第七話 男爵家へ
俺は予定を切り上げて男爵家へ向かうことにした。
ゴーレムホースであれば一日で走破するのだが、人員や道具、食料の補充も兼ねて早めに行動することにしたからだ。
今回男爵家に行くメンバーは、俺とシリウスだけだ。
ギドとカミュールの二人には村の護衛も兼ねて村の復旧作業を進めてもらっている。
予備兵力としてシリウスのドローンを三機常駐させているので問題はないと思いたい。
「マスターリオン。あと十分ほどで目的地・ブラブです。ご準備ください」
馭者席に不釣り合いなメイド服を着たシリウスが荷台を振り返りそう教えてくれた。
その席にいてもすることが無いはずなのだが・・・
「気分の問題です。っとマスターリオンの疑問へ返答致します」
「いや、その馬は一回行った場所に行く場合はオート運転できるのです。なんて行っていたのはシリウスだろ!」
「それでもここがいいのです。っとマスターリオンにワタシは心の叫びを訴えます」
「心の叫びとか訴えられてもね・・・」
相変わらずコイツは変なバイオロイドだ。
他のバイオロイドとかは知らんが、変わっている人間だと思えば・・・うん、キツイな。
たわいない話をしているとブラブを取り囲む城壁の城門を潜っていた。
「このままウェールズ商会へ向かってくれ」
「わかりました。マスターリオン」
馬車はウェールズ商会へと向かう。
今日も多くの人が行き交う道から一本入り、入り組んだ場所にあるウェールズ商会前で馬車は停車する。
「それでは、馬車を裏へ回します。っとマスターリオンにお伝えいたします」
「ああ、そうしてくれ」
通行の邪魔になったら行かんからな。
俺が降りるとシリウスは馬車を進ませた。
「こんにちは」
俺はウェールズ商会の扉を開け挨拶しながら入って言った。
オリガさんがカウンターで帳簿になにやら記入していたが、俺が入って来ると顔を上げた。
「あら、大将さん! いらっしゃい、今日はどうしたんだい?」
「どうも食料が足りないかも知れない。この前と同じものを五十万ゴルドー分用意して置いてくれる?」
そう言って革袋ごとカウンターヘ置いた。
オリガは革袋から金を取り出すと数え始め、帳簿へと記入し顔を上げる。
「確かに五十万ゴルドー丁度だね。いつ頃取りに来るんだい?」
「そうだな・・・」
今が九時くらいだ。これから男爵家での話し合いだから、うまくいけば昼、悪ければ夕方になりそうだな。
「夕方くらいに取りに着ます。馬車は置いていきますので、準備が出来次第積み込んで置いてください」
「じゃあ、勝手に積み込みまで終わらせておくね」
「よろしくお願いします。それではまた夕方に来ます」
「遅くなりました、っとマスターリオンに報告いたします」
「なんだ迷っていたのか?」
「・・・そ、そんなことはありません。っとマスターリオンにワタシの身の潔白を訴えます! 断じて道に迷ったわけではなく、道が複雑すきたのです。と!!」
そうか、もうそれ自白してるよね。
「うん。わかった。それじゃそれで」
「全然わかっていません! っとマスターリオンに切実にワタシは訴えます--」
俺は今だに言い訳を続けているシリウスを引きずってウェールズ商会を後にした。
ウェールズ商会を後にした俺とシリウスは、人通りの少ない路地を抜け人通りの多い大通りへと出て、男爵家へと続く道を歩き、五年間務めている男爵家へと舞い戻って来た。
門番のおじさん二人に片手を上げて入ろうとしたら止められた。
「なんだお前は!」
「え?」
ガチャリと二人が持っている槍で通せんぼされ止められる。
しかし、スタスタとシリウスは男爵家の門の中へと入り、なぜか俺は止められた。
納得いかん! どういう事だよ!!
「おい、おじさん俺だよ! リオンだよ!!」
「知るか! だいたいメイドのリオンちゃんは今災害にあった故郷で必死に村人のために汗水垂らして頑張ってるんだよ!」
右のおじさんの目が潤んでいる。
そして左のおじさんがややキレ気味に口を開く
「なんだお前は! その乱暴な口調で男みたいな格好は! あの子はそんな格好しねえよ! もっとおしとやかでお上品な子だよ!! さっさと帰れ!!!」
俺は門番のおっさん達によって門を通ることを拒否された。
シリウスはというと慌てふためく俺に背を向けているのだが、彼女の肩がプルプルと小刻みに揺れていた。
お前笑ってんじゃないよ!!
