第六話 災害の出土品

 シリウスのいう素晴らしい物とはなんだろうか?

 きっとロクでもない物であるに違いない。

 それでも俺は自分の好奇心には逆らえず、シリウスに案内されるままに、彼女の後について行く。

 大木や岩をどかし終えた場所を整地している班の横を通り過ぎ、まだ大木や岩があるエリアまで連れてこられた。

「ご覧ください、マスターリオン。これがワタシがお見せしたかった素晴らしいものになります」

 シリウスが右手でそこを指し示す。そこへと視線を向けると、下へと続く石の階段があった。

「これって・・・ダンジョン?!」

「流石でございます、マスターリオン。これは地下十五階ほどのダンジョンです。長い間、魔素に晒され続けた結果出来上がったものになりますが、正しくは先史文明の施設となります。ここで何を研究されていたかは分かりませんが」

 そうなんだ。いいね。ワクワクする。

 すべての仕事をほっぽり出して行って見たいがダメだよなー

「シリウス。ここから魔物や魔獣が出てこなか監視にドローンを配置していてくれるか?」

「承知しました。マスターリオン。それではドローンを一機配置して監視させておき、遭遇した場合は排除しておきます。念の為に認識阻害の魔法をかけておきます」

「ああ、その対応で頼む」

 これは今日辺り話し合いの場を設けて周知する必要があるな。今後の方針のことも話し合わないといけないし、やる事は多いな・・・

 考えればきりがない。

 村を復興させ、その後はどうしていくのか。

 そこなのだ。

 復興した、あとは知らんは何か違う気がするからな。

 それにこの村に流れ込んできた土砂は作物の栽培に向かない。

 その上、土質が悪い。

 作物の栽培に向いている壌土や植壌土ではなく、砂礫土であるからだ。

 砂礫土は土全体の三分の二以下が砂の土だ。それに水を混ぜて手で握ると固まるが、粘りがなくザラザラしている。

 これでは水はけが良すぎる上に土壌の改良にも手間暇がかかってしまう。

「まずは住居と食料の確保を念頭においてしばらく行動するべきなのだろうな・・・」

 俺はシリウスを連れて作業に戻った。


 その夜、飯も食い終わり、風呂に入ろうかという頃に俺は村人全員とこの村をどうしていくかについて話し合う時間を設けていた。

「俺はこの村の復旧復興で終わるつもりはない。俺はこの村を帝国内でも簡単に見捨てられないほどの街にするつもりだ」

 村人のほとんどがキョトンとしていた。

 その目からは何をこいつは言っているのだろうという目である。

「ここは帝国とテリーゼ王国との国境に面していたが、この村を守る切り立った山は崩れてなくなり、容易に侵攻してくることができるようになってしまった。そして、侵攻してくるとしたら手薄な村からになる」

 ここはどうだ? 

 まさにうってつけの場所になる。

 そうなった場合、これと言った産業や資源などのない村はどうなる?

 確実に切り捨てられる。

「だからこそ、帝国にこの村だけは手放す事のできない村いや・・・街にする」

「そ、そりゃあどうやってだい?」

 爺さんが・・・いや、今は青年か。

 そこで俺の考えを村人全員に聞いてもらう事にした。

 今ままでの個人が畑を管理し、税を収めると言った方針ではなく、村自体を一つの会社にしてしまい、労働の対価として村人に給金を支払う、その時給料から納税のために収める金額を少額ずつ積み立て、まとめて会社が支払うというものだ。

 そのために必要なものは人材であり。

 病気や怪我をしてしまった時のために医者。

 農作業に必要な道具を整備したり武器や武具などを作れる鍛治士。

 生活の雑貨や日用品を取り扱う商店など村を大きくするために必要な職種だと思う。

 昔いた医者は今回の件でいなくなってしまったから、腕の良い医者をヘッドハンティングして来なくては!

