第二話 買い物

 俺はギドを伴って男爵邸を後にした。

 この屋敷から歩きで十五分ほどの場所に男爵領で最も栄えている街・ブラブはある。

 ブラブは片田舎と言われるが、大きな港があり他国から商船や旅客船が乗り入れ、職を求めてやってきた労働者や冒険者、商人や観光客でこの街は溢れていた。

「そういえば今どのくらいの人が住んでいるんだ?」

「そうですねぇ・・・あっしが来る前が百人くらいでやしたから、戻った時にそれがどれほど減っているかは・・・わかりやせん」

 百人か。そう言えば移り住むか復興するかで言い争っているんだったか?

 増えていることは無いにしても減っているのは困る。

 復興はほぼ人力だからな。

 この世界にはパワーショベルもブルドーザーもない。

 魔法を詠唱すれば全てが消えて無くなるファンタジーな魔法は今の所ない。

 あるとすれば、火をつけたり、水をだしたり、切り傷を直したり、病を少し回復させる程度ものだ。

 主に魔法使いや普通の民が使う生活魔法に治癒魔法になる。

 戦闘に特化した魔法は魔術と呼ばれ、魔術師が主に戦場で用いる。

 殲滅することを目的として作られた術であり、人殺しの術。魔の者の術・・・と呼ばれ恐れられ、敬われている。

 まあ、魔術も魔法もそれなりに才能がある者が扱えば万人以上の効果を発揮するらしいことは分かっている。

 俺は使えないけどな。

「それにしても、ブラブはいつ来ても賑わってやすね」

「ん? ああ、毎回同じ人に会うことが難しいほど人で賑わっているからな」

 平日の昼間でお祭りのような人通りだ。

 これは資金をすられないよう気をつけておかないと。

「大将。どこか目当ての商店とかあるんですかい?」

「いや、ないな。休みや仕事終わりにぶらつくが、露店を冷やかしたり、串焼き買って帰るくらいで商店は行ったことがないな」

「そうですかい。なら、あっしがお世話になっているところでもいいですかい?」

「ああ、お前に任せる。食料なんてどこで買っても大差ないからな」

「わかりやした。それじゃ、こっちでさあ」

 俺はギドの後を逸れないようについていく。

 人を縫うようにスルスルと進んでいくギド、暫くすると人通りが少ない路地に入っていき、少し古びた外観の商店の前でギドは足を止めた。

 看板には『ウェールズ商会』と書かれている。

「ちわーす」

 常連連なのか、軽い挨拶をしながら中へと入っていった。

 俺もその後に続く。

「おや、ギド。どうしたんだい! そんなに別嬪な嬢ちゃん連れて!! も、もしかして、これかい?」

 黒髪に茶色の瞳をした恰幅がいいおばさんが右手の小指を立ててギドに絡んでいる。

 その目はニヤニヤ、キラキラしていた。

 女性はいくつ歳をとっても恋バナは好きな生き物らしい。

「この人はあっしらの大将でさぁ」

 少し顔を赤らめながらギドがそう答えると、おばさんは驚いた顔をした。

「そうかい。この子が・・・わたしゃてっきり男の人だと思ってたよ」

 うん。微妙に合っているけど、今の性別で言えば違うね。

「はじめまして、私はリオン。悪ガキどもをまとめていましたら、いつの間にかそんな男らしい呼び名で呼ばれております」

「あら、そうなのかい。わたしはオリガだよ。この商店の店主・ウェールズの妻さ。よろしくね大将さん」

「よろしくお願いします」

「それで、ギド。可愛い大将さんをわざわざ見せびらかしに来たんじゃないだろ? 今回は何をしたんだい?」

 ギドを睨みならがそういった。

 おいお前、普段何やらかしてんだよ。

「いやいやいや、なんであっしが毎回問題行動を起こしているようになるんですかい!」

 慌ててギドは弁明していたが、オリガさんは俺の方に視線を向ける。

「そうなのかい?」

「なんか、ギドが迷惑かけてすみません」

「はっはっは! うちも大分儲けさせてもらっているよ。気にしなさんな。それで本当に今日はどうしたんだい?」

「本題としては、食料を揃えて欲しい。その他にも揃えて貰いたいものは書き出して来たので」

 俺はポケットからメモ書きを取り出しておばさんに手渡した。

「結構な量だねぇ・・・」

 オリガさんは受け取ったメモ書きを手に帳簿を開き次々に記入していく。

「総額四百五十万ゴルドーってとこだね」

 俺は支度金の中からその額を支払った。

 一気に軽くなった革袋になんだか寂しい気分になる。

「夕方までには揃えておくから、町の観光がてら見てくるといいよ。それから、はいこれ」

「これは・・・」

 手渡されたのは抽選券だった。

「この街の商業組合と冒険者ギルドが共同で企画している抽選会の抽選券さ。なんでもど偉いお宝も景品にあるそうだよ。暇つぶしにはいいかもしれないだろ?」

「へえー。いいね。面白そうだ! おい、いくぞギド!」

「へ、へい!」

 俺は抽選券を握りしめ、商会を後にした。


 走りだしたのはいいが、どこでやっているのか分からなかったので通りすがりの人に聞いてようやく俺とギドは抽選会場へたどり着いていた。

 大きく抽選会場と書いてある、受付には一人の女性が座っている。

「すみません。抽選券をもらったんだけど、抽選会場はここ?」

「はい。抽選券を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 俺は先ほど貰った抽選券を受付嬢に手渡した。

