第十一話 村へ

マルティナと別れた俺たちは、ウェールズ商会へ向かうため馬車を走らせた。

入り組んだ貧民街から港の近くにある商業街へと続く多道理に出た事により、東から昇って来た、太陽の日差しが眩しくて手で日差しを遮る。

「ん? なんだあれは・・・」

その遠くの空から何かが飛んで来ているのが見えた。

それは大きな翼を羽ばたかせながら、それはどんどん大きくなっていき、姿形がわかる様になって初めてなんであるのかを知った。

「ドラゴンだ」

白金色の大きなドラゴンだ。

ファンタジー世界でも人間に仇なす存在として描かれたり、力の象徴として崇められたりする。

「あれって、ドランのじいちゃん!」

ウェールズ商会で出会ったあのドランの爺ちゃんがドラゴンの背にのり、俺たちの上空を通り過ぎて行った。

また再び小さくなっていくドラゴンの背を見送る。

大食らいが多いってそういうことか。

そりゃあ、食費かかるよ。

ドラゴンだもんね。

そんなドラゴン一体何体所有しているの?

いや、これは今度行ってみなくては!

そんなことを心の中で決めていたら、目的地であるウェールズ商会に到着した。


前回同様、俺は商会入り口でおり、シリウスが商会の裏にある倉庫へと馬車を走らせて行く。

俺がドアを開けようと手を伸ばすと、ドアが中から開き、オリガさんが店の中から出てきた。

オリガさんは表を掃除するために箒と塵取りを手に持っていた。

「あら、大将さん。今日は朝早くから来てくれたんだねぇ」

「おはようございます。頼んでおいた追加分を積み込みに来ました」

「もう準備できてるよ大将さん。さあ、中へどうぞ」

店の中へと入り、オリガさんはカウンターの中へと入っていき、俺はカウンターのそばまで歩きよって行く。

「ありがとうございます。いくらになりますか?」

オリガさんは帳簿を開いて、確認をする。

「総額で三百万ゴルドーだね」

「ではちょうどで」

俺は革袋から言われた金額を取り出し、支払いを終えた。

「毎度。今日はもう帰っちまうのかい?」

「はい。その予定です。やるべき事が山済みなので」

「そうかい、まあ体を壊さない程度に頑張りなよ」

「ありがとうございます」

そうこうしていると、商店の奥からシリウスがやってくる。

「マスターリオン。全ての積み込みが終わりました。っと報告をいたします」

「わかった。それじゃあ、また来ます」

「あいよ。またきておくれよ大将さん」

俺は手を振ってウェールズ商会を後にする。


城門北へ向かうとマルティナさんが腕組みし、男の子達に正座させていた。

「お待たせしましたマルティナさん」

「おう、待ったぞリオン」

「それで・・・これは・・・どういう状況なんですか?」

正座させられている子供達についてマルティナさんに説明を求める。

「ああ、これかい? こりゃあ、こいつらがはしゃぎすぎて、喧嘩を始めてな・・・その仕置だ」

正座までの経緯はというと。

子供達久しぶりのお出かけでテンション上がります →もともとやんちゃな子が多い中、制御する人がマルティナさんが一人 →それまで大人しくリオン達を待っている子供達 →少し眠くなってきて寝ました →起きたら男の子達同士でじゃれ合いが喧嘩に発展 →騒ぎで目が覚めたマルティナが現場を視認 → 正座 ←いまココ 

「なるほど、仕置ね。俺もよく叔母さんに仕置きされてたな・・・」

いや、悪いのはわかるけどさ、それほどのこと? 

