第五話 故郷

 俺が生まれ育った村は無残な姿で俺を出迎えた。

 ギドの話は聞いていたが、俺の想像をはるかに超える規模の大災害と言っていい。

「山が、半分から上全てが無くなるほどの土砂災害だと? ありえないだろ!」

 山の斜面が崩れ落ちるくらいの土砂災害を想定していたよ。

 まさか山を囲む三つの山、その全てが半分から上が崩れ、その土砂が村に流れ込むとか・・・ありえねえだろ。

 こんなの死人が出てもおかしくない状況下でよく避難することが出来たものだ。

「マスターリオン。魔術を使った形跡が多数発見されました。これは災害ではなく、引き起こされた人災である可能性が高いとワタシは推測いたします」

「そうでやしょうね。この前兆を予期したのは魔法や魔術に明るいモナルとリアナでやすから」

 ギドがニヤリと笑いながら言う。

 リアナとモナルは双子の兄妹で俺がつるんでいた悪ガキメンバーそのうちの二人だ。

 兄がモルナで妹がリアナだ。

「アイツらやっぱりそっちに才能があったか」

「へい。今は二人とも帝都に戻ってやすが、カミュールがあっしと村に来やしたから今はカミュールが村をまとめてくれているはずでさあ」

「ちょっと待て、なんだ帝都って? 帝都に戻るってどう言うことだ?」

「そりゃあ、大将との約束を果たすためにみんな頑張りや下からね!」

 ん? ちょっとお話が見えないよ?

 なんで帝都に行くことが約束? 

 そもそもなんでお前たちだけでワクワクドキドキな冒険に出てんの?!

「遅いちゃギド! 何をして・・・」

 青い髪に灰色の瞳をした涼やかな美女が眉を吊り上げてこちらに歩いて来た。

 頭の後ろで結い上げたポニーテールが左右にふわふわと揺れ、彼女が着ているサクラ色の着物に紺色の袴がよく似合って居る。

「もしかして、リオン姉?」

「よう、綺麗なったな、カミュール」

 俺が片手を上げて挨拶をすると弾丸のごとく突っ込んで来たカミュールに押し倒され彼女の下敷きにされる。

「リオン姉だ! リオン姉!! クンクン・・・はあはあ・・・リオン姉の匂いだっちゃ〜」

「ちょ、おま・・・」

 俺の首筋に顔を持っていき俺の匂いを嗅ぎ始めたのだ。

 俺は押し退けようと試みるが、乗られている場所が悪いのかカミュールをどかせない。

「クッソ! ちょっとマジでやめろ! おいギド! 見てないで助けろ!!」

「いやー。なんと言いやすか、しばらくコイツの好きにさせてやろうかなと思いやして」

「お前マジでふざけんなよ!」

「あーもう絶対、はなさいっちゃ」

 カミュールお前ほんとどこ行って来たの?

 俺はシリウスにカミュールをどかす様に命令し、シリウスはそれを実行してくれたお陰で体臭嗅がれると言う羞恥プレイから逃れることができた。

「ギド。お前後で覚えてろよ」

「そいつは、なんといいやすか・・・」

「お前の沙汰は追って下すとして、カミュールお前一体どうしたんだ?」

「何がだっちゃ?」

 小首を傾げながら言うな! いやマジで吹き出すぞ、お前。一体どこのうるさい星に行って来た?


 俺は現状の確認のため、村の人間に会うべく、避難所としている集会場へと向かった。

 三十畳ほどの集会場には四十人ほどの村人しかいなかった。

 しかもその殆どが老人である。

 あー。終わってね?