「なんですか? 騒々しい」
表情筋が死んでいる俺の叔母さんだった。
「あ、メイド長。この者が太々しくもリオンちゃんを騙って屋敷の敷地に入ろうとしていましたので、つまみ出していたところです」
「そうです。コイツ、オレ達の天使を語るなんて言語道断ですからね」
おじさん達なんでそんなに俺押しなの?
「少し確認させてください」
叔母さんは二人に止められている俺の顔を確認して。
「・・・・・・あなたは何をやっているのですか? リオン」
表情筋が死んでいる顔でそう言われた。
門番の所で予想外に時間を食ったが、なんとか男爵様のお屋敷に入ることが出来た。今はお屋敷の廊下を叔母さんを先頭に俺とシリウスは歩いている。
はー。なんか納得いかねぇわ・・・。
だって、俺五年もここに居たんだよ。
働いてたんだよ。おじさん達とも仲良く稽古してたし、飯だって食ってたんだからさ・・・少し合わないだけで忘れるとかヒドくない?
シリウスとか普通にスルーだし。
この屋敷の執務室の扉のまで、おばさんは足を止め、その扉をノックする。
「旦那様。リオンが戻りました」
「入れ」
扉の向こうから、低い男の声が短くそう答えた。
叔母さんは扉を開け、中へと入っていく、その後ろを送れることなく俺とシリウスも入っていく。
目の前には茶髪で青色の瞳の三十代ほどの男が壁を背にした男が机の前に座って居た。彼こそレインの父にして、男爵家の当主・バルバロッサ・フォン・マッケンファイマーその人である。
元々は騎士として功績を挙げ出世し、その後領地を賜り、さらに武功をあげて男爵となった。
完全なたたき上げである。
最前線で戦い武功をあげ続けた彼の顔には右から左上にかけて斜めに大きな傷跡が走っている。まさに歴戦の猛者である。
「少し待て、これで終わる」
書類にサインし、印を押す。
その書類を左に避けて、指を組んだ。
「それで? お前がリオンか?」
「はい。ヘレンの姪、リオンです」
「そうか、では報告を聞こう」
「わかりました。それでは・・・」
俺は村の状況を詳しく、そしてわかりやすく伝えていく、ダンジョンの事や温泉のことも報告しておく。
たとえ俺が黙って居たとしてもそれはいつか伝わり、それはやがて毒になりうるかもしれないからだ。
「ふむ。そうか、村人が逃亡し、少ない人数での復旧作業か・・・どれほどの時間を要すると考える?」
「正確に断言出来ませんが、今のままでは半年以上はかかると見るべきだと思います」
「それほどかかるか。人員を増やした場合はどのくらいで出来る」
「恐らく三ヶ月ほどにはなると考えます」
「そうか。では復旧させた後、お前はあの村をどう導いていくつもりだ?」
「私はあの村を一つの会社として動かし、いずれは街に発展させるつもりです」
「・・・ほう」
マッケンファイマー男爵は楽しそうに口元を緩めた。
「それはどうやってそこまで持って行こうと思っている?」
「一つの産業を興すことでそれを可能に出来る思います」
「それはなんだ?」
「ワインです」
「・・・なるほど。それを製造できると言うのか?」
「はい。試行錯誤はあると思いますが、男爵様のお力添え次第ではそれも早まると思います」
「それはなんだ?」
「三年間の無税、そして一千万ゴルドーの融資を頂ければ」
「一千万ゴルドーか。大きくでたな」
「これでも予算を切り詰めた金額です」
「そんな空手形を信用する馬鹿はよほどのお人好しだな」
「・・・・・・」
やっぱりダメか。何かその他に打てそうな手立てはないか?
何か・・・そう、マッケンファイマー男爵が好きそうなものとか・・・
「お前が作成したリバーシの権利、それを一千万ゴルドーで男爵家が買い上げる・・・と言うのはどうだ?」
「え?!」
「少ないか? なら一千五百万ゴルドー出すそれ以上は払わん」
「いえ、それでお譲り致します」
「うむ。ではトーマス」
「こちらになります」
音もなく現れたのは燕尾服を身にまとった二十代ほどの金髪の青年であった。
彼が机の上に置いたのは一枚の羊皮紙。
書かれている内容は、三年間の無税にリバーシの権利の譲渡それに伴う金銭の受領と言う内容が書かれていた。
サラサラとマッケンファイマー男爵がサインし、用紙をトーマスが上下を変えて俺のほうに向け、ペンを手渡してきた。
俺はマッケンファイマー男爵の名前の下に自分の名前を記入する。
「これで契約はなった。あの村の代官としてその手腕を発揮せよ」
「は、はい・・・」
ん? 代官?
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