みたいなことってあるよ。それに結構礼節に厳しいところあったからな。

「そろそろ出発しようと思うんだが、いいかな?」

「そうだな。ほらオメエら正座終了。さっさと立ちな、置いて行くよ」

「荷物の上になるが、その上に乗ってくれ、極力全員乗せて早めに村まで帰りたいから」

「だ、そうだ。全員乗り込みな。ほら何プルプルしてんだい! 早くしな!」

正座から解き放たれ、足が痺れて動けない状態の男の子達の足を指でツンツンと突きながら、マルティナさんは檄を飛ばす。


全員が荷馬車に乗り終え、荷台は子供達でいっぱいになっていた。

・・・奴隷商か、不法移民を運ぶブローカーみたいだな。

「あたいは後ろで子供達がはしゃがないように見ているよ」

そう言って、マルティナさんは荷台に乗り込んだ。

俺はシリウスと馭者席に乗る。

不釣り合いなメイド服を着たシリウスと男物の服を着た俺が乗るのだから、それはそれで視線を集めるわけだが、気にしないことにして、荷馬車を村へと走らせ始めた。


荷馬車を走らせしばらく経った頃、突然街道の脇からゴブリンが五体飛び出して来たが、シリウスは荷馬車を止める事なくそれを引き、気にした様子もなく馬車を進めた。

「今のは確実に倒したほうが良かったんじゃないか?」

「そうでしょうか? っとマスターリオンの問いに疑問でお答えいたします」

「いや、確実に倒していったほうが、魔石が手に入るだろ」

そう、この世界の人間、そして魔物・魔獣は常に魔素にさらされている。

生きる全ての生物が体内に魔石を形成しており、その一番の要因は食事だ。

特にこの世界の酸素を植物・作物・樹木の恩恵は計り知れない。

この世界の植物は常に日光と二酸化炭素、そして魔素を吸収している。

図とするならこんな感じだろうか?


魔素と二酸化炭素を取り込み成長する植物 →そんな植物を食べて大きくなる小動物 →それを人がとって食べる →その事により母体は魔力を持ち、それを授乳する事により赤子は幼い頃から魔力を宿し、魔石を形成していく。


魔石は大気中に漂う魔素に干渉し、魔法という超常の力を発動させることが出来るこの世界の生物が持つ特殊な器官とも言える。

その魔石は魔道具の燃料としての需要が高く、魔石の大きさが大きいほど高値で取引される。

まあ中には人間の魔石を売りに出そうと人を殺しまわった殺人鬼や墓荒らしがいたらしい。

だが、人間が形成する魔石は生命活動が停止すると同時に体内分解されてしまい残ることがない。しかし、魔物や魔獣は魔石化した状態で取り出すことが出来るのだから何かしらの性質自体が違うのだろう。

俺は後ろを伺うと、五体中三体は絶命していたが、二体のうち一体が角笛を吹きならす。

「おい。なんか鳴らしてるぞ」

「はい。この先で二十体ほどのゴブリンが待ち伏せしているようです。っとマスターリオンに申し訳なさそうに返答致します」

「なさそうってなんだよ。そっか・・・いちゃうのか。罠とかある感じか?」

「いえ、ただのゴブリンどもです。ドローンを飛ばして殲滅致しますか? っとマスターリオンに私の性能を披露したくてウズウズしながら返答をお待ちします」

お前の性能というか、ドローンの性能だな。

「そっか。ウズウズしちゃうか」

「それはもう! っとマスターリオンに返答致します」

「わかった。そんなキラキラした目でこっちを見るな。ただし、魔石は回収する事。いいな?」

「イエス・マイマスター」

シリウスは銀色のドローンを三機飛ばし、一機は後方へ飛んでいき、残り二機は前方に飛んで行く。

後方へ飛んで行ったドローンは角笛を吹き鳴らしたゴブリン達二体を倒し、五体分の魔石を回収して帰還するとシリウスの手の平に魔石が載せられる。

魔石を置くとドローンは前方に飛んで行く。

シリウスは俺の手に魔石を乗せる。

親指の爪ほどの大きさだが、これも立派な臨時収入だ。

俺たちの荷馬車が進み、ゴブリン達が待ち伏せしていた場所では、シリウスが伝えてきた通り、二十体のゴブリンが倒され、ドローンにより魔石の回収を終えているところだった。

「マスターリオンに報告いたします。現時点をもって敵の制圧を完了しましたっと」

「ああ、なんというか・・・お疲れさん」

「勿体無いお言葉です。っとマスターリオンにお伝えいたします」

一悶着あったが、なんとか村へと無事に変えることができた。

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