「さて、どうだろうか? 意見があれば言ってくれ」

「意義はないが、ただ本当にそんな事を貴族様が許してくれるのか?」

 一班でよく力仕事に精を出していた男だった。

 その働きぶりから彼のことはよく覚えていた。

「そこは話してみるだけの価値はあると思う。あの方は、俺たちが目に見えて金になると分かれば必ず融資してくれるはずだ。その辺りも考慮して交渉してくる」

 それからこの村をどうしたいかを全員で共有した。

 どんな街にしたいか、どんな生活をしたいか、どんな作物を植えるか・・・などたわいない話もあったが、その話の中で俺はこの村の特産品にするべきものの存在に気づく。

「野葡萄・・・葡萄といえば・・・ワイン。ワインか! 良いね!」

 ワインの歴史は古く紀元前メソポタニアにまで遡ることが出来るくらい人類と密接に関わってきたお酒だ。

 作り方を乱暴に言えば潰して樽に入れて暗所に放置しておけば出来る。

 現代で言えば投資対象になりうるものの用語にSWAGスワッグ銀・ワイン・芸術・金と言われるほどに良いワインとは所持しているだけでその価値が上がるのだ。

 そこまでいかないにしても、味の良いワインを作ることができれば莫大な資金を手に入れることも可能であると俺は考えた。

 ギドが難しそうな顔で口を開く。

「ワインですかい。確かに金は稼げると思いやすが、大丈夫なんですかい?」

「何がだ?」

「作り方や管理の仕方なんかもありやすが、そう上手く行きやすかね?」

「上手くいかせるさ。それしか、この村を救うことは出来ない」

 俺はまっすぐギドを見る。

 ギドも目線を逸らさずに俺を見た。

「本気なんで?」

「もちろん」

「かわりやせんね大将は」

 ギドはフッと笑い満足げに頷くとその場で姿勢を正した。

「あっしは大将について行きやす」

 ギドは深々と頭を下げた

「うちもリオン姉について行くっちゃ!」

 カミュールが俺に飛びかかってきたので受け止め、そのまま小脇に抱える。

「それじゃあ、俺たちは風呂に行くから」

 俺はカミュールをつれてシリウスが作成した露天風呂に入りに行った。


 シリウスが掘り当てた温泉と水により、生活用水に困ることはなくなった。

 昔は川まで水を汲みに行っていたのでその労働時間がなくなったことがありがたい。

 それに汗を流せる場所があることは何より嬉しかった。

 脱衣場で服を脱ぎ、シリウスがこだわりぬいた露天風呂の浴場に足を踏み入れた。

 そこは懐かしい空間だった。日本の温泉に来ているようでなんだか落ち着いて入ることができそうである。

「うちが背中を流してあげるっちゃ!」

 洗い場で体を洗おうとしていたら、カミュールが走って来た。

「コラ、走るんじゃない。転けたら危ないだろ」

「その時はほら、リオン姉に膝枕してもらいながら介抱して欲しいちゃ!」

「お背中流させてもらうっちゃ」

「わかった」

 ゴシゴシと植物のタワシで背中を擦られながら、ボーとしているとカミュールが口を開く。

「リオン姉。うちとっても寂しかったっちゃ」

「そうか。俺もお前達と一緒にいられなくなって寂しかった」

 俺はコイツら・悪ガキメンバーとずっと一緒だと思っていたから。

 だが、俺がヘマをしたせいでコイツらと離れ離れになっちまった。

 悪いことしちまったな。

「こ、これってあの時の傷・・・だっちゃ・・・」

「ん? ああ、背中のやつか」

 カミュールの手が止まる。

 俺の背中と胸には少し大きな傷がある。

 魔法による攻撃が背中から胸へと貫通した跡だ。

 その傷痕をカミュールの細い指が撫でていた。

「こそばゆいって! カミュール・・・」

 俺は固まった。

 彼女が泣いていたからだ。

「うちらがもっと、もっと強かったらリオン姉は、あんな呪いに犯されることはなかったっちゃ・・・」

 そんな顔するな。

「泣くなよカミュール。俺は俺のしたいように振舞ってヘマしてこうなったんだ。誰も悪くない。自分を責めるな」

「リオン姉・・・うちは」

 俺はカミュールの頭をガシガシと撫でてやる。

「よし、カミュール。交代だ。背中のついでに髪を洗ってやる」

「ええっと、うちはいいっちゃ! 一人で出来るっちゃ!」

「いやいやいや、俺の背中を洗ってくれたほんのお礼だよ。さあ後ろをお向き、大丈夫だ。人の体を洗うのは得意だから」

 照れて逃げようとするカミュールの手を掴んで止め体を洗い始める。

 何と言っても五年間は使用人として働いていましたからね。

 洗い終わる頃にはピクピクしてました。

 綺麗に洗ってあげたはずなのにな。

 それにしても、先史文明が産んだウチの子・シリウスはすごいね。

 どう言う仕組みかは知らないけど蛇口を捻ると水と温水が出るしシャワーも使える。

 それにシャンプーにボディーソープまであるのには驚いた。

 その後動ける様になったカミュールと一緒に露天風呂を堪能したのであった。

 カミュールが少し遠くで湯に浸かっていたのは気になったけども。

 


 海を見下ろせる岬に俺は立っていた。

 日差しを受けてギラギラと光を反射し流動する海の光景を眺めている。

 またあの訳のわからない夢か。

 どうせまた覚めるだろうということで、俺はふて寝することにした。

 目をつぶって寝転んでいると、棒か何かで体をあちこち突かれ始めたので流石に起き上がる。

 やはりあの黒髪の女の子がいた。

 刀で俺をつついていた様で手には抜き身の太刀が握られていた。

「なんじゃ、まだくたばっておらんかったか」

「夢だからって、やっていいことと悪い事があるて知ってるか?」

「妾には関係ないのぉ。下郎よそもそも外見は好みなのに魂がこれでは・・・妾もつくづくついていないのぉ・・・」

「下郎ではないリオンだ。それで、お前の名は?」

 黒髪の少女は刀をしまい、背を向け歩き去る。

 そして、昨日同様にこの不思議な世界は歪み崩壊して行った。

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