。
「変なの見せて悪かったね。お詫びと言ってはあれだけど、お茶でも飲みながら待っていてもらえるかい?」
オリガはそう言い残すとカウンター裏へ引っ込んでいた。
「さて、わしの用事も済んだしそろそろ帰るぞ。お嬢ちゃんまたな」
そう言い残し、ドランのじいちゃんは帰っていた。
残された俺たちはというと、小店内を見ていた。
武器、武具、装飾品、魔法雑貨、魔道具、衣服、食料品(乾物)、穀物取り扱っているものは多岐にわたるようだ。
「待たせちまったね。ささ、おあがり」
俺達三人にお茶を配っていく。
俺は出されたお茶をすすった。
今までお茶で感動したことはなかったが、このお茶は別格だと言える。
仄かに漂っていたお茶の香り、それを一口含んだ時に旨味とお茶の葉の香りが一挙に押し寄せた。後に残ったのはサッパリとしたお茶の風味だけ。
余計な苦みなど感じられないお茶だった。
「これは美味しい」
俺はしみじみそう思った。
イギリスさんが中国さんから茶を買う代わりに銀を送っていたっていうけど、なんとなくその気持ちわかるわ。
「こいつはまた・・・いい茶を出しやしたね」
「この茶葉であればもっとも美味しいと感じられる最適と言って良いお湯の温度です。とても美味しくてワタシの舌を楽しませるに至っております」
「喜んでもらえて何よりだよ」
そうして四人でお茶を楽しんでいるとチョビが再び現れた。
「オリガ。積み込み終わったよー」
「お疲れ様、流石はわたしの自慢の旦那さんだよ」
「まあ、当然だけどね!」
チョビが親指をグッと立てて、キメ顔をしていた。
オリガさんはハイハイと簡単に流している。
「大将さん待たせちゃったね。案内するからわたしのあとをついてきてくれるかい?」
歩き出したオリガさんの後ろを俺たち三人はついていく。
おもいっきり、倉庫の中を進んで言っているので、お上りさんみたいにキョロキョロして歩いていたら、きになる物を見つけてしまった。
「あの、オリガさん」
「どうしたんだい大将さん。何か気になった物でもあったのかい?」
「アレって、刀ですよね?」
俺が指差しているのは黒光りする黒漆の鞘に白銀の花模様の唾、黒の柄紐が巻かれた一振りの刀を指差した。
「ああ・・・あの剣のことかい?」
「ええ。少し触っても?」
「触るくらいなら大丈夫じゃないかねぇ。ただ--」
俺は刀を手に取り、鞘から抜きはなった。
「----!!!」
「うっ--」
「魔力数値の異常を確認しました」
中反りに峰が厚いな。
この世界が鎌倉時代くらいだと腰反りが普通じゃないんだな。
もしかしたら室町時代くらいは進んでいるのかな?
何度かそのまま振ってみた。重さもちょうどいいな。
これ欲しいなー。日本男児たるもの刀は部屋に二十本くらいおきたいよね。
「ねえ、オリガさんって--なんで地面に寝てんの?!」
三人とも地面に寝そべりグッたりしているので慌てて、刀を鞘に収めて三人の元へ駆け寄る。
「た、大将。その武器はやめやしょう。とてもじゃねえが、周りの人間に悪影響が出やす」
こいつは何を言っているんだ?
やめるわけないだろ。俺はコイツに決めたからな。
「魔力の異常数値が平均値に落ち着きました。マスターリオンお加減はどうですか?」
「ん? なんともないぞ」
「そうですか。数値でも異常は無いようなので安心いたしました」
「オリガさん大丈夫ですか?」
「た、大将さん。そいつを抜いちまわないでって言おうと思ったのに、抜いちまうんだもの」
フラフラしながらオリガさんは立ち上がるのを補助してようやく立ち上がれたが、その足はまだ震えていた。
「その、ご、ごめんなさい」
申し訳なさすぎてあやまる事しかできなかった。けれども!
「それでさ、コイツ俺に譲ってくれないかな?」
「え”! こ、コイツをかい?」
「そそ! コイツがいいの」
「何度手放しても手放しても戻ってくる不吉な剣でもかい?」
戻ってくるって、それ売ったら所持者が死んでまた流れ流れて--ってやつか?
「そんな不吉な剣でもさ」
「はあ。その気持ちは変わらないんだろうからねぇ。大将さんさえ良ければ、その剣もらってくれないかねぇ」
「え、代金は払いますよ!」
右手を突き出して、頑として譲らない。そんな顔でオリガさんは話し始める。
「いんや、貰えないね。何回この剣が出戻りしてきたと思っているんだい。十回だよ。十回も売れては戻り売れては戻りを繰り返してきた。なら今回は誰かに譲り渡す事で違った結果が回って来るかもしれないから、ね。だから大将さん。もらってやってはくれないかねぇ?」
「そこまで言われたら吝かでもないですね。わかりました。この刀頂戴します」
俺はこうして暴れん坊な刀を手に入れた。
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