第十三話 盗賊将軍・バルジド

「なに! あいつらが捕まっただと!」

 そう大きな声をあげたのは、小太りで無精髭が印象的な男だった。

 男の名は、盗賊将軍・バルジドと言う悪党である。

 配下にしている盗賊は千人とも二千人とも呼ばれる大盗賊団の頭目だ。

「はい」

「捕まったか・・・考えろ考えろ・・・」

 バルジドはそう呟きながら右手で額を叩きながら俯く。

 数分間一人で考えろ考えろと呟いていた。

「どこで捕まった? それほど馬鹿な奴らじゃないだろ?」

「それが、ブラブです」

「よりによってブラブかよ!」

 港町で栄えているブラブ。

 そして、そこを統治するのは、堅実な統治で有名な男爵家・バルバロッサ・フォン・マッケンファイマーである。

 騎士伯からの成り上がり者だが、先の大戦で皇帝の信頼を得て、男爵位と領地を任されている。

 人柄は真面目で実直な男で、賄賂や汚職などをしていた官僚を全て処刑。盗賊などと繋がりがるものや後ろ暗い過去があるものは要職から外されている。

「ブラブのやつには奴隷狩りを命じていたな?」

「はい。主に貧民街の子供や職にあぶれていたものたちを中心に勧誘という形で海外へ売り飛ばしていました。上納金もそれなりに納め、綺麗どころは送ってきておりました」

 そう、送られてきた見目麗しい女性を彼らは繋がりのある貴族へと流していた。

 そうして盗賊稼業を続けていたのだ。

「なんとかしてあいつらを脱獄させろ! 次の納品が迫っているんだからな!!」

 バルジドは焦っていた。

 今回繋がりのある貴族五家が金と美女を送れと催促してきたからだ。

 期限が今週中であり、もう残された時間はあまりない。

 バルジドは考えを巡らせる。

「ギギギ、お困りのようですね・・・」

 その時部屋に入ってきたのは、黒色のローブを着た人型の何かであった。

 バルジドは頭の上から足元まで視線を巡らせる。

 身長は150ほどでフードをかぶっていて顔はわからないが、杖を持つ手に視線が止まる。緑色の肌に4本の指。

 バルジドは蔑んだ目でローブを着た人型の何かに向けて声を発した。

「貴様、ゴブリンか? 魔物風情がなにを勘違いして、人間様の真似事をしている?」

「ギギギ。こりゃあ驚いた。おでの魔術を看破する人間がいようとはねぇギギギ」

「それで? ここまでどうやって来やがった? ここに来るまでに人員は結構さいていたはずだが?」

 そう、このアジトには三箇所に関所のような場所があり、数十人単位の人間を配置しており、異常があった場合、即座に魔道具で知らせが入るようにしていた。

「ギギギ、傷つけちゃいねえさ。ただちょっと眠ってもらったのさ。ギギギ」

「眠らせただと?」

「ギギギ、別にあんたを殺しに来たんじゃない。ギギギ」

「じゃあ、なにをしに来た?」

「ギギギ。おでと一緒にある村を襲って欲しいのさ。ギギギ」

「村だと?」

「ギギ、そうだ。それも美男美女がいる村だ。お前が欲しているものだギギギ」

「その話をどう信じろと? 魔物風情が持ち込んだ話などあてになるか」

「ギギギ、一千五百万ゴルドーの金もその村にはあるのにか? ギギギ」

「なんだと?」

「ここから東に二日行った場所にクナダという村がある。おではその村を滅ぼすつもりで魔術を行使し土砂災害を引き起こしたのさ。村を壊滅させてある女を殺したと思っていたが、生きて村に帰って来たどころか、村人の殆どが生き残った。殺し損ねちまったのさ。そこでだ。おでにリオンって女を殺させてくれるなら、金もその村の村人も全てあんたの取り分ということでいい」

「女ひとりを殺させろ・・・か。変わっているゴブリンだな」

「ギギギ、あいつはおでの手で殺さねえといけねぇ。アイツだけはおでが」

「ふん。いいだろう。ゴブリンお前と手を組もうじゃないか」

 バルジドは立ち上がり、ゴブリンに手を差し出した。

「ギギ、なんだ。これは?」

「握手だ」

「ギギギ、手を握るのか。それで? そのことで何か変わるのか?」

「よろしくなっていう感じになるだろ?」

「ギヒヒ、よく分からんが、おでは契約という形で返礼させていただこう・・・我、パギブブの名において命ずる。かのモノとその眷属を縛り結いあげ束ね、我の元へと平伏せ・主従契約」

 バルギドの足元に紫色の魔法陣が出現し、五本の鎖が魔法陣から飛び出すとバルジドを地面へと引き倒す。

「なんのつもりだ?!」

「ギギギ。いささかおつむが弱いようだ。おではお前のご主人様になったってことさ」

「なんだと?! ゴブリン風情が調子にのるなよ!!」

 魔法に逆らって立ち上がろうともがくバルジドであったが、鎖が虚しく鳴り響くだけで抵抗らしい抵抗はできなかった。

「ギギギ、もう気が済んだだろ? 契約はなった。せいぜいおでのために働くことだ」

 そう言い、パギププはバルジドの横を通り過ぎ、彼が座っていた椅子にドカリと腰を下ろす。

 屈辱的にも床に縫い付けられている状態のバルジドの横で棒立ちになっている副官の男にパギププは命令を飛ばした。

「ギギギ、おい。副官くん。おでは喉が渇いた。酒でも持ってこい」

「--わかりました。パギププ様」

 男は即座に部屋から飛び出して行った

「ギギギ、それから、お前・・・」

 パギププは視線を床にいるバルジドへと向ける

「ギギギ、なんていう名前だったか・・・・・・・・・そういえば知らないな。まあいいか。おいブタ」

 パギププが声をかけるとバルジドは激高する。

「なんだと貴様ァ----ハイ。パギププ様」

 だが、すぐにその怒りの感情は、契約によって縛られ、従順な僕に成り下がってしまった。

「ギヒヒ、お前の子分たちを集め、クナダへ侵攻を開始しろ。そうだな、見つからないように数をばらけさせ、村の近くになって集結して村へ一気に攻め込め。そしてこれだけは徹底させろ。リオンは生け捕りせよ。あれはおでの獲物だ」

「--はっ。それでは子分どもを叩き起こし全勢力を持って村を制圧してご覧に入れます」

「ギギギ、うむ。では行け」

 パギププはバルジドの元に満足そうに頷きながらそう言葉を発する。

「はっ!!」

 そう短く残してバルジドもこの部屋を出て行く。部屋に残ったのは、パギププ一人のみとなった。

「ギヒヒ。お前をようやく殺せるぞ、リオン」

 パギププはフードの奥で怪しく笑うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る