第十話 医者・マルティノ

朝、日の出とともに起きた俺は子供達の朝食を作り、マルティノさんの食事を持って部屋を訪れていた。

「おは・・・よ・・・う・・・」

俺は目の前の光景に固まった。

ベットに寝ている女性・マルティノさんの姿が激変していたからだ。

黄ばんだ白髪は黒々と艶のある黒髪になり、シワやシミなどがあった手や顔は若々しくハリのある肌になっていた。

いや、これって若返り過ぎだよ!

昨日までが七十代としたら、今の年齢は十代だからね!

俺はこの光景を知っているし、こんな事をする人物は一人しかいない。

一度マルティノさんの部屋を出てリビングに向かうと、シリウスは椅子に座り、机に足を上げた状態で新聞を読んでいた。

メイド服着てそれやるなよ。

幻滅するだろ、メイドに対してだけどさ。

「シリウス、お前また盛ったな?」

「なんのことでしょうか? っとマスターリオンに疑問を投げかけて返答致します」

「今度はかなり若返っているのだが?」

「・・・し、知りませんねえ。っとマスターリオンに申し上げます」

お前しかおらんだろうが!

「栄養剤か? それとも別のヤバい薬か? なんだお前の持っている薬は全部若返るのか?!」

「そんな訳ありません! 少し細胞分裂を活性化させたり、ホルモンの分泌を促進したり、ちょっと人が取り込む魔素量を増大化させて身体機能を強化させて進化を促しただけです!! っとマスターリオンにワタシの身の潔白を切実に訴えます!」

「使うなら使うといえ! そして勝手に人様を進化させるな!」

「マスターリオン。ワタシは少し実験したかった。それだけです。それに好奇心が旺盛なところがチャームポイントなバイオロイドって可愛いと思いませんか?」

悪びれもなく正直に実験がしたいと言いやがるし、自分で可愛いとかいう時点でこいつはぶっ飛んでるから。

そしてこいつは致命的に笑顔がブサイクだ。

「はぁ、とりあえずお前も来い、そしてマルティノさんに謝まるんだ」

「実験する気は無かったんです! ほんの出来心なんです!! っとマスターリオンに涙ながらに訴えます! ウルウル」

一切涙出てねえだろうが!

「・・・お前反省してないね」

「海よりも浅く、山より低くは反省しておりますっとマスターリオンに報告申し上げます」

俺はシリウスの耳を掴み歩き始めた。

「ちょっと! イタイ! もげちゃう! もげちゃいますから! っとマスターリオンにワタシは心の底から懇願いたしますぅ!!!!」

俺はシリウスの耳を引っ張ってもう一度、マルティノの部屋へと戻った。

マルティノの部屋へ再び行くと、彼女は手鏡を見て固まっていた。

「・・・何が起こっているんだい?」

「ミス・マルティノ。ワタシはマスターリオンに仕えているメイド・シリウスです。実は、ミス・マルティノの病を治す為に薬を調合し、病を治すことには成功いたしましたが、その副作用で体が変化・進化してしまい若返りという現象を引き起こしてしまいましたこと、ここに深くお詫び申し上げます」

そう言ってシリウスは深々と頭を下げた。

確かに嘘じゃないけど、なんか納得いかねぇわ。

「まさか、あたいが長年患っていた病が治るなんて思いもしなかったよ」

「はい。ミス・マルティノの病は魔素を体内に取り込みそれを吸収・放出するべき回路に何らかのエラーが生じ、魔素を際限なく取り込み続け、溜め込んだ魔素が体の中で結晶化する魔石病です」

「なっ・・・不治の病じゃないか」

「先の時代にはワクチンが開発され、世界全土の人間が摂取していましたが、今の時代では普及するどころか廃れてしまったようですねっと、マスターリオンとミス・マルティノにお伝えします」

・・・実験とか好奇心とか言っていたけど、中々コイツも考えていたのか。

「まだあんたの名前を聞いていなかったね。もう知っているだろうけど、あたいはマルティノ。あんたは?」

「俺はリオンだ。マルティノさん俺の村にはあんたが必要だ。その医者としての腕を村のために使ってはもらえないだろうか?」

「ここまで求められることなんて、帝都ではなかったことだね・・・あたいは決めたよリオンあんたの村に行って医者をやる」

こうして俺は村に来てくれる医者を見つける事が出来た。

そうと決まれば・・・っとマルティノさんは早速準備を始めたのだが、持っているもの自体が少なくい。

持ち物は診察カバンだけであった。

「え、それだけでいいの?!」

「ん? ああ、診察器具だけはどうにもならないが、衣服なら買えば済む。汚れれば魔法で浄化すればいいからな、持っている服と言えば寝間着と仕事着の白衣だけだぞ」

男前な人だな。

「子供達も希望者は連れて来てもいいか?」

「もちろん。今は学校もないが、将来的には街にする予定だからここよりはいい環境にすることを約束する」

「それは楽しみにしておこうか」

マルティノさんの後に続いて部屋を出て、子供達が待っているリビングへと向かう。

中ではシリウスが子供の面倒を見ている。

ワイワイとしていたリビングに俺とマルティノさんが入ってくると、リビングは静かになった。

そして、一人の女の子がマルティノさんに抱きつくとそれを皮切りにシリウスの周りにいた子供達が群がり始める。

「こんなに若返ってもあたいだってわかってくれるかい。そうかい」

「せんせー!!」

「おかーさーん」

マルティノさんは屈んで周りに来た子を慰めていた。

子供達が落ち着くとマルティノさんは話し始めた。

病のこと、どうしてこういう見た目になったか、これからどうするのかを。

「このままここで暮らすか、あたいと別の村に行って生活するか、どちらか選びな」

子供達は全員マルティノさんについて行くという決断を決め、そう伝えるとマルティノさんは大きな声でじゃあ準備しな、そう喝を入れる。

子供達は各自の持ち物をまとめるとまたリビングへと戻って来た。

「全員揃った様だよ。リオン」

「わかった。じゃあとりあえず、ブラブ城門北で待っていてくれるかな? 俺たちは村に持って帰る食料の手配を済ませて向かうからさ」

「あいよ。じゃあ、さきにいっているよ!」

そう言い残し、マルティノさんは子供たちを引き連れて城門へと歩いて行った。

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