 いや、でも諦めるの早いかもしれない。

 もしかしたら出払っているだけかもしれんし。

「あれれ? 他の六十人ほどは、狩に行っているのかな?」

「大将。現実逃避しないでくだせえ。ここに残っているのがおそらく全員ですぜ」

 ここに残っている人間はギドが俺の所に来る前に復興か移住で、もめていた復興派の村人だけがこの場に残り、ギドの帰りを待っていたと言うことになる。

「ギド! それに、リオン!」

 俺がこの村にまだいた頃に隣に住んでいた爺さんだった。

 名前は知らん。だが、よく食べ物を貰っていたから顔は覚えている。

「よう爺さん。元気そう・・・でもないか」

「ああ。若え奴らはギドが出発したその日の内に荷物をまとめてこの村を捨てて出て行っちまったよ」

「その上残り少ない食料を奪ってな」

「老い先短いが、こんなことで死んじまう事になるとは・・・」

 爺さん婆さんたちがグツグツと恨み言を垂れ流し始めた。

 二日前に食料が底をつき、これでは飢えて死んでしまうと言うことで山に行くが小動物はおろか食える野草もなく、木の根を齧り飢えをしのいでいた。

 ”ギドが必ずリオンを連れて戻ってくる、それまで耐えろ”そう励ましあってなんとか二日持ちこたえていたそうだ。

「そうだったのか。わかった! すぐに飯にしよう! ギド、カミュール、シリウス手伝ってくれ!」

「へい! 大将!」

「もちろんだっちゃ!」

「肯定とマスターリオンに返答します」

 俺たちは即座に料理に取り掛かった。


 俺たちは昨日シリウスが狩ってきた熊肉を使ってスープを作って行く。

 大きな寸胴鍋に具材はじゃがいも、人参、カブなどの野菜をカミュールが切った物を次々と鍋の中に入れていきギドが鍋に水を投下し、火にかけに立たせていく。

 その間、俺は熊肉の下ごしらえと調理だ。

 熊は臭みが強いので強めの酒に付けて臭みを抜き、大きな鉄のフライパンに脂身の方から弱火で焼いて行く。

 焼け目を両面に施し、香草とともに蒸し焼きにする。

 あとは暫くしてから火から上げ余熱で火を通すために放置する。

 二時間ほど準備にかけてしまったがなんとか終わった。

 ポトフと熊肉の香草焼き四十三人前の完成だ。

「おーい爺さん達! 飯が出来上がったぞ、取りに来てくれ」

 避難所にいた爺さんと老婆達はゾンビが獲物に群がるが如く炊き出しのテーブルの前に群がり始めた。

 次々に俺たちは料理を皿に盛っていく。

 それを老人老婆達が次々と持っていき、少し離れたところで仲が良い者同士で食事を取り始めた。

 しかし、事件は起きた。

「ん? なんか爺さん達なんか光ってない?」

「何言ってんですか大将・・・マジかい!」

「本当に光ってるっちゃ」

 そう、俺たちが作ったものを食べた老人老婆の体が光り始めたのだ。

 驚いている俺たち三人をよそに澄ました顔でシリウスが言う。

「マスターリオンの問いにお答えします。光っているんですと。栄養状態を上げるためにワタシが作成した増強剤を料理に入れて起きました」

「お前かぁあああ!!」

 俺はシリウスの襟首を持ってガクガクと揺らす。

「お前どうすんの?! これどうすんのこれ!!」

 俺は片手でガクガク揺らしながら、発光する老人達を指差しながらシリウスを問い詰めた。

「マスターリオンの問いにお答えします。これは生物としての進化ですので問題はありません。ご安心ください」

 俺にガクガクされながらも真顔でそう言ってのけるシリウス。

 なに? 生物としての進化って?! 

 お前は、どんな化け物にこの爺さん達しようとしてんの?

