第十四話 シリウス・ダンジョンへの誘い
朝から土砂降りの雨だったため、村人のほとんどが集会場で体を休めていた。
連日働きづめであったから、いいリフレッシュになればと思う。
「さてこんなものか」
俺はあれからピクリともしない卵を布で拭き終え、膝の上に置いた。
定期的にこうして触れ合っているのだが、なかなかにのんびり屋さんなのか生まれてくる気配というのは特に無い。
早く生まれてくるように魔石の上に置いたり、魔力をありったけ込めてみたり、温泉に浮かべてみたりしたが孵る気配さえしない。
俺は何気なく外へと視線を向ける。
「少し体を動かしたくはありませんか? っとマスターリオンにドキドキしながらお伝えします」
「・・・・・・」
なぜか土砂降りの雨の中であえて傘をさしているシリウスがそこにいた。
俺はそっと窓を閉じるべく手を伸ばすと、ガタンと窓をシリウスの手で止められる。
「はなせポンコツ」
「マスターリオンの発言に誤りと侮辱を感じましたので訂正させて頂きます。ワタシはポンコツではありません。オリジナルNo.001・シリウスです。マスターリオンの従順な下僕・シリウスです」
人を小馬鹿にしたような顔でよくもまあそんな事が言えるよなコイツは。
「お前にはポンコツのポン太で十分だろ」
「ポン太・・・・・・か、かわ--なんて低俗な名前ですか! っとマスターリオンに強く抗議します!!」
(・・・今、かわいいって言いかけなかっただろうな?)
「何ですか! その怪しいなって顔は! っとマスターリオンにその表情の真意をお聞きいたします!!」
「まあ、それは置いておくとしてだな・・・」
「置いておかれた! これが噂に聞く放置プレイですか? っとマスターリオンに確認をとります」
「お前は一人でも本当に愉快だな」
「それほどでもあります。っとマスターリオンに照れながらご報告申し上げます」
少し頬を赤らめながら、視線を俺からそらしてモジモジし始めた。
トイレ行きたいなら行ってこい!
「・・・それでシリウス、なんでこんな土砂降りの日に外にいて、なおかつ傘なんてさしてる? 今日は休みにしているんだからお前も大人しく体を休めていろ」
「いえ、今日は休みであるからこそ意味があるのです。っとマスターリオンにこのワタシのワクワクが伝わることを心の底から願います」
「はいはい。そういうのいいから話を進めろ」
「マスターリオン。ワタシの扱いが日に日に適当になっている事に対して猛烈に抗議いたします!」
「あーもー、お前は本当にめんどくさいな!」
「ふーんだ! っとマスターリオンに対してワタシは思い切りヘソを曲げて強く抗議します!!」
なぜかシリウスは俺にお辞儀して強く抗議してきた。
ヘソを曲げてってそういう意味だったのか?
「お前が曲げているのはヘソではなく腰だ」
「・・・・・・ま、まあいいでしょう。っと身の内から湧き上がる羞恥心にあぶられながらも平静を保ちつつ、ワタシはマスターリオンをダンジョンへ誘いたいと心の奥底から思っております」
ダンジョンか!
ちょうど今日は雨だし、仕事も休みだ。
晴れの時はなんだか俺一人サボっているみたいな感じになると申し訳なくて行きたいなんて言えなかったからなぁ。
「なら最初からそう言えばいいものを」
「言葉遊びをして、マスターリオンとの友好を深めようと思い実行しました」
「ホントにめんどくさい奴だな。それで、今からすぐに向かうのか?」
「マスターリオンの問いにお答えします。今からですっと渾身のキメ顔でお答えします」
相変わらずコイツの笑顔はホントにブサイクだな。
俺が身支度を始めていると、寝ぼけ眼のカミュールが近づいてきた。
「リオン姉、どこ行くんだっちゃ?」
片目を手で擦りつつ聞いてくる。
「おお、ちょうどよかった。カミュールこれからダンジョンに行こうと思うんだが、一緒に行かないか?」
そう誘うと、カミュールの表情から眠気が一気に吹き飛んだ。
「行くっちゃ!! もちろん行くっちゃ!! すぐに用意してくるっちゃ!!!!」
言い残すが早いか、彼女は準備を終えてすぐに戻ってきた。
「準備万端だっちゃ!」
うん。俺がまだなんだが。
「あれ? 大将、出かけられるんですかい?」
パンイチで上半身裸のギドが欠伸をしながら現れた。
仕上がっている身体つきに惚れ惚れするね。
「今からダンジョンに行くんだよ」
「お伴しやす!!」
風が吹き、再び風とともにギドが戻ってきた。
「準備終わりやした」
いつものシャツに青のズボンだけではなく、革の胸当てと赤と黒の鱗で作られた籠手と脛当てを装備している。
「お前ら準備が早えよ!」
準備を整え、ダンジョンのある場所まで小走りで向かい中へと足を踏み入れた。
中は暗く、持ってきた松明に早速火をつけていると・・・
「何をやっているのですか? っとマスターリオンに疑問を投げかけます」
「ん? くらいだろうからあかりに松明を炊こうとしているんだが?」
シリウスが人を嘲るような表情をしながら、その口を開く。
「マスターリオン。そんなものを使うのは原始人だけですイタタタタタタ」
俺はその顔めがけてアイアンクローをお見舞いした。
「んん? 聞こえないな? なんだって? ああ、そうか。俺は原始人だからお前の言うことが全然わからないや〜」
さらに指の力を強めて行く。
「イタタタタタタ!! 顔にマスターリオンの指が食い込んで・・・はっ! まさかこれが--これがSMなんですね! そうなんですね?! この痛みに耐えた先に快感と呼ばれる新しい扉が待っているのですか?!」
誰に聞いてんだよ。少なくとも俺に聞くな!
俺はこれ以上シリウスが壊れる前に食い込んでいた手を離す。
「それで、この暗闇で松明をつけないでどうやって歩くと?」
「ワタシは得意げな表情を浮かべながら、マスターリオンにダンジョンの歩き方を懇切丁寧にお教えいたします。【明点】」
シリウスがそう口にするだけで、あれほど暗かったダンジョンの通路は光で満たされた。
「なっ! こんな裏技があったんですかい!」
「こんなことができるなんてスゴイっちゃ!!」
なんだ、その反応は?
まるでここ以外にもワクワクな冒険をしてきたみたいな。
「ギド、カミュール二人ともダンジョンは初めてなのか?」
「そんなわけないちゃ」
カミュールがあっけらかんと答えた。
「何言ってんですかい大将。あっしらに行くように言ったのは大将でやしょ?」
ん? 意味がわからないよ?
俺が行くように進めただって?
「ああ!! うち覚えてるっちゃ! 『ダンジョンに行くなら修行を三年してからダンジョンに入るんだ! 俺が--』最後の方はよく聞き取れなかったけど、そう言ってたっちゃ」
「あっしも最後の方は聞き取れやせんでしたが、ヘレンさんに連れていかれる最後の最後まであっしらを思って残してくれた言葉に全員が泣きやしたからね」
うん、聞こえてないじゃないの!
俺の怪我が治ると同時くらいに男爵家へと強制連行されたからな。
しょうがない、のか?
「さあ、あなたの冒険が幕を開けましたよ。っとマスターリオンに物語口調でガイダンスします」
「お前はうるせえな!」
そんなんこともあり、ダンジョンの奥へと足を進め始めた。
リオンの故郷再生記 白藤 秀 @koeninaranai
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