「では確認させて頂きます。『ウェールズ商会』ですね。確認が取れました。それではどの抽選方法にするかお選び下さい」

 選べっていろいろあるのか・・・


 一万コース・くじ引き。

 五万コース・ヒモくじ、数揃え(ビンゴ)、ラットレース

 十万コース・吹き矢、ルーレット、ラットレース

 百万コース・ダーツ、千人斬り、ラットレース

 一千万コース・ダーツ、ラットレース。


 ・・・運営ラットレース大好きすぎるだろ?!

「じゃあ、百万コースで」

「それですと4回しかチャレンジできません、それでもよろしいでしょうか?」

「もちろんだとも」

 何度チャンスがあってもいいが、所詮はゲーム死ぬわけじゃないからね。

 それに十万超えないといい景品とかないからね。

「抽選方法はどうなさいますか?」

「どうするギド?」

 俺はギドの方に顔を向けたづねた。

「あっしもやっていいんですかい?」

「もちろんだ。せっかくだから楽しまなくてはな」

「それじゃあ、あっしは千人斬りでお願いしやす」

「千人斬りか。じゃあ、俺はダーツで」

「それではこちらがダーツの矢二本と千人斬り用の木剣です」

「ああ・・・あっしは剣は使えないんで、素手でお願いしやす」

「え、よろしいですが、千人斬りのに使われるゴーレムは相当に固いですがそれでもよろしいですか?」

「問題ねえな。あっしがどれだけ強くなったか大将に見てもらわねえと」

「それではこちらにどうぞ」

 ギドは千人斬りの会場へと移動していった。

 あいつの活躍を見てからダーツ会場へ行くとするか。


 千人斬りの会場は大盛り上がりだった。

 抽選会場というよりも何かの大会、お祭りの要素を含んでいるようだ。

 観客席はひな壇になっており、上から挑戦者? 抽選者? を見下ろして観戦できる。

 ギドはこれまでの抽選者とは違い、本当に素手で挑戦するようだ。

「それでは、始めたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「おう。いつでもいいぜ」

「それでは、ゴーレムお願いします!」

 二十畳ほどのスペースにゴーレムが五十体ほど瞬時に姿を現した!

「行くゼェ!」

 ゴーレムに群がられる前に動き出し、素手でゴーレム達を破壊して行く。

 ゆらりと彼の周りを陽炎のような揺らぎが見える。

 魔力で身体能力を挙げているみたいだ。

 その揺らぎがどんどんハッキリとし始め、五百体を越える頃には揺らぎではなく、魔力が狼の姿をなしていた。

「オラオラ! もっとだ。足んねーぞ!!」

 ギドは全身を使って暴れまわり、制限時間内に千人斬りを達成し、見事に荷馬車を手に入れていた。

 さて、俺もダーツ会場へ行くか。

 俺はギドの活躍を見終わり、席を立る。

「あれって、もしかして拳獣じゃないか?」

 誰かがそう呟いた。


 俺はダーツを見たことがある。

 パ○ェロ! パ○ェロ! なんて番組の終盤で連呼する番組だ。

 その他にもダーツを投げてロケ地を決める番組もあったっけ。

 そしてまさに前者のようなダーツ盤に俺はなんとも言えない気分でいる。

 スカやハズレの部分が大きく区画分けされており、当たる率が高いであろう真中にはブラシと大きく書かれている。

 なんの商品があるのかなんて小さすぎて見えないほどだ。

 ほぼ線じゃねえか! 

「第1投おねがいします!」

 担当者がダーツのルーレット盤を勢いよく回した。

 もう何が書いてあるかなんてわからん。

 とりあえず投げなければ!

 ふん! 渾身の思いを乗せたダーツは飛んでいき、盤のどこかに刺さった。

 ゆっくりと回転は落ち着いていき、止まった。

 ダーツはどうやら上手く刺さってくれているようだ。

「はい! おめでとうございます! 魔獣の卵です!!」

 卵か。百万の卵・・・なんか納得できねぇわ。

「それでは第二投いってもらいましょう! ではお願いします!」

 またグルグル回りはじめた。

 第二投を振りかぶって投げる。

 次も上手く刺さってくれたようで、盤のどこかに突き立っていた。

「おお。これは素晴らしい! 抽選会商品でも類を見ないほどの商品です。先史文明の遺跡から出土した人形です!! おめでとうございます!!!」

 俺の歳で人形遊びしろってか!