「うおおおおおおお!!!!」

「はああああああああぁぁぁ!!!!」

「フハハハハハハハ!!!!」

 爺さん達は雄叫びを上げながら、発光しそして、白い光が辺りを包んだ。

 まばゆい光に目をつぶり、次に目を開けた時には老人老婆の姿はなく、代わりに若い男性と女性の姿がそこにあった。

「・・・ウソだろ」

 俺は目の前の光景に脳が処理できずにいた。

「リオンお前達の作った料理は最高だな!」

「美味いし、体は若かった頃と同じくらい軽いわ」

「そうだ。まるで若返って・・・アンタ、若返ってない?!」

「そういうお前こそ!」

 そう、発行していた老人老婆達は若返ってしまったのだ

 奇跡の光景を目の当たりにしたその夜、村では大宴会が行われた。

 宴会といっても熊肉と消毒に使おうと思っていた度数の高い酒しかないが、それを水で割り皆飲んでいる。

 彼らはとにかく飲んで騒ぎたかったのだ。

 若返った男性陣と女性陣その喜びようはすごいものでした。



 海を見下ろせる岬に俺は立っていた。

 日差しを受けてギラギラと光を反射し流動する海の光景を眺めている。

 また訳のわからない夢か。

 俺は、なんとなく後ろを振り返るとやはり、昨日の夢に出て来た女の子が立ってた。

 肩を小刻みに震えさせ、まるで笑いを堪えているかのようだ。

 そんな訳ないのだが、よほどご立腹の様子である。

「どうして死なぬのだ!」

「お前俺に何かしていたのか?」

「ふん。教えてやるものか!」

「まあいいけどな。俺はリオンだ、お前の名は?」

「誰が貴様の様な--ピギャー!!!」

 おお、やっぱり躾が降るのか。

 面白いもっと遊んでやろう。

「ほら。お嬢ちゃんいいものあげるから、お名前教えてねー」

「こんのぉ・・・ふう〜。その手には乗らぬわ! 誰が教えるものか! あっかんべー」

 彼女はあっかんべーをしながらどこかへいなくなってしまった。

 そして、昨日同様にこの不思議な世界は歪み崩壊して行った。



 大宴会から一夜明け、地面に転がる若返った男性陣を甲斐甲斐しくも面倒見ている女性陣の姿があった。

 あちこちでイチャコラしてますよ。

「えー、そろそろこの村の状況の把握をしたいので手伝ってくれませんか?」

「もちろんだリオン! なんでも言ってくれ! なあみんな!」

「おうよ! オレ達が開拓した村だ! 俺たちの手で復興してやるよ!!」

「大船に乗った気でいな!」

 やる気満々の男性陣に若がえった女性陣はキャーキャー言ってる。

 正直、昨日まで婆さんだったと言っても信じてはもらえないだろうな。

 男女の比率としては二十対二十なので、十人で一グループとして行動してもらう事にしよう。

 俺は男性グループ一班には木や樹木の撤去を依頼し、二班には石や岩の撤去を依頼した。女性陣には大変だが泥や土の撤去をお願いした。

 俺とギド、カミュールは男性グループに混じって岩や大木の破壊と移送を行う。

 ここで出た丸太や岩、石はこれから建てる集合住宅や塀に使うから一箇所にまとめて管理し、建てれる場所の確保と数が揃い次第加工を始めていく予定である。

 シリウスには、地形の把握とこの災害の真相究明、女性陣の護衛のためにつけている。彼女自身も優秀であるし、彼女のドローンも有用であるからだ。


 土砂と岩や石で足場が悪い上に、不均等に飛び出した樹木が俺たちの行く手を阻む。

 ギドは得意の拳術で大きな岩を砕き、カミュールは刀で大木を輪切りにしていた。

「こら、カミュール! 輪切りにしたら材木として使えないだろうが! どうせなら運べるくらいの大きさまで小まめてくれ!」

「あうう、わかったちゃ」

 少ししょんぼりしたようだが、仕方ない。財源は決まっていると思うし、節約できるところは節約したいしな。

 さて、俺は、この刀の切れ味を見てみるとしますか。

 俺はウェールズ商会でもらった刀を抜く、鋼の刀身が現れ、ギラリと光を反射した。

 人が縦に二人分ほどある大きな岩の前に立つ。

 なんでそんな岩の前に立っているかって? 

 そりゃ、なんとなく切れる気がするから。

 俺は刀を振り上げ、ゆっくりと押し当てた。そう、押し当てたのだ。

 すると刀身が岩に飲み込まれた。まるで豆腐に包丁を入れた時のようにスッと刀身が吸い込まれ、そのまま一刀両断してしまった。

 ものすごい切れ味を見せた刀をじげしげと見つめる。

 やっぱり俺の目利きは正しかった様だ。

 その調子で岩や大岩、大木を刻んでいく。

 役割分担がしっかりしているお陰か、スムーズに作業は進んでいった。

 地形と災害の真相の究明の仕事を終えたシリウスは暇を持て余しすぎて、二日目に井戸と温泉を掘り当て、村は騒然となった。

 井戸はすでにシリウスが集められていた石を使い井戸の周りに石を積み上げ、立派な井戸を完成させていたが、温泉はシリウスがこだわり始めたため作業が難航している。

 そんな生活を三日くらい続けていたら、結構材料が溜まり始めたので、大木の処理に回していた班に空堀を掘らせ始めていた。

 前の街みたいに外敵に無防備なのはどうも安心して生活できないので、村を取り囲むほど大きな塀を築き外敵から身を守れる村に改造していく計画だからだ。

 現場監督には俺がつき、一緒に作業を共にしながら空堀を掘っていく。

 だが、道具の破損や不足が目立って来ていた。

 手で掘る訳にはいかないからな。

 さてどうするかな・・・期限はあるが一度男爵家に戻って報告を上げてから資金援助を願い出たほうがいいだろうか?

「マスターリオン。素晴らしいものを見つけました。と報告いたします」

 そんな事を考えていたら、シリウスがそんな顔をしてニヒッと笑う。

 だからお前のその笑った顔なんでそんな不細工なの?

 笑わせに来てるだろ!






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