 狂ってる!!


 俺はギドとともに商品受取所へ来ていた。

 勿論商品をいただくためだ。

「こちらが、千人斬り達成の商品になります」

 商品受け渡しの従業員が案内したのは、一台の荷馬車の前だった。

 白い幌が貼られ、真新しい木製の荷馬車だ。

 ドラ○エとかでお馴染みのやつね。

「・・・あのさ、これ馬はついていないの?」

 俺の素朴な疑問に申し訳なさそうな顔で従業員は言った。

「付属しておりません」

 これあっても意味ないんじゃね?

 でも馬さえどうにかなれば、これを使えるんだよな?

 そもそも、食料手配しても移送手段とか考えてなかったわ。

「このくらいならあっしが馬車を--」

「うん。やめとこうな。周りからの視線に俺が耐えらんねぇよ!」

「そうですかぃ・・・」

 少し寂しろうな顔をすんなよ!

 ぜってぇ乗らねえからな!!

「そしてこちらが、ダーツの商品になります。こちらが魔獣の卵、そしてこちらが先史文明の人形になります」

 先史文明のお人形さんは、二メートルほどある銀色の容器に入っていた。

 俺は銀色の容器に近づき、触れてみた。

 ひんやりとした冷たさが手に伝わってくる。鉄でできているのかな?

 すると銀色の容器の一部がウィンとずれ動く。どうやら逆さになって展示されていたようだ。

 俺はギドに手伝ってもらいながら、容器を寝せて開いた窓から中を確認してみた。中には色白で顔のバラスがいい女性の顔を確認することができた。

「この商品が景品になった経緯としては--」

 従業員は頼んでもいないのにこの人形がここに来た経緯を話し始めた。

 遺跡から冒険者が持ち帰ったのだが、馬鹿でかく重い上に容器が開かずに途方にくれた。いろいろいじっていたら、容器の一部顔が確認できたため、この容姿であれば高値で売れると踏んだのだが、銀色の容器に顔だけ分かる状態では誰にも見向きもされなかった。途方にくれた冒険者はギルドに相談、ちょうど景品を欲していたギルド側が寄付という形で譲ってもらう代わりに、その冒険者のランクをワンランク上げることで話をまとめたそうだ。

「そういった事情で、極めて状態が良いのにも関わらず、景品になっているのです」

「そんなことがあったのか」

 うん。どうでもいいよ。これはあれか? ちゃんと持って帰ってくださいねって言われてんのかな?

「それで、これっていつまでに持って帰らないといけないの? 流石に今すぐには運び出せないんだけど」

「今日中にお持ち帰っていただければこちらとしてもありがたいです」

「わかった。なんとかして持って帰りますので、もう少しここにいてもいいですか?」

「ええ。大丈夫です。出られる時にお声がけくださいませ」

 そういって従業員は元いた場所へと戻っていった。

 さて、これからどうするかな?

 無理に開けようとした形跡はあるが、開かなかったみたいだし、何か他に開ける方法があるってことか?

 ん? これってパソコンとかでも使われる起動マークじゃない?

 ただ押してもダメなようなので、グリグリ押してみる。

 カチッという音とともに低いウィーンという電子的な音がし始めた。

「な、なんですかいこの音は?!」

 慌てているギドをそのままに、俺はスライドして開いた部分に示される文字に釘付けになっていた。


【言語をお選びください】

 日本語 英語 フランス語 中国語・・・・


 これって言語の設定画面か?

 俺は迷うことなく日本語を選択する。


【それでは日本語で設定を初めていきます・・・・・・設定の終了を確認しました】

【バイオロイド起動のためには主従契約が必要となります。このこと契約しますか?】

 可・否


 バイオロイド? 人造人間だっていうのか?

 ってことは、先史文明は相当高度な文明を誇っていたことになるのではないか?

 俺は好奇心に負けて、可にタッチした。

 するとバシューっと銀色の容器から冷気が吹き出し、その容器の蓋が半分から割れ、開いたのだった。

 俺とギドは中を覗き込む。

 紫色の髪にホワイトブリムをつけ、色白でバランスがいい顔の造形は男ウケはいいだろう。流石に全裸ではなく、白黒のメイド服を着ていた。

 二人で眺めているとバイオロイドは目を覚まし銀色の容器から起き上がり、外に出ると俺たち二人の前でカーテシーを行う。

「おはようございます。マスター・リオン。ワタシはオリジナルNo.001・シリウスです。幾久しく可愛がってくださいませ」

 そう。彼女は自己紹